スタートアップによる日本のDX化【DIMENSION conference 2020】第4話

「DIMENSION conference 2020 ~日本のスタートアップ・エコシステム最前線~」は、機関投資家、事業会社、ベンチャー投資家、起業家が一堂に会し、日本のスタートアップ・エコシステムについて意見を交わすDIMENSION主催の第1回目のカンファレンス。本稿では、当日の各セッションのエッセンスを全4話にわたってお届けする。 第4話目は、株式会社div代表取締役の真子就有氏、AnyMind Group共同創業者兼代表取締役CEOの十河宏輔氏、株式会社Showcase Gig代表取締役の新田剛史氏、モデレーターを務めたDIMENSION株式会社Business Producerの中山航介氏によるSession2「スタートアップによる日本のDX化」を紹介する。

新田剛史(以下、新田)/1978年生まれ
上智大学法学部卒業後、東京ガールズコレクションのプロデューサーを経て、株式会社ミクシィ入社。ソーシャルビジネスの責任者として、数々のヒットサービスを手掛ける。2012年、株式会社Showcase Gig設立。次世代店舗創出プラットフォームサービス「O:der(オーダー)」を外食・小売店舗向けに開発、提供している。

 

十河 宏輔(以下、十河)/1987年生まれ
2016年4月、AnyMind Group(旧AdAsia Holdings Pte. Ltd.)を創業。現在、D2C支援事業やインフルエンサー関連事業を中心に、アジア・中東・インドなど13ヵ国・地域17拠点で事業を展開。
Forbes JAPAN誌「日本の起業家ランキング」TOP20に2020、2021と2年連続での選出をはじめ、アントレプレナーとして国内外で複数の表彰歴を持つ。前職の株式会社マイクロアドでは最年少取締役としてアジア全域におけるビジネス拡大に貢献した。

 

真子就有(以下、真子)/1989年生まれ
青山学院大学在学中から複数のITベンチャーにインターンとして勤務し、在学中に株式会社we-b(現・株式会社div)を起業。「すべての人が幸せに生きる世界をつくりたい」という想いのもと、2014年に短期集中プログラミングスクールTECH::CAMP(現・テックキャンプ プログラミング教養)を立ちあげ、2016年にはテックキャンプエンジニア転職も開始。現在までに20,000人以上の卒業生を輩出 。2021年に、仕事にすぐに役立つスキルを体得するオンラインビジネススクール「UNCOMMON」をリリース。


中山航介(以下、中山)
上智大学経済学部卒業後、新卒で株式会社ドリームインキュベータに参画。大企業向けコンサルティングでの戦略策定、事業投資先への出向(データベース運用・分析)を経て、国内ベンチャー投資を担当。学生時代には、国内外スタートアップ、メガベンチャーでのインターンを数社経験。

 

中山:
DX(デジタルトランスフォーメーション)が今年から大きく脚光を浴びました。実際、飲食店向けモバイルオーダーサービスを手がけられる新田さんは、コロナ前後での飲食店業界のDXで感じられていることはありますか?

新田:
弊社では、「モバイルオーダー」という非接触で注文と決済が完結できるサービスを提供しています。2013年の世界でも例がない時代からはじめたため、数年間は見向きもされない状態でした。

スマホで事前に注文・決済したい消費者はいても、店舗のオペレーションを変えようとする企業はいなかった。キャッシュレス、モバイル決済、QR決済というのは、オペレーションや接客そのものをすべて変えてしまうので、飲食チェーンなどは簡単には踏み切れないわけです。

それが2019年の軽減税率でモバイルオーダーに対するニーズが高まり、さらに2020年の新型コロナウイルスの流行で問い合わせ数が10倍規模まで増えました。お店でイートインできず、否が応でも変化せざるを得ない状況で一気に進んだ形です。

DXの進歩が少なくとも3年分は早まったんじゃないか、というレポートも出ていますね。

中山:
スマホでのモバイルオーダーは徐々に普及している一方で、店舗内でのシステム化についてはいかがでしょうか?

