
#レジェンドに聞く
先達に学ぶー第1回 新卒の事業承継ー

本コラムを担当している下平です。DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしていますが、若い皆さんにとって、株式、融資、資本政策等の用語は、とっつきづらく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、複数回にわたって、以下のような資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えします。
若い方でも理解が進むように、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、お伝えしていきます。
前回まで、資金調達の種類(第1回)、株式の希釈化の意味(第2回)、エクイティとデットを両方活用することの重要性(第3回)、ビジネスモデルとファイナンスの相性(第4回)、ベンチャーキャピタルが求める期待リターン(第5回)、資金調達の計画の作り方(第6回)、資金繰りのポイント(第7回)について説明してきました。第8回となる今回は、預金管理のポイントについて説明します。
2020年、東大発のスタートアップ「エルピクセル」の元取締役が横領し逮捕されたという報道がありました。報道によれば、元取締役は、資金を1名で管理。会社の資金を個人名義の預金口座へ送金しており、預金通帳口座の通帳の写しを改ざんしていたということで、業界に衝撃が走りました。同社は、ベンチャーキャピタルや事業会社から数十億円規模を調達していました。
このような事件を避けるためにはどうしたらよいでしょうか。今回は、上場に向けた内部統制の基本的な考え方や本格的な上場準備前の企業でも整えておくべき、預金面の管理の基本について説明をしたいと思います。
そもそも、会社が健全に成長していくうえで、事業のオペレーション上、以下の4点がクリアされている必要があります。
この4点がそれぞれクリアされないと、以下のようなマイナスダメージが発生します。
上記のような事態となると、企業価値、株主価値が大きく棄損されてしまいます。
内部統制とは、ざっくりいうと、「4点が達成されない不正行為・不祥事が起こるリスクを軽減するための社内的な仕組み」のことを言います。
内部統制の制度を社内的に設計するのはN-3~N-2のタイミングからで、主幹事証券等と二人三脚で制度設計を行い、N-1では本格的な運用が求められます。
内部統制に関するトピックは多岐にわたるため詳細については専門書に譲りたいと思いますが、本稿では、起業家として、業務オペレーション上のリスク管理や横領防止など、特に早期から意識しておいた財務管理のなかでも特に預金管理のポイントについて解説したいと思います。
預金は、銀行やVCから資金調達した資金の置き場となっているため、出金時に多額の不正が発生するリスクが高く、特に注意を支払うべきポイントです。以下の5点をきちんと実装、運用できれば、不正な出金は一定以上、抑制できるはずです。
①取引行為のエビデンスに基づく承認
出金の根拠となる契約の締結が、適切な役職者(事業部長など)によって承認されている必要があります。簡単なものでよいので、いわゆる稟議ワークフローのソフトウエアを導入して、請求書や契約書等のエビデンスと共に、適切な役職者による出金承認が行われるようにします。
②承認者と送金者の峻別
出金承認を行った事業部長などの担当者と、実際に預金から送金を行う出金処理担当者(経理担当者)は、必ず別の担当者とする必要があります。出金承認の承認者がそのまま送金手続までできてしまうと、横領行為を誘発しかねないためです。
また、取引行為の承認者と送金者の兼務を禁止することも重要です。1つの取引に関して、必ず複数の担当者が関与し牽制しあう構造を作りましょう。
スタートアップの人数が少ないフェーズの場合、請求書の支払い承認を一人のCFOが行い、送金の処理もCFOが行うようなケースが散見されます。CFOが悪意がある場合には、簡単に横領をされてしまいますので、承認と支払は、兼務を禁止として、常に別々の担当者とすることが重要です。
③送金時の二重チェック
オンラインバンキングにおける送金時の承認プロセスについても、2名以上の別の担当者が承認しなければ、送金できない形としましょう。
④通帳と銀行印の別々の管理
通帳と銀行印の2つを銀行に対して提示すれば、預金の引き出しが可能となります。したがって、通帳と銀行印は、別々の場所に保管し、それぞれ保管する責任者を分けて決めておく必要があります。たとえば、通帳は社長の金庫、銀行印はCFOの金庫などです。
⑤通帳(オンラインバンキングの生データ)と会計帳簿残高の突合
長くても1カ月ごとに会計帳簿上の残高とオンラインバンキング上の預金残高が一致するかどうか、確認を行いましょう。
なお、たとえば10億円単位での資金調達を行った場合には、一定程度の資金は、定期預金に預けると引き出しによりプロセスが必要となるなど、さらに厳重な工夫を凝らすことも考えられます。
いかがでしたでしょうか。
内部統制において考慮すべきことは本稿以外にも多数あります。書籍としては、「IPO実務検定試験 公式テキスト」や「IPO物語」がコンパクトにまとまっており、お勧めです。第1回、第2回、第3回、第4回、第5回、第6回、第7回も参考にしてみてください。