起業家の実例に学ぶ「事業成長のノウハウ」ー第9回 創業準備と仮説検証の実践例 後半ー

成功する起業家が実践する、事業アイデアの磨き方

こんにちは。DIMENSIONファンドの伊藤紀行です。

前回は「創業準備と仮説検証の実践例」の前半をお届けしました。今回はその後半です。自分が事業として取り組みたい課題を発見できた後、どのようにその事業アイデアに磨きをかけていけばよいのでしょうか。第7回に続き、これまでにDIMENSION NOTE でお話を伺ってきた60名 を超える起業家の事例の中から、

・ビビッドガーデン株式会社 代表取締役CEO 秋元里奈さん

が実践された、“創業準備の進め方”と“仮説検証のアプローチ”の実例を前半と後半の2回に分けて見ていっています。将来起業を視野に入れている方や今創業準備を進めている方、事業アイデアに磨きをかけている方、投資家回りをしている方などを対象に書いています。

 

<今回のコラムの見出し>

前半
・打席に立ち続ける新卒時代
・DeNAのDNAが成長の起爆剤に
・段階的に起業を検討していく創業準備期

後半
・70社に断れたシリーズA
・自分だけの一次情報に向き合い続ける
・己を信じることと、他人からアドバイスをもらうことは矛盾しない

 

ビビッドガーデン株式会社
株式会社ビビットガーデンは、2006年に秋元社長が20代半ばの若手社会人時代に創業した急成長中のスタートアップだ。「生産者の“こだわり”が、正当に評価される世界へ」をビジョンに、小規模農家などの生産者が消費者へ直販できるプラットフォーム「食べチョク」を運営している。コロナ・ウイルスの感染拡大と共に、生鮮食品をオンラインで購入する購買行動が活発化し、業績を大きく伸ばしている。また365日#Tシャツ起業家 としても知られており、ロゴが見えるように髪の毛をいつもショートカットにし、「食べチョク」のロゴ入りのTシャツを着ている熱血的な起業家だ。テレビ東京「日経スペシャル カンブリア宮殿」にも取り上げられ、VCから2億円、6億円と順調に資金調達を続けている。

 

70社に断れたシリーズA

「慶應義塾大学卒、DeNA出身若手の起業家」。この肩書きを聞けば、創業した後は、さぞ順風満帆に事業を進捗させてきたと想像される読者は多いのではないでしょうか。しかし、急成長中のビビットガーデンを経営する秋元さんは、多くの困難に直面します。

その困難の一つが、2億円を調達したシリーズAの調達ラウンドでした。この調達ラウンドで、彼女は70社以上のVCに出資を断られたのです。中々、調達が進まないため、調達活動は9ヶ月間にも及びました。通常の人であれば、70回以上断られ続けたら、心が折れてしまっても不思議ではありません。しかし、秋元さんは違いました。

 

資金調達のプロセスはお金を集めるだけでなく、事業成長にも寄与すると思っています。2億円調達のときにはたくさん断られて長い時間がかかったのですが、おかげで調達を始めたときと決まったときでは事業計画の精度やKPI設定、戦略もガラッと変わっていました。投資家から何度断られても、とにかく事業成長にプラスになる情報をもらって半歩でも前に進もうとし続けたからだと思っています”

 

資金調達の依頼を断れ続けても、常に投資家にフィードバックを貰い続け、事業計画や戦略の精度をブラッシュアップし続けた秋元さん。修正が必要な指摘は、どんどん発表資料やサービスそのものに反映し続けていきました。結果的に資金調達活動の初期には10枚しかなかったプレゼン資料が60枚を超え、自分自身の事業に対する理解も高まっていきました。

詳しくは将来のコラムにて触れますが、資金調達は起業家にとって、死活問題であると同時に、リソースを割かなくてはならない大変なプロセスでもあります。資金提供を依頼する行為自体、物理的にも精神的にも多くのリソースがかかります。多くの起業家はここで、自分の経営する会社をよく見せようと投資家に対して見栄を張ってしまいがちです。柔軟にフィードバックを受ける姿勢を示し、事業アイデアのブラッシュアップを進めた秋元さんのアプローチには、学べる部分が大きそうです。(投資家が正しいというわけではなく、柔軟に取り入れるところと、軸をもって変えないところのバランスが大事になってきます)

当時を振り返り、とにかく事業成長にプラスになる情報をもらいながら、半歩でも前に進もうとし続けていたと彼女は振り返ります。「なぜ出資に至らなかったのか」、「次回どうなっていたら、どういう評価で投資をしてくれるのか」を聞き続けました。投資家側は出資を断る際に、良好な関係を維持するために、断る理由をオブラートに包んでしまうケースが度々あります。その点にきづいた秋元さんは、本当の理由、本音ベースでの意見を積極的に聞いていったのです。

このように、起業家が資金調達時に投資家に自分の事業アイデアをピッチしに行く際は、投資家の指摘を適宜とりいれながら事業アイデアをブラッシュアップする、絶好の機会となり得えます。ただし、彼女ほどたくさんのフィードバックを柔軟に吸収することは、頭ではわかっていても実践するのはなかなか大変かもしれあせん。断られても半歩進むの精神で、1つ1つの面談から改善を積み上げていけるといいですね。

今ではJAFCOをはじめ、マネックス・ベンチャーズ、VOYAGE VENTURES、デライト・ベンチャーズ、NOWなどのVCから累計8億円以上を調達したビビッドガーデン。手厚い応援団を形成し、彼らの資金で従業員も70名以上、数々のマーケティング施策も打ち出しています。秋元さんの半歩でも事業を前身させようとする姿勢の成果です。

数多くのフィードバックを吸収しながら、成長を遂げるビビッドガーデン。一方でアドバイスを鵜呑みにすることの危険性についても、秋元さんは指摘されています。

“特に成功した人ほど、「自分がやってきたことが一番良い」と話す傾向があります。最初からVCから調達して成功した人は「VCから早く調達したほうがいい」と言うし、外部から資金調達しないで成功した人は「自己資金でやり切るべき」と言う。(したがって、)話の真意や本質を見極め、自分がやりたいことと照らし合わせて聞き入れるべきかを判断する。「柔軟性」は持ちながらも、決してブレてはいけない軸は大切にすべきです。”

過去に成功を経験している人間ほど、自分の過去の道筋を正当化しがちです。過去に成功した投資先をもつVCは、そのライトハウスケースを他の案件にも応用しがちