起業家の実例に学ぶ「事業成長のノウハウ」ー第7回 事業アイデアを磨く、仮説検証の実践例ー

成功する起業家が実践する、事業アイデアの磨き方

こんにちは。DIMENSIONファンドの伊藤紀行です。

前回、課題発見の実践例をみてきました。それでは、
自分が事業として取り組みたい課題を発見できた後、どのようにその事業アイデアに磨きをかけていけばよいのでしょうか。本日は、これまでにDIMENSION NOTE でお話を伺ってきた60名 を超える起業家の事例の中から、

株式会社ナイル 代表取締役CEO 高橋飛翔さん

が実践された、“事業アイデアの磨き方”と“仮説検証のアプローチ”の実例を見ていきたいと思います。

 

ナイル株式会社について
「デジタルマーケティングで社会を良くする事業家集団」を標榜。主軸とする自動車産業DX事業以外にも、デジタルマーケティング事業、メディアテクノロジー事業を展開している。
代表の高橋飛翔氏は東京大学在学中に、いわゆる学生起業家として当社を立ち上げる。調達額は既に60億円を超えている当社は、自動車産業DX事業の「おトクにマイカー 定額カルモくん」を直近数年で大きく成長させている。月額一万円から新車をカーリースできる、「おトクにマイカー 定額カルモくん」は貯金ゼロ円でもマイカーを持てる夢を消費者に届けている。

 

「ウェットな情報」の収集により、顧客理解を深める

起業アイデアの精度を高めるために、何からスタートすべきでしょうか。「こんなニーズがあるのではないか」「このBizモデルはうまくいきそうだ」などの初期的な仮説を見出した後は、検証を重ねていくことが重要になります。

余談ですが、筆者がビジネススクールで担当している論理思考のクラスでは、仮説思考はスピードというメリットがある一方、”検証”のプロセスにおいて網羅性&妥当性を担保し、仮説を磨いていくことが必要、と強調されています。

自身がもった仮説をどのように磨いていくとよいのか、起業家の実例をもとに考えてみましょう。

このプロセスにおいて高橋さんは、「ウェットな情報」を収集することがなにより重要だとおっしゃっています。

高橋さんは、業界関係者の生の声を「ウェットな情報」、ニュースのようなものを「ドライな情報」と、定義しています。その市場の関係者しか知らないような情報、業界の中でも最先端を走っているような人から引き出すディープな一次情報に触れることにより、ユーザーの抱える課題の理解をぐっと深める、というのが彼のアプローチです。

高橋さんが「おトクにマイカー 定額カルモくん」を立ち上げたのは、2018年2月。しかし、事業の企画を始めたのは2016年10月であり、実に1年半の期間を設けています。この1年半の準備期間について、高橋さんはこう振り返っています。

“当時私がやっていたことは、yentaというビジネスマッチングアプリを使って、ひたすら自動車業界の人に会い、ビジネスモデルに対する意見を募ることです。yentaの1日フリック上限数が当時10人だったものを、yenta事業責任者に直談判して私専用の50人フリック有料プランを作ってもらったほどです(笑)。2016年には主要な自動車関係会社は全てテレアポし、電話でプレゼンをしてはフィードバックをもらい続けました”

 

「おトクにマイカー 定額カルモくん」誕生の背景には、こうして自らウェットな情報を獲得すべく積極的に動き、時間をかけて誰よりも正確に顧客を理解する、高橋さんの徹底ぶりがありそうです。

さらに、ナイル社の強みは、高橋さんのこの姿勢を組織全体で体現している点です。つまり「顧客理解」を徹底的に追求する姿勢をコーポレートカルチャーに埋め込んでいるのです。例えば、同社のマーケティングチームでは、毎月最低2人の顧客に購入動機をヒアリングするルールが制度化されています。そしてそのヒアリング内容は全て文字起こししされ、全メンバーに共有される仕組みとなっています。

こうした強力なカルチャーが浸透させるにあたり、高橋さんは全ての顧客インタビューの書き起こしを読み込み、率先して顧客のことを知ろうとする姿勢を社内メンバーへ見せるよう行動されています。カルチャー醸成の際に経営陣が幹部や人事にお任せしてしまうケースも時々ありますが、社長自身がリーダーシップを発揮し、「顧客理解」こそが重要だと身をもって提示し続けているのは、非常に印象的です。

ビジネスモデル検証の、5つの基準

顧客へのヒアリングを重ねることで深い顧客理解をえられたとすると、次のステップはビジネスモデルの構築です。ビジネスモデルの妥当性を検証するにあたり、どんな視点で評価していくのがよいのでしょうか。

ナイル社では、5つの基準を設けています。(以下5つの視点は、我々が投資委員会で検証するポイントと近しい点も多く、少し補足しながら記載してみています)

 

