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学生でも分かる資金調達・資本政策のポイントー第7回 資金繰りのポイントー

連載している内容

本コラムを担当している下平です。DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしていますが、若い皆さんにとって、株式、融資、資本政策等の用語は、とっつきづらく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、複数回にわたって、以下のような資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えします。

  • 創業期の資金調達にはどのような種類、オプションがあるのか ⇒第1回
  • 創業者の持分が希釈化していくことの意味、リアル ⇒第2回
  • 融資と株式でハイブリッドで調達し希釈化を避けることの重要性 ⇒第3回
  • 自社のビジョン、ビジネスモデルにあった最適な資金調達の手段の考え方 ⇒第4回第5回
  • 資金調達の計画の立て方、作り方⇒第6回今回
  • 資本政策表の読み方、作り方
  • 初回調達の適切な契約スキームとは(J-KISS、みなし優先株、転換社債型新株予約権、普通株式、優先株式)
  • 資金調達の手続と契約
  • 金融機関、株主との継続的なコミュニケーションの方法

 

若い方でも理解が進むように、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、お伝えしていきます。

 

はじめに

前回まで、資金調達の種類(第1回)、株式の希釈化の意味(第2回)、エクイティとデットを両方活用することの重要性(第3回)、ビジネスモデルとファイナンスの相性(第4回)、ベンチャーキャピタルが求める期待リターン(第5回)、第6回では資金調達の計画の作り方について説明してきました。第7回となる、今回は、資金繰りのポイントについて説明します。

 

基本的な用語の確認

まず基本的な知識の確認です。以下が3つの財務諸表のつながりです。

B/S(バランスシート)とは、ある時点での会社の資金調達の方法の内訳と運用状況の内訳をスナップショットで表しています。

1年前のB/Sと1年後のB/SのBefore/Afterについて、株主に帰属する純資産の利益剰余金(欠損)について説明したものがP/L(損益計算書)で、1年間の経営成績を表します。

現預金(キャッシュ)の増減について説明したものがC/S(Cash Flow Statement/キャッシュフローステートメント)となります。

財務会計上、C/Sを作成するのは年に1回ですが、スタートアップ企業においては資金繰りが極めて重要なため、資金繰りについて毎月計画、予測をアップデートして、モニタリングをし、早期に資金調達に動いていくことが重要です。

キャッシュフローは、以下のとおり、3つの種類があります。

 

顧客からの入金、仕入先への支払い等のキャッシュイン/アウトを「営業キャッシュフロー」、減価償却、減損されるような投資性のある投資のキャッシュイン/アウトを「投資キャッシュフロー」、資金調達面においての調達や返済、利払い等のキャッシュイン/アウトを「財務キャッシュフロー」といいます。

以下が各キャッシュフローの典型的なイメージです。

 

実務上、頻繁に使われる「バーンレート」(毎月、資金をどの程度燃やしているのかという比喩)の定義について説明します。

バーンレートにも、グロスバーンレートと、ネットバーンレートの2つが存在し、「グロスバーンレート」とは当月の現金の支出総額を指し、「ネットバーンレート」とは、当月の現金の純減少額を指します。単にバーンレートという場合には、後者のネットバーンレートを意味することが通常です。

また、ランウェイ(飛行機が離陸するまでの滑走路で残り滑走できる期間の比喩)とは、資金がゼロになるまでに残された期間のことです。残キャッシュ500万円の会社で、現在のバーンレートが100万円の場合には、ランウェイは5カ月であると表現します(但し、実際にはランウェイが短くなってきたタイミングで固定費を大きく下げたり、支払いの延期を依頼して回るため、事業停止までの期間はもう少し長くあります)。

 

資金調達の際のランウェイの確保

スタートアップ企業が留意したいポイントは3つあります。

1点目は、資金調達の際、少なくとも1年半程度のランウェイを確保できる金額を調達したいところです。1年間で事業の検証、次のマイルストーンの達成に動き、残り6カ月間で資金調達に動く程度の余裕は見ておきたいところです。

2点目は、毎月、今後のバーンレートを予測して、最新のランウェイを把握、予測することです。営業C/Fの予測が難しいため保守的に予測、財務C/Fについても目の前でほぼ見えている融資やエクイティ調達を除いて保守的に予測し、固いランウェイを予測していきます。

3点目は、このような予測したランウェイについて、遅くともキャッシュアウトの半年前から資金調達に動き出す、できれば半年前までには資金調達を決めておきたいという点です。キャッシュアウトが近ければ近いほど、エクイティの調達では足元を見られやすい側面がありますし、銀行としても融資をためらうケースがでてきます。

 

資金繰り表の作成、管理方法

資金繰り表の作成の実際ですが、たとえば、以下のように月次で営業C/F、投資C/F、財務C/Fの増減について保守的に予測を行います。そのうえで、現金残高がマイナスになる月・日がないかのチェックを行います。これを毎月の事業実績に基づいて、毎月アップデートしていきます。ランウェイの予測と資金調達タイミングの先読みは、社長、CFO、あるいは財務責任者の最も重要な仕事の1つです。

 

以下のように、グラフでキャッシュフローの予測を月次で可視化することも、有効です。

 

ランウェイが短くなってきたら、口座ごとにキャッシュアウトしそうなタイミングがないか、口座別で日次で資金繰りの予測を行う必要があります。

 

次回は、調達した資金を管理するうえでの留意点、特に横領の防止について、上場準備が本格化する前に最低限やっておきたいことについて説明したいと思います。第1回第2回第3回第4回第5回第6回も参考にしてみてください。

 

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