新田:
日本はPOSシステムをはじめとして、レガシーなシステムが張り巡らされていて、簡単には変われません。そのシステムもインターネット言語で動いていたら良いのですが、多くはネットやクラウドと疎通できない形で作られている。ですから新システムを導入するだけでダブルコストになるため、正直言って全く普及が進んでいない状況かなと思います。

中山:
経営者が相当コミットしないとその辺りは難しそうですね。

新田:
無理ですね。当然ながら、新規システム導入の投資判断も必要ですから、本当に経営改革の意識でやらないときついんじゃないかなと思います。

中山:
AnyMindの十河さんはD2C製造の委託先工場マッチングプラットフォームや、空港におけるデジタルサイネージ広告(DOOH)など、様々な産業でのDXを推進されている印象です。DX推進のポイントはどのあたりにあるのかお伺いしたいです。

十河:
D2Cでいうと、「収益に本当にダイレクトにつながるか」という点が検討する上で重要であると思っています。

例えば具体的な話をすると、D2Cのブランドを支援させていただく中で重要になるのが「在庫数の最適化」です。売上データと在庫数データがシームレスに生産システムと繋がって、リアルタイムに工場側に発注をかけることができれば「在庫数の最適化」ができます。

加えて、私たちの提供している工場マッチングによる、ものづくりプラットフォーム(AnyFactory)でいうと、どの工場でどういう素材で作れば原価も抑えられて、かつクオリティの高いものが作れるかというデータを分析・蓄積していく。それによって最適なプロダクトを、最適な原価で生産することに繋げています。

こういった収益につながる具体的な話をブランド様とすると、間違いなく共感してもらえます。とはいえ、既存のサプライヤーがいたりもしますので、我々としては売上や利益の向上に貢献できる部分をしっかりお伝えして、将来を見据えた意思決定をしていただく手助けをしていくことが大事なのかなと思います。

中山:
今のようなお話を聞いて、実際に行動する会社とそうでない会社ではどのあたりに差があるのでしょうか?

十河:
そうですね。既存モデルである程度成功している場合、それを変えるのはかなり難しいです。我々の実績で考えても新興系ブランドでどんどん新しい物を取り入れながらグロースさせていきたいというマインドを持った組織から先に顧客化している印象です。

古くからある会社はやはり経営トップの方々がしっかりコミットできるか、やり切れるかどうかが重要なのかなと思います。我々と取引させていただいている大企業は役員レベルの人たちが本気でコミットしてくれているから、比較的動きが早いという印象です。

中山:
大企業ではスモールスタートして事例を作って横展開するであったり、海外展開などゼロスタートのプロジェクトがあった際に進めたりする場合が多い感じですかね。

十河:
そうですね。大企業のケースの多くはスモールスタートして、一個のブランドでうまくいったらそれを横展開するというのが基本かなと思います。

海外で初展開などの場合はチャレンジする姿勢があるので非常に相性はいいですね。特に我々の場合は東南アジアに土地勘を持っている会社なので、新しい枠組みを提案しやすいタイミングかと思います。

中山:
divの真子さんはプログラミングスクール通じて経営層やミドルマネージャー層にITテクノロジーの考え方などを教えられてきているかと思います。ITを学ぶことでDXにどのような効能があるのかぜひお伺いしたいです。

真子:
テックキャンプを立ち上げた当初、私はエンジニアになるためのスクールを作ったつもりでした。それにも関わらず、エンジニアになるつもりがない人もたくさん受講してくれています。正直、なんで彼らが受講してくれるのか最初はわからなかったんですよね。

でも最近私の中で出た答えがあって、それは「迫力」だと。

弊社は最近上場したウェルスナビ代表の柴山さんから始まり、本田圭佑さんや日本交通会長の川鍋さんなど、たくさん経営者の方に受講してもらっています。しかし、彼らがプログラミングを学んだあとに、会社に帰って何か作るかというと作りません。プログラミングができない状態では、エンジニアと話が全くできないかと言われると、別にコードを書けなくてもテクノロジーの概念や仕組みは理解できる。

それでもやる、学ぶのは「迫力」、つまり本気度の現れなんですね。「本気で自分はエンジニアの力を使って会社を変革していく」という「迫力」が仲間に対してすごくプラスの影響があるんだと思います。

中山:
卒業生の皆様でDXを推進されてるような方はいらっしゃいますか?