1つ目は、「市場の規模と成長性」

市場の規模と成長性を見て、シェアを取り切った時の事業規模や、シェアを取り切るまでの時間軸を見定めています。時間の経過とともに人件費等各種費用は継続的にかかってくるので、特に資金制約が強いスタートアップでは事業成長の時間軸が大切な視点となります。さらに事業規模がバリュエーションを規定し、調達額へも影響を及ぼすため、市場規模から事業規模・バリュエーション・調達額の幅が大体見えてきます。

 

2つ目が、「ユーザーペイン(課題)とソリューション(解決策)」

ユーザーペインは、日本語でいうところの顧客の課題の深さです。そして、ソリューションはそれに対する解決策の妥当性。よくいわれるように、誰の何を解決しようとしているのか、と言い換えてもよいかもしれません。

ビジネスアイデア生成の際に陥りがちな罠が“Nice to have”ではあるが、“Need to have”ではないアイデアです。すなわち、ユーザーペインの深さに欠けるか、ソリューションの必然性が低い状態といえるでしょう。結果、想定ユーザーに課金してもらえない事業ができあがってしまうことがあります。

 

3つ目は、「ビジネスのスキーム」

こちらは、自社でビジネス機能を内製化するのか、それとも外部と連携しながら実行するのか、という論点です。社内リソースが常に逼迫しているスタートアップにとって、社外リソースにレバレッジをかけて成長していく観点は不可欠となります(自社で全て内省化して取り組むと、時間的にも資金的にもなかなか厳しい!)。

他者と共栄できるスキームを構築し、持続的な成長を目指すことも1つの方策ではないでしょうか。バリューチェーンの中で得意な領域を「選ぶ」、「省く」というアプローチはスタートアップにとって有効です(他にも、「束ねる」、「加える」などもあります)。

その際注意すべきなのが、何を外部に公開して連携していき、逆に何をクローズドに内製化するのかという点です(「オープン・クローズ戦略」と呼ばれています)。自社の強みとなる優位性まで外部へ公開してしまい、気づけば優位性だけ抜かれて連携を打ち切られるリスクがあるため注意が必要です。

 

4つ目は、「収益構造とお金の回収エンジン」

これは、どのような仕組みで稼ぐのかの点です。課金形態、金額、コスト構造を見誤ると、売上は伸びても永遠に黒字化しない事業ができあがってしまうケースが往々にしてあり、これは非常に厳しい状態です。アーリーステージのベンチャーで時々見られるパターンでは、交渉力が低い故、破格の値段でサービスを販売してしまうケースがあります

。時間が経過しても、なかなか値上げできず、いつまでもエコノミクスが成立していない事業ができあがってしまうのは、本当にもったいないと思います。プライシングやコスト構造は中長期の目線でプランニングしないと、伸びているようで利益のでない事業になってしまうため、慎重に検証することをおすすめしたいです。

 

最後の基準は、「集客とマーケティング」

どうやって拡大していくかの論点です。どの時期に、どのようなデザインやコピーライティングで、どのチャネルで、いくら予算をかけて、誰に向けてマーケティングを打っていくのか。ここでもやはり「顧客理解」が肝になります。

“デジタルマーケティングは極論、人を採用したり外注費をかけさえすれば汎用化されるものです。ですので「上流マーケティング≒顧客理解」が差別化の肝となります。この「顧客理解」があって初めて「言葉」「色合い」「デザイン」といったマーケティング部分の改善をスタートさせるべきなのです。”

「顧客理解」を最重要視する高橋社長は語っています。

これら5つの判断基準を持ちながら、ウェットな情報を精査していく。そうして事業機会を確実にものにしていくナイル社には、我々が学ぶ点がたくさんあるのではないでしょうか。

自分の出した結論を論破してみる

いかがでしたでしょうか?本日のコラムでは、ウェットな情報を基に顧客の理解を深め、事業の仮説を検証した事例をみてきました。

  • 業界最先端のウェットな情報を捉えられているか?
  • 客観的なフレームワークで、事業アイデアの妥当性を評価できているか?

 

上記にこたえうる良い課題があれば、取り組んでみる価値がありそうです。

最後に、今日のトピックに関連して、複数の革新的企業の立上げに成功しているイーロン・マスク氏が事業を始めるか否かを決める際に活用されている手法を紹介したいと思います。

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  1. 「(自分に)質問する」
  2. 「可能な限りの証拠を集める」
  3. 「証拠に基づいて原理を打ち立て、その原理が正しいかどうかを検証する」
  4. 「決断のために、説得力のある結論を導き出す。そのために、原理が正しいか、適切か、結論は必然的なものか、確率はどのくらいかを検証する」
  5. 「結論に反論する。結論を論破するために、誰かの反論を探す」
  6. 「結論を論破できる人が1人も見つからなかった場合、結論は正しい可能性が高い。だが必ずしも正しいとは限らない」
    (“イーロン・マスク、重大な決断の前に自分に問う6つの質問”より抜粋)

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イーロンマスクがいうように、仮説はいろんな人にぶつけることによって、磨かれていきます。建設的な“反論”が必要と思った時、壁打ち相手が必要な時は、ぜひ気軽にご相談ください。

第1回第2回第3回第4回第5回第6回も参考にしてみてください

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