
#ファイナンス
起業家の実例に学ぶ「事業成長のノウハウ」ー第10回 資金調達の実践例ー

こんにちは。DIMENSION Business Producerの伊藤紀行です。数回にわたって、スタートアップやベンチャー業界における選りすぐりの起業家を取上げた「起業家インタビュー 」の中から、事業成長のノウハウをご紹介しています。
エンジェル投資家やVC、事業会社から出資を受けている起業家の皆さん は、どのように投資家と付き合っているでしょうか。DIMENSION NOTEの「起業家インタビュー」 の取材で起業家の皆様に資金調達について伺うと、うまく投資家の力を引き出されている起業家の方がいらっしゃることに気が付きました。
投資家としてご支援先の定例会議に出席していると、投資家へのコミュニケーションは十人十色で、実に様々なパターンがあります。ファクト情報をしっかりまとめて共有する方、情報共有もそこそこにディスカッションベースに進められる方、株主への具体的な相談を持ち込む方など。
株主の数や事業のステージにもよりますが、せっかく複数の株主を集めて時間を確保するのであれば、うまく彼らの時間をひきだせると良いですよね。資料を作成するのはとても大変でしょうし、色々と“ツッコミ”をもらうこともあるので、負担に感じることもあるかもしれません。
それでは、先輩の起業家の方はどんな風に投資家と付き合い、力を引き出してきたのでしょうか。
今回も、過去4年間に本メディアでお話を伺った起業家の皆様の、知見や実例を振り返ってみました。
本日のコラムでは
のお二方のエピソードをご紹介します。
最初に、マネーフォワード代表取締役 辻陽介さんの、実例をみてみましょう。
“――投資家の力をうまく活かすために、心がけていることはありますか?
情報を隠さないことを大事にしています。信頼構築が重要だと思いますので。情報をオープンにして困っていることは困っていると伝え、自分の能力では足りなくて解決できないので、どうしたら解決できますかと相談することです。謙虚にアドバイスをもらう姿勢も重要でしょうね。
みなさん、ノウハウやネットワーク、経験がおありなので、何かしら教えていただけるパターンは多いです。自分一人で考えるよりも、経験がある人に聞くほうが断然早いですよね。
(マネーフォワード 代表取締役社長 辻庸介氏)”
私もベンチャーキャピタリストとして投資家の立場になってみると、ご支援先の社内の動きはなかなかわからないものだなと感じます。だからこそ、悪い情報を早めにだしてくれて、それに対して真摯にアドバイスを求められると、
“よし、自分たちにできる限りのことをしよう”
“自分はこの問題への解は持っていないが、(自分の知っている)あの人なら何か知見を共有できるかもしれないので、知見をお借りしてみよう”
という気持ちになります。
辻さんのお話しの中に、“信頼”という言葉がありました。経営には良い時も悪い時もあります。悪い時こそ早めに、真摯に共有することで、信頼を築いていけるのかもしれません。
(もちろん上記はブーメランとなり自分自身にもかえってくるので、自分たち投資家も期待に応えられないときは、早く&率直にお伝えできるよう心掛ける必要があります)
そうして信頼を築いていくことで、自社の成長に必要なネットワークなどを“引き寄せる”ことができるのかもしれません。マネーフォワードの辻さんは、さまざまな投資家の力を引き出すコツについて、さらに以下のように語っていらっしゃいます。
事業を推進するうえで必要なものは、ヒト、モノ、カネと言われていますが、例えば、VCさんですと「カネ」の支援が主になるでしょう。
一方で、あるVCさんからは投資していただいただけでなく、非常に広いネットワークを活かしていただき、日本全国の提携候補先や人を紹介していただきました。「この人とお会いしたいのですが、つながっていらっしゃいますか?」とお聞きすると、だいたい1〜2日でアポをとって、すぐにお返事をくださいました。
上場後もいろいろと助けていただいています。そうしたお金だけじゃないネットワークやお客さんをもっているという強さは大切だと思っています。
別のVCさんには経営のアドバイスをいただいています。さらに、ある銀行系のVCさんがいたからこそ、オープンバンクAPIができたと言っても過言ではありません。そういう意味で、お金だけじゃない業務提携、経営のアドバイスという価値も非常に大きなものだと感じています。(マネーフォワード 代表取締役社長 辻庸介氏)“
投資家ごとに特性があり、強みも異なります。多すぎても対応が大変ですが、さまざまなタイプの投資家を巻き込むことで、事業の成長を加速させることもできそうです。
戦略的な業務提携などを見越して、うまく“応援団”を形成していくつもりで計画していくのがよいかもしれませんね。
(もちろん、紹介は信頼を勝ち得たのちにこそやってくるものなので、紹介を打診する前にしかるべきステップを踏むのがオススメです!)