真子:
もちろんいます。例えば一番シンプルなのはエンジニアになるということですよね。それは説明不要でDXに関わっていると思います。

他の例でいうと、エクセルでいつも係数管理していた人がマクロで自動化したら100人くらいの仕事が無くなってしまった、なんて話もありましたね。ここで重要なのはプログラミングの能力ではなくて、テクノロジーを実際のビジネスに生かして自動化したという心意気。

プログラミングも結局のところは道具のひとつに過ぎません。デジタルで世の中を良くしていきたい、効率化したいという意志のある人がプログラミングを覚えると、よりそういった取り組みに繋がりやすいのかなと思います。

 

DX推進のためにスタートアップ連携する際のポイント

中山:
皆様のようなスタートアップと連携する際に、最初に押さえておくとコミュニケーションがスムーズになるようなポイントがあればお聞かせください。

新田:
インターネット的な要素が企業内にほぼ無いような中で、DXを本気でやるということは結構とんでもない話です。当然ながら予算もそれなりに用意しないといけない。

それなのにその予算や覚悟を言わずに、情報集めも兼ねてスタートアップとコンタクトを取る大企業さんって結構多いんですよね。スタートアップの観点からすると、バーンレート(資金燃焼率)ギリギリでやっているような会社はそれだけで倒産しかねません。

ですから、最初から透明性を高くし、予算があるのか、ないのかのスタンスをはっきりさせることが重要かなと。予算がない場合でも、実績としてやりたがるスタートアップも中にはいるでしょう。

中山:
十河さんはいかがでしょうか?

十河:
新田さんと少し被るのですが、オープンに状況をシェアしてもらえるかがすごく大事かなと思っています。

DXって企業のワークフローも大きく変えてしまう可能性が非常に高いんですね。そうなってくると、ありのままの情報をもらえないと我々としても支援のしようがない、的外れな提案をしてしまうこともあります。

ですので、スタートアップと二人三脚でしっかり組んでくださる会社がやりやすいなと思っています。

我々も企業の成長に貢献できないと良い関係は続かないと思っているので、しっかりと結果にコミットするためにもすり合わせが非常に重要なのかなと思います。

 

DX推進のために今の日本に必要なこと

中山:
DX化が進むために、今後の日本や社会に求められることがあればお聞かせください。

真子:
自分の会社が成長することでしょうか。私が経営する株式会社divでは、教養レベルの教育からプロのエンジニアとして活躍できるようにするところまでテクノロジーに強い人材を育成する事業を行っています。ですから、私たちがより成長していけばテクノロジーに強い人材が増えます。その増えた人材を企業の皆さんに採用していただきたいなと。

十河:
その通りで、テクノロジー人材が増えてこないといけないのかなというのは思いますね。

弊社もグローバルに800人以上の従業員がいますが、テクノロジーの知見を持ってる人はビジネスサイドだったとしても効率性やデータに基づいて意思決定をしたがるんですね。

日本だけに留まらず、DXを進めていくことに関してはそういった人材が増えて、データを活用して事業を成長させていくというマインドを、経営者はもちろん、現場レベルも持たないといけないと思います。

中山:
最後に新田さんもお願いいたします。

新田:
DXという単語自体がビッグデータやAIに連なる流行りワードになっているので、中身を改めてしっかり確認した方がいいかと思います。30、40年前から情報システムやITという言葉はありましたが、現在のデジタルトランスフォーメーションとは中身がまったく違うわけです。

インターネットの歴史的に、テクノロジー人材というのは40代以上は本当に少なく、ほとんどが30代以下です。そうすると、会社の幹部クラスがDXの意味をはき違えていたりします。そんな状態では諸外国や中国に近づけるわけがない。

ですから重ね重ねになりますが、DXは本当に人材に尽きると思います。

 

 

 

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