学生でも分かる資金調達・資本政策のポイントー第2回 株式の希釈化―

連載を予定している内容

DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしています。株式、融資、資本政策などの用語は、とっつきにくく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えしています。

  • 資金調達の種類の概要
  • 創業者の持分が希釈化していくことの意味 ⇒ 今回
  • 自社のビジョン、ビジネスモデルにあった最適な資金調達の選び方
  • エクイティ調達のポイント(タイミング、バリュエーションの実際)
  • 融資と株式でのハイブリッド調達
  • 資本政策表の読み方、作り方
  • 調達ステージごとの適切なエクイティの契約スキーム
    (J-KISS、みなし優先株、転換社債型新株予約権、普通株式、優先株式)
  • 資金調達の手続と契約
  • 金融機関、株主との継続的なコミュニケーションの方法/株主定例の実施方法

はじめに

第1回となる前回は、「資金調達の種類」について説明をしました。

資金調達の種類としては、「融資」は返済の必要がある一方、株式発行による調達は返済が不要ですが、株式を新たに発行する場合、創業者の持株比率が「希釈化(dilution/ダイリューション)」していくというデメリットがあるという説明をしました(具体的な例は前回記載しています)。

今回は、「希釈化」した場合、実際のところ、創業者においてどのような制約/デメリットが生じるのかについて、具体的に説明をします。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどの外部の投資家から株式発行による資金調達を行う起業家は、調達前にこのデメリット、制約についてよくよく理解をしておく必要があります。

株主総会と議決権について

株式会社における重要な意思決定は、意思決定機関である「株主総会」という機関で実施されます。株主が集まって重要なことを決める選挙のようなイメージを持っていただければと思います。

国会議員や自治体の代表を決める公的な選挙では国民が一人一票を持ちます。たくさん納税しているからといって票が多くなるわけではありません。

一方、株式会社における「株主総会」では1株主1票ではなく、原則として株式1個につき議決権を1個持つことになります。創業者が1名で9000株、外部の投資家が5社で合計1000株を持つ場合には、創業者1名で9000票を持ち、外部の投資家5社が合計で1000票を持つという形になります(株式を多く取得している人がその分多くの票を持つ=資本的多数決の設計となっています。某アイドルグループの総選挙も資本的多数決の設計ですね)。

創業者の持株比率の低下の影響

取締役の選任、役員報酬の設計、M&Aの実施などの各コーポレートアクションについては、株主総会を開催して、議案を上程し、株主の賛成 or 反対の意思を確認する必要があります。意思決定の重要性に応じて、一定比率以上の賛成の決議が必要となります。会社法では、重要な意思決定であればあるほど、より高い議決権の割合での承認を必要としています。

以下の表が保有している議決権の保有比率ごとに、意思決定できる主な事項です。

上記のうち、スタートアップにおいて、特に利用頻度が多い印象のものは以下でしょう。

  • 特別決議:増資の実施、ストックオプション(新株予約権)の発行、定款の変更、資本金の額の減少(増資後の税金対策で実施するケースあり)
  • 普通決議:取締役、監査役の選任、期末決算の財務諸表の承認

 

持株比率の数字としては、2/3以上、過半数、1/3以上という数字が重要です。

持株比率が低下することによって次第に会社創業者の単独では、会社上の重要な意思決定をどんどん行えなくなっていきます。

50%が1つの大きな指標であり、50%以下の保有比率の場合には、理論上、ワーストシナリオとして、取締役を解任され、自分で創業した会社なのに会社経営に携われなくなるリスクが存在します(取締役の選任、解任は、普通決議で”過半数”が必要という点に注意してください。ちょうど50%持っていても、残りの50%の株主が全員反対すれば、過半数は得られません)

一度放出して低下した持株比率を元に戻すことのハードルは極めて高い点にも留意が必要です。元に戻す場合には、相応の対価を支払って既存の株主から株式を買い取る必要がありますが、一部の連続起業家を除き、通常の起業家の手元にはそれだけの資金はないでしょう。株式の放出は、未来にわたって不可逆的なものと心得る必要があります。

