起業家の実例に学ぶ「事業成長のノウハウ」ー第8回 創業準備と仮説検証の実践例 前半ー

成功する起業家が実践する、事業アイデアの磨き方

こんにちは。DIMENSIONファンドの伊藤紀行です。

前回、仮説検証の実践例をみてきました。
自分が事業として取り組みたい課題を発見できた後、どのようにその事業アイデアに磨きをかけていけばよいのでしょうか。前回に続き、これまでにDIMENSION NOTE でお話を伺ってきた60名 を超える起業家の事例の中から、

・ビビッドガーデン株式会社 代表取締役CEO 秋元里奈さん

が実践された、“創業準備の進め方”と“仮説検証のアプローチ”の実例を第8回(前半)と第9回(後半)の2回にわたり、見ていきたいと思います。将来起業を視野に入れている方や今創業準備を進めている方、事業アイデアに磨きをかけている方、投資家回りをしている方などを対象に書いています。

 

<今回のコラムの見出し>

前半(第8回)
・打席に立ち続ける新卒時代
・DeNAのDNAが成長の起爆剤に
・段階的に起業を検討していく創業準備期

後半(第9回)
・70社に断れたシリーズA
・自分だけの一次情報に向き合い続ける
・己を信じることと、他人からアドバイスをもらうことは矛盾しない

 

ビビッドガーデン株式会社
株式会社ビビットガーデンは、2006年に秋元社長が20代半ばの若手社会人時代に創業した急成長中のスタートアップだ。「生産者の“こだわり”が、正当に評価される世界へ」をビジョンに、小規模農家などの生産者が消費者へ直販できるプラットフォーム「食べチョク」を運営している。コロナ・ウイルスの感染拡大と共に、生鮮食品をオンラインで購入する購買行動が活発化し、業績を大きく伸ばしている。また365日#Tシャツ起業家 としても知られており、ロゴが見えるように髪の毛をいつもショートカットにし、「食べチョク」のロゴ入りのTシャツを着ている熱血的な起業家だ。テレビ東京「日経スペシャル カンブリア宮殿」にも取り上げられ、VCから2億円、6億円と順調に資金調達を続けている。

 

打席に立ち続ける新卒時代

起業を見据えて就職・転職することは、ハードスキル、ソフトスキル双方を養う観点で大いに意義があります。また20代半ばで創業された秋元さんを見ると、これらのスキル獲得の時間軸も重要だということもみえてきます。自分自身が設定している起業までのタイムラインに合わせて、求めるスキルと経験が得られるであろうと場所を意識的に選択してみることをお勧めします。秋元さんにとって新卒でDeNAに入社したことは、まさにその条件を満たし、起業家としての素養の構築に大きく影響したとおっしゃっています。

 

“前職では「本物の打席に立つ」経験をたくさんさせてもらって、自分のやったことがないことにどんどんチャレンジしました。それらのチャレンジを通して知らないうちに身についていたように思います”

 

打席に立つ機会が多い中でも、特に若手にとって困難な打席に立つ回数がDeNAでは多かったとのこと。事実、秋元さんは「Mobage」のアバター事業を始め、3年間で4つもの事業を経験。しかも、各事業領域では、サービスのディレクション・企画、テレアポ営業、マーケティング広告の提案など、幅広い業務に取り組まれていました。このチャレンジする機会の多さが、秋元さんを短期間で優れた起業家へ成長させたのではないでしょうか。

また得意領域の仕事に留まらず、成功確率が50%の仕事でも任される環境にあった点も、特筆すべきでしょう。リアルに失敗する可能性があるからこそ、良いプレッシャーを感じながら毎日がむしゃらに働いたと秋元さんは振り返っています。このような環境こそ、起業家としての素養は早く身につきやすいのではないでしょうか。

