
先達に学ぶ
先達に学ぶ ー第11回 ICCからの学びー

本コラムを担当している下平です。DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしていますが、若い皆さんにとって、株式、融資、資本政策等の用語は、とっつきづらく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、複数回にわたって、以下のような資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えします。
若い方でも理解が進むように、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、お伝えしていきます。
前回まで、資金調達の種類(第1回)、株式の希釈化の意味(第2回)、エクイティとデットを両方活用することの重要性(第3回)、ビジネスモデルとファイナンスの相性(第4回)、ベンチャーキャピタルが求める期待リターン(第5回)について、説明してきました。
第6回となる今回は、今まで説明してきた、資金調達の種類、意味合いを踏まえて、資金調達の計画の立て方、作り方について考えてみたいと思います。
資金調達を計画するうえで、検討する必要がある要素は以下の点です。
① 会社として中長期の目指す姿、ビジョン(=中長期の目指す姿、事業シナリオ)
② 中長期の絵姿を踏まえて、今回の資金調達ラウンドにおける検証事項、今回のラウンドで達成したい業績目標、マイルストーン、組織状態
(=短期の事業シナリオ)
③ ①、②を踏まえた場合、今回の資金調達ラウンドの設計(=資金調達計画)
同じことを別の図で示したのが以下の図となります。
まず、①の中長期の事業シナリオについて説明します。
中長期でどのようなビジョンを達成していきたいか、目指す姿を適切に描くことができないと今回のラウンドや今後後続していくラウンドの位置づけ、事業検証の方向性を描くことができないため、仮説、構想ベースでも構わないので、描くことが必要です。ここでの、中長期のビジョンは、あくまでその時点のスナップショットでまったく問題ありません。事業、プロダクトを検証していくにつれて、顧客の解像度、市場や業界構造の理解が深まり、目指すべきビジョンもアップデートされていきますし、していくべきだからです。
特にベンチャーキャピタルの場合には、過去だけではなく、将来性を重視しての出資判断を行うため、中長期での目指すべき、魅力的なビジョンがあること、外部環境を踏まえて、事業推進をしていくタイミングが適切であること、足元の既存事業から地続きでつながっていく現実感があることが重要なポイントになるように思います。
この中長期の事業シナリオの設計については、解像度が低くともシードステージから描けると良いですし、事業推進されていく中で、どんどんアップデートしていき、シリーズA、B以降では一定の解像度で求められ、上場タイミングでは、いわゆる、エクイティストーリーとして「成長可能性に関する資料」において投資家に対して明示することが求められる部分です。
中長期の事業シナリオ、ビジョンを描き方如何で、当該ラウンドでのバリュエーションも変わってくるようにも感じます。たとえば、8年かけて時価総額1000億円の上場を目指す構想を作り、目指す説得力のある起業家、チームの場合、シードステージに近い資金調達ラウンドのバリュエーションが20億円であっても、将来50倍になる可能性があることを考えると、20億円が妥当、もしくは廉価に感じるケースもあることでしょう(実際に私の投資先でも、タイミングと経営チームに優れ、ビジョンも素晴らしかったため、シードに近い事業ステージでも、20億円前後のバリュエーションでの調達ラウンドを行った投資先が存在し、フェアバリューだったと感じます)。
また、中長期の絵姿を達成していく時間軸のなかで、適切と考える上場タイミングや規模感を、シード、シリーズAとラウンドを重ねるごとに、解像度を上げてプランに入れて行く必要があります。潜在的に市場規模が大きく、圧倒的No.1が存在しない黎明期のマーケットの場合等で、当面の間は未公開のままプライベートエクイティから資金調達を行い赤字を掘って、競合を寄せ付けないほどのマーケットシェアを取りに行く戦略を採用した場合には、上場タイミングはずっと先になるでしょう。一方で、早期に上場したほうが顧客に対する認知、信頼を得やすいケースもあるでしょう。
いずれにしても、上場準備とは、証券会社、監査法人等のステイクホルダーを巻き込んだ3年がかりの一大プロジェクトとなるため(上場の3年前であるN-3から監査法人選びから始まり、計画性をもって準備を進めていく必要があります)、遅くとも3年前からの準備が必要となり、3年以上前からタイミングについての計画は持っておく必要が出てきます。この点は、VCから調達する際にも、エグジットのタイミングがファンド満期と合うか等の観点でも重要となるため、準備しておく必要がある部分です。
中長期のビジョンがあれば、中長期のビジョン実現のために一気に資金調達をしてしまえばよいと思われ方もいらっしゃるかもしれません。実際には、ビジョンをかなえるだけの調達をするためには、時価総額を上げていく必要があるケースが通常のため、以下のようなイメージで、事業推進して時価総額を上げる→調達する→調達した資金で事業を推進し、また時価総額を上げて調達規模を増やす・・・と、資金調達のラウンドを事業成長ごとに切って設計してく必要があります(創業者として上場時に一定の持株比率を保有するという観点もあります)。
中長期のビジョン達成のために、資金調達ラウンドを区切り方が非常に重要です。資金調達ラウンドのステージ設計の巧拙はスタートアップの明暗を分ける部分でもあります。起業家としては、魅力的なビジョンを掲げ、できる限りこの調達ステージを早期化できないか(=早いタイミングで高い時価総額で大きく資金調達をすること)が1つ重要なテーマになってきていると感じますし、この1年でもステージ設計の早期化が進んでいるように感じます。ステージ設計を早めることができたスタートアップは大きな競争力を手にします。この点については、またどこかで触れてみたいと思います。
次に、②今回の調達ラウンドでの事業計画、③調達計画についてです。①で説明した、中長期で会社として目指したい絵姿、と今回の資金調達で達成したいマイルストーン、検証すべき事項が地続きでつながっていることが重要です。
”なるほど、このステップで事業を進めていけば、最短距離で中長期のビジョンを達成していけるな”
と思える、短期1~2年程度での事業推進、プロダクト、組織作りのロードマップ、今回の調達ラウンドで達成したいマイルストーンを検討、準備します。
ここまで設計できれば、その実装に必要な毎月の営業資金、投資資金を予測P/L、予測資金繰り表として作成して、数値に落とし込んでいきます。計画としては、特に営業キャッシュフローの振れ幅が大きくなるケースが多いことから、営業キャッシュフローについて、ワーストとベースのシナリオを引きます。
参考までに、今回の調達ラウンドでのマイルストーン、調達計画の具体例を以下のとおり示します。
※具体例の内容の説明
シードファイナンスを実施する時点において、MRRとしては100万円(顧客単価10万円×10社に導入)を達成できている状態。バリュエーションとしてはPre5億円で1億円の調達を想定。調達後、毎月のバーンレートを▲250万円から徐々に▲500万円以上まで増やし、次回ラウンドに動き始める1年後のマイルストーン(顧客単価15万円×50社=MRR750万円)を達成するために必要な体制整備、マーケティング投資を行うという計画。1年後、このマイルストーン達成後、バリュエーションをPre20億円まで高め、3億円以上のシリーズAラウンドの実施を想定。半年間かけて資金調達に動く計画。
資金計画としては、ワーストのシナリオでも、最低でも1年半、できれば2年分のランウエイを確保できるだけの額の資金調達を行う必要があります。直近の銀行との取引状況、銀行への相談を踏まえて、デット調達で調達できる規模感を予測し、残りの残額をエクイティで調達する必要があります。
希釈化としては1度のラウンドでできれば10%弱~15%でとどめたいため、それだけの希釈化比率で希望する調達額を調達できるバリュエーションを設定できるロジックを今の事業から作ることができるのか、もう少し事業を進捗させた後の方がバリュエーションをつけやすいのか、また、そのようなバリュエーションをつけられる投資家候補はどこか(純投資を目的とするVCなのか、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の方がバリュエーションを高くつけてくれる可能性があるのではないか、このタイミングでCVCを入れてしまっても、今後の事業提携のオプションを狭めず問題がなさそうか)、といった点も踏まえて、検討を行い、最終的な調達時期、希望するバリュエーション、調達金額、ターゲットとする投資家リストの作成を行っていきます。
投資家リストはネット上で、ラウンド×投資家で整理されたもの等、様々なものが上がっておりますが、日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)に所属する会員一覧も、1つの情報源として有益と思いますので、参考にされてみてください。
今回は資金調達の計画を考えるうえでの、大枠の考え方について説明をしました。次回は、最低限押さえておきたい、資金繰りに関する用語の説明、資金繰り表の作成について説明したいと思います。第1回、第2回、第3回、第4回、第5回も参考にしてみてください。
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