一方で、投資家の意見も多種多様なので、どの意見を聞くべきか迷うこともあるでしょう。もしかしたら、声の大きい投資家の声に、自分の判断がゆらいでしまうこともあるかもしれません。
そんな時にはどうすればよいのか、ビビッドガーデン 代表取締役社長 秋元里奈さんの事例からヒントがえられるかもしれません。
“ーー資金調達でも「柔軟性」を発揮することが重要ということですね。
ここで1つ注意すべきと思っているのは、アドバイスを全て鵜呑みにしないことです。
特に成功した人ほど、「自分がやってきたことが一番良い」と話す傾向があります。最初からVCから調達して成功した人は「VCから早く調達したほうがいい」と言うし、外部から資金調達しないで成功した人は「自己資金でやり切るべき」と言う。
したがって、話の真意や本質を見極め、自分がやりたいことと照らし合わせて聞き入れるべきかを判断する。「柔軟性」は持ちながらも、決してブレてはいけない軸は大切にすべきです。
例えば私の場合、「一次産業に貢献できるか」という軸があります。いかに派手に話題にされたり資金調達額でちやほやされようとも、長期的に業界に貢献できなければ満足できないのです。
なので創業期の頃に「スタートアップの割にゆっくりやっているね」とよく周りから言われましたが、決して動じないし焦りませんでした。周りの会社で資金調達額が大きいといった話題があっても気にしません。必ずしも成長スピードが速いから良いわけではないし、資金調達も同様です。
これはすべて、長く続けて一次産業に貢献するために、自分たちの目指す世界観に対してベストだと思う選択をしているからです。
いろんな人にアドバイスをもらうのは大切ですが、“隣の芝”は見ない。自分たちがやりたいことに最短距離の道が何なのか、本質を見極めることがすごく大事だと思います。(ビビッドガーデン 代表取締役社長 秋元里奈氏)“
ブラすべきでない軸を明確にしつつ、多様な意見の中から取捨選択できるといいですね。
さまざまな案を引き出す実践案として、私たちのファンドでご支援している中で最も早いペースで成長している企業の1社さんは、
「XXさん(投資家A)がおっしゃってくださった論点について、〇〇さん(投資家B)が詳しいと思うのですが、ご意見共有いただけませんか?」
と、社長さんがうまくファシリテーションしながら投資家の多様な意見を引き出すように務めていらっしゃいます。
正反対の意見がでたり、全く想定していなかった角度から意見がでてきたりすることこそが価値になりうると思うので、皆さんもトライされてみてはいかがでしょうか。
いかがでしたでしょうか?本日のコラムでは、2人の起業家の実践事例をご紹介しました。
皆さんの自身が投資家とコミュニケーションする際に、どのように活かせるでしょうか。
上記について考え、実行することで、皆さんの更なる飛躍や爆発的な成長のきっかけが得られるかもしれません。もちろん、我々VCも微力ながら起業家の皆さんをサポートできればと思いますので、助けが必要なときには遠慮なく頼ってもらえればと思います。
その他の事例は、また次回以降のコラムで紹介していきたいと思います。こんな事例を紹介してほしい等あれば、気軽に教えてください。また第1回、第2回、第3回、第4回も参考にしてみてください。
This site is protected by reCAPTCHA
and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.