では実際に外部からエクイティで資金調達をしてきた会社の創業者は、上場時点でどの程度株式を保有しているのでしょうか。

新規に上場した会社(東証マザーズ)の平均持分比率は、オーナー創業者+持株会社で合計約50%弱で(出典:(株)プロネクサス「株式公開白書」(平成29年版))、マザーズ上場時に50%程度を持つ企業が平均的のようです。

一方、VCから調達した企業に限定して見たときにはどうでしょうか。

参考までに、近時、VCから調達してIPOした企業の上場時の株式保有比率(有価証券報告書(Ⅰの部)記載)は以下です(上場タイミング順)。

各社それぞれの成長戦略と、それに紐づいた財務戦略があり、一般論として語ることは難しいですが、自社の事業特性や事業の成功要因を踏まえて、上場時の保有比率を事前に予測、設計しておくことが重要です。

たとえば、短期で資本投下し、市場の面を早期に取ることが中長期の持続的な競争優位性、そして利益創出につながりやすい事業の場合、それなりに希釈化を許容し資金調達を実施していく方針になるでしょう(低い時価総額の大きな持株比率ではなく、小さい持株比率でも高い時価総額を目指す方針)。

上場前後での意識差

なお、希釈化することによって直接的に感じるデメリット、制約は、上場前後で多少異なるかもしれません。

上場前は、特にシリーズA以降、優先株式で一定金額以上の資金調達を実施する場合、投資契約の内容によっては新規の増資、M&A、役員の選任などの経営上の重要事項について、投資家の事前承諾または事前協議を必要とする契約が締結されることが多く、一部の事項については投資家が拒否権を持つケースも存在します。

したがって、起業家としては、持株比率の高低に関わらず、いずれにしても契約書上、事前のコミュニケーションを丁寧に行う必要があり、純粋な持株比率が論点として先鋭化、顕在化するケースは少なく、持株比率が低いことによるデメリットを直接的に意識するタイミングは多くはないかもしれません。

一方、上場後は、このようなコーポレートアクションを制約する契約を締結することは通常なく、純粋に持株比率の高低で意思決定がなされるため、持株比率の高低の問題が先鋭化しこの点を強く意識することになります。

上場後を意識した場合、創業者だけでなく、社内の役職員と自社の意思決定に基本的には従ってもらえる友好関係にある株主を含めた「安定株主」の持株比率が、上記で上げた、2/3以上、過半数、1/3以上いずれを上回るか、という点が上場前から重要となり、上場後を見据え逆算した設計が必要となってくるのです。

起業家としての2つの道

このように見てくると、起業家によってはそもそも株式を外部に渡すことなんて嫌だ、そこまでして上場なんかしたくない、エクイティでの資金調達したくないと思われる方もいらっしゃるでしょう。この点はキャッシュ or キング、起業家としていずれの道を選ぶのか、生き方の選択になるのではないでしょうか。

何が何でも会社のトップでいつづけたい、外部の株主にコントロールされたくなければ、できる限り希釈化はしない選択肢となりますし(キング)、不確実性のある事業領域において巨額のエクイティ調達を通じて早期に大きな事業を創りたい、その先のビジョンがあるのであれば、希釈化の対価としてキャッシュを得ていく(キャッシュ)、という2つの道が存在するように思います(VCから資金調達をし、上場を目指すということは、後者の道を選ぶということを意味します)。

今回は、エクイティによる資金調達を実施した場合の「希釈化」によって具体的にどのような制約が生じるのかについて見てきました。次回以降は、このようなエクイティ調達の制約を踏まえて、起業家として資金調達にどのように向き合っていくのが良いのか、そもそも、デットとエクイティと事業モデルには相性がある点について説明を進めていきます。

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