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学生でも分かる資金調達・資本政策のポイントー第5回 ベンチャーキャピルが求める期待リターン-

連載を予定している内容

本コラムを担当している下平です。DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしていますが、若い皆さんにとって、株式、融資、資本政策等の用語は、とっつきづらく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、複数回にわたって、以下のような資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えします。

  • 創業期の資金調達にはどのような種類、オプションがあるのか ⇒第1回
  • 創業者の持分が希釈化していくことの意味、リアル ⇒第2回
  • 融資と株式でハイブリッドで調達し希釈化を避けることの重要性 ⇒第3回
  • 自社のビジョン、ビジネスモデルにあった最適な資金調達の手段の考え方 ⇒第4回、今回
  • 資本政策の考え方
  • 資本政策表の読み方、作り方
  • 初回調達の適切な契約スキームとは(J-KISS、みなし優先株、転換社債型新株予約権、普通株式、優先株式)
  • 資金調達の手続と契約
  • 金融機関、株主との継続的なコミュニケーションの方法

 

若い方でも理解が進むように、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、お伝えしていきます。

はじめに

前回(第4回)では、資本コストや資本コストを構成する、負債コスト、株主資本コスト、ROIC、WACCといった概念、事業モデルとファイナンス手法には相性が存在するという話をしてきました。

前置きが長くなってしまいましたが、今回は、このようなファイナンス理論を踏まえた場合、ベンチャーキャピタルから資金調達を行うことの意味や留意点について説明をしていきます。

ベンチャーキャピタルが求めるリターンはどの程度か

ベンチャーキャピタルが株主資本コストとしてスタートアップに求める期待リターンはどの程度でしょうか。筆者らDIMENSIONの肌感では、純投資を目的とした純粋なVCの場合、個別企業に求める期待リターンは、概ね以下のとおりです。

  • シード~アーリーステージでは、IRR 約60%以上(=5年で約10倍の時価総額UP)
  • レイターステージでは、IRR 約30%以上(=3年で約2.2倍の時価総額UP)

 

この数値は、ベンチャーキャピタルに出資する投資家の期待リターンを反映したものです。VCに出資する投資家としても、様々な種類の投資家が存在しますが、日本でも徐々に、企業年金、保険などの大手機関投資家がベンチャーキャピタルを1つのアセットクラスとして資金の運用対象としてみなし始めています。

筆者らが実際にファンドレイズを行っている所感からすると、彼らがVCというアセットクラスに求める期待リターンは、最低でもファンドIRR20%以上であり、投資倍率としても2倍以上を求めるケースが多いように思います。

それでは投資案件ごとの投資期待リターンが20%で良いかというとそうではありません。スタートアップ投資の場合、一般的には成功率は良くてもポートフォリオの中で10~20%といわれる世界ですので、1社1社に対して20%を求めていたのではファンド全体でIRR20%以上を創出することはできないため、結果として、1社1社のスタートアップに対しては、投資リターンとしてステージごとに20%以上のリターンを求める形となります。

これを前回見た株主資本コストの以下の計算にあてはめた場合、

株主資本コスト=リスクフリーレート+リスクプレミアム(β(ベータ) × マーケットリスクプレミアム)

※マーケットリスクプレミアムは約6%

シード・アーリーステージでは、株主資本コストを求める際に使うβ(ベータ)の値としては、10倍程度(マーケットリスクプレミアム約6%×β(ベータ)10倍=60%)、レイターステージでも5倍程度(マーケットリスクプレミアム約6%×β(ベータ)5倍=30%)の値を活用することを意味します。

上場企業のβ(ベータ)が高い上位10社でも、β(β)が5倍強~3倍(推計期間3年)という幅のなかにとどまっていることを踏まえると、レイターステージへの投資は、上場企業の中でも最もボラティリティが高い企業への投資に近く(上場していないから当然かもしれません)、シード・アーリーステージとなると、さらに求めるリターンはその倍になるというイメージです。

※注1:β(ベータ)やマーケットリスクプレミアムの定義については、前回を参照ください
※注2:上記のβは、VCが求める期待リターンから逆算して、感覚的な参考値として得た値です。

厳密な未上場企業のβ(ベータ)の算出方法は上記と異なる点に留意ください。未上場企業のβの算定方法の詳細について知りたい方は、「コーポレートファイナンス 戦略と実践(田中慎一著/保田 隆明著、ダイヤモンド社)」P224をご参照ください。

このように未上場のベンチャー企業に対するリスクプレミアムが高い理由は、VCのビジネスモデルの観点以外に、以下の点からも説明が可能です。

自社のビジョン、ビジネスモデルにあった最適な資金調達の手段を

エクイティ投資家がこのように書くのも違和感を感じるかもしれませんが、このような説明の帰結として、エクイティでの調達というのはやや例外的な調達方法であり、融資が原則的な調達方法と理解することができます。

投資リターンとして、シード・アーリーステージを想定した場合、5年間で10倍程度(=年率60%)まで時価総額を上げることのできる事業仮説というのは、そうそう多くは存在しません。ニーズが明らかに顕在化している大きな市場の場合、殆どは資本力のある企業が参入し、価格競争も激しいですから、このような成長は難しいケースが多いと思います。 

このような利回りを出せるビジネスというは、まだまだ黎明期でそもそも市場があるかどうか、これからの検証が必要なビジネスモデル(もし市場が存在すれば、ファーストムーバーとして大きな先行者利益を享受できる市場)であり、かつ、IT、ソフトウェア等、短期間でスケールすることができるビジネスモデルに限られます(その他にも、製薬、バイオ、R&D領域等、リスクは高いですが、一度特許、知的財産権を確保すれば、長期にわたってMoltを形成でき継続的に莫大な収益を上げられる可能性のある事業モデルなど)。

既に明確に市場ニーズが顕在化している事業の場合には、検証すべきことが少なく不確実性が少ないですから、融資により資金調達を行い、事業を運営するために必要な投資を行って事業運営のためのアセットを調達、そのアセットを稼働させることを通じて、売上、利益、キャッシュを創出し、融資元に利子を支払っていくことが資金調達方法の原則であり、経営権を一部譲り渡す対価としてのエクイティでの資金調達はあくまで例外的な位置付けとなるように思います。

言い換えると、エクイティによる資金調達を選択するとは、①事業モデルとして(事業ステージに応じて)時価総額を3~5年で2倍強~10倍以上、上げることができる事業の仮説検証を行う道を選択することを意味すること、かつ➁エクイティ投資家が出資する以上、IPOまたはM&Aによる、株式売却の機会提供を義務付けられる(M&Aできるかはご縁の世界ですので、契約書上、基本的に上場を義務付けられます)ことを意味し、会社にとっては不可逆的に近い選択となることに留意いただくことが必要です(近いというのは、もちろん、将来資金が得られれば創業者や発行会社によって株式を買い戻すことができるからです)。

何を成し遂げたいかで調達手段が決まる

第3回でも少し触れましたが、この選択においては、起業した理由、起業を通じて自身が成し遂げたいビジョンが改めて問われます。そもそも上場などせずにゆっくり自分のペースで事業を進めたいという方にはエクイティという資金調達はお薦めしないですし、上記のような顕在化しきって顕在化した大きな市場で差別性のなかなか構築が難しいモデルの場合にも、お薦めはしません(但し、市場が顕在化しきっていると見るかどうかは市場の切り取り方次第です)。

起業家が成し遂げたいビジョン、ビジネスモデルが世の中でまだ検証されておらず、不確実性が高いものの、顧客に愛されるプロダクトを作ることができ、世の中に広めたい、広めたときにそれなりの事業規模を想定することができると考える起業家にとってこそ、エクイティというファイナンス手段は適切だと考えています。

第4回、第5回とファイナンスの基本的な考え方、事業モデルとファイナンスには相性があるという話をしてきました。エクイティファイナンスを行うことが良い悪いではなく、起業家としての生きる道や事業方針との間で大いに相性がある点について説明をしてきました。

次回からは、資金調達の計画の考え方や資本政策について解説をします。次回は、このようなファイナンス理論の基本を踏まえて、ベンチャーキャピタルから資金調達を行うことの意味について解説をしていきます。第1回第2回第3回第4回も参考にしてみてください。

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