一件一件が不確実性の高い「本物の打席」である起業家を目指すには、このような成長機会は意義深く、ある意味非常に実践的なトレーニングになりえます。時に起業家にとって、致命的な失敗は事業のクローズにもつながる可能性があります。また、創業初期の段階では、最初の打席が事業の将来性を左右することもありえます。若い時の苦労は買ってでもせよ、と言わると説教がましく感じるかもしれませんが、起業後のプラスになると思えば、ちょっと荷が重いな。。と思う仕事も、肥やしにすることができそうです。

 

DeNAのDNAが成長の起爆剤に

ところで、DeNAにはDeNA Qualityという、全社員が日々の行動や判断の拠り所とする共通の価値観があるのをご存じでしょうか。秋元さんが在籍していた時代のDeNA Qualityの一つが『2ランクアップの目線で、組織と個人の成長のために全力を尽くす「全力コミット」』

自分の役職よりも高い視座で、組織を牽引するという意味です。まさにこのコーポレートバリューが、サラリーマンでありながらも、秋元さんに経営者としての視座を身につけさせることになります。

 

“「誰が言ったかではなく何を言ったか」で評価される社風。新卒1年目の意見でも、本質をとらえて説得力のあることを言っていれば、その意見は評価される。なので常に本質を考えながら、仕事をする癖が身につきました。”

 

多くの企業、特に大企業では、キャリアの初期の段階から若手の意見を評価してもらえることはそれほど多くはありません。新卒で入社した若手に対し、長年の経験と知識を持つ上司や先輩方の意見の方が受け入れられやすい職場は、まだまだ多いのではないでしょうか。「誰が言ったかではなく、何を言ったかで評価する」。この考え方はGoogle社でも採用されていることで有名ですが、起業家を目指すのであれば、若い頃から厳しい評価にさらされ、鍛えられる環境で切磋琢磨することがポイントになるでしょう。創業後には上司はおらず、最後の意思決定者は自分となるので、“自分ごと”として責任する仕事にとりくんでいくことは、これも皆さんの起業家としての戦闘能力を高めることにつながっていくはずです。

また、DeNA Qualityには「本質的な価値の提供に集中し、清々しくチームの一員として取り組む」という指針もあります。事業を拡大するためには組織の拡大も必要不可欠ですが、この指針もリーダーシップの形成にポジティブに働く指針といえそうです。もちろん、就職・転職先の候補の働き方は、各社HP記載のコーポレートカルチャーの内容以外にも、同社の人事の評価基準や役職毎の年齢のバラツキなどからも読み取ることができます。(仮に平均年齢が40代・50代の会社に入社したとしたら、皆さんに“打席”がまわってくるのは何年後でしょうか?)このあたりを逆算して、就職・転職時にしっかりと見極めたいところです。

DeNA退職後、起業家としての秋元さんの活躍は決して偶然ではないでしょう。DeNAマフィアの存在をご存知でしょうか。SHOWROOMの前田祐二さんを始め、ベースフードの橋本舜さん、アカツキの塩田元規さん、Donutsの西村 啓成さん、ミラティブの赤川隼一さん。CLUEの阿部亮介さんなど、DeNA出身で活躍中の起業家を挙げ始めたら枚挙にいとまがありません。

世の中には、このように起業家を数多く輩出する“ホットスポット”のような企業がいくつかあります。ベンチャーやスタートアップへの転職のサポートをしているKEY PLAYERSの「社長・経営者を生み出している企業10選」によれば、DeNA以外にもGREE、マッキンゼー、サイバーエージェント、リクルートなど、起業家精神の強い人材を輩出する企業は様々です。秋元さんの場合、もともとは起業の意思はなかったものの、このような土壌のなかで自然と起業家としての素養が育まれていきました。

この点を鑑みると、

・どの会社で働くか
・誰と働くか

がすごく重要かもしれません。キャリアの序盤では、どの場所にいるか、誰と仕事をするかで到達点がかわってくることを十分に意識していけるとよさそうですね。

 

段階的に起業を検討していく創業準備期

これだけ”起業向き”の会社で働いていたのであれば、いざ事業構想が思いついたら、すぐに取り組み始めたのではないか想像してしまうのではないでしょうか。そのような行動力のある方もいるかもしれませんが、やはりサラリーマンを辞め、起業するには勇気がいる、ちょっと躊躇してしまうという方が多いでしょう。実は、秋元さんも例外ではありませんでした。

ビビッドガーデンを創業する前、秋元さんは起業以外のオプションを検討しました。まずは、DeNAの新規事業として農業向けのプラットフォーム事業をできないか模索してみました。しかし、上場企業のDeNAが期待する事業規模に到達できる合理的な説明が当時中々できず、断念。(昨今、イントレプレナーという言葉を頻繁に聞くようになりましたが、社内起業はバランスの取れた一つの魅力的な選択肢といえそうです。)秋元さんが次に考えたオプションは、転職。しかし一次産業領域で、DeNA同様の裁量で社会人3、4年目の若手が働ける企業が中々見つからず、転職という選択肢も断念しました。

最後に、週末起業という選択肢も検討しました。「週末起業であれば、万が一失敗したとしても戻る場所がある」、そういった考えは合理的で、現に週末起業からはじまって大成功した企業はたくさんあります。ただ結果的に、この選択肢も秋元さんには合わず。。との結果に。

というのも、DeNAで任せられていたプロジェクトは100人以上のメンバーを巻き込んだ大規模プロジェクトでした。一方で、構想段階にあった起業アイデアは、当時は秋元さんの頭の中だけにとどまっていた状況。結局、どうしても責任の大きいDeNAのプロジェクトにマインドシェアが取られてしまい、農業の事業をつきつめて考える時間が確保できなかったそうです。

一方で、いきなり起業するのも何だか怖い。そう感じた秋元さんは、起業家の友人に相談へ。そこでの会話が彼女を突き動かしました。

 

“「秋元さんは起業しない理由をいろいろ並べるけれど、それは今後もっと増えていくと思う。今やらなかったら、きっと一生やらないね」(「365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘」より)”

 

この言葉で決心がついた、秋元さん。1週間経っても、起業に対する思いが変わらなければ、実行しよう。そう決めた秋元さんは1週間後に勤務先に退職の意思を伝えたのです。

他のオプションを入念に考慮したとはいえ、1週間で退職を決意した秋元さんの行動を大胆すぎると感じた方はいるのではないでしょうか。無理はありません。先月までもらっていた給料や所属組織を捨て起業するということは、事業内容や資金調達戦略、成長戦略を相当計画していたに違いない、とも感じるのではないでしょうか。確かに、取り組むべき課題や事業アイデアが創業前から固まっていることに越したことはないでしょう。しかし、事業アイデアを考えながら会社を立ち上げることももちろん可能です。秋元さんはその道を歩んでいます。彼女の場合、とりあえず今日食べるご飯代を稼ぐために、週2日フリーランスのコンサルティング活動に従事、残りの5日間を事業アイデア構想に割いていました。

実は、このようなマネタイズ・アプローチで立ち上がるスタートアップも意外に多くあります。受託開発やコンサルティングなど安定的に稼げる事業でキャッシュを生み、そのお金で急成長を狙えるようなプロダクトを開発するパターンです。必ずしも、はじめから資金調達を実施し、赤字をガンガン掘ることが起業とは限らないので、自分のリスク許容度に応じた起業スタイルを選択できると良いでしょう。

 

次回9回目は「創業準備と仮説検証の実践例」の後半を取り上げます(配信は6月7日を予定)。第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回も参考にしてみてください。

 

DIMENSION NOTEについてのご意見・ご感想や
資金調達等のご相談がありましたらこちらからご連絡ください

E-MAIL MAGAZINE 起業家の皆様のお役に立つ情報を定期配信中、ぜひご登録ください!*は必須項目です。

This site is protected by reCAPTCHA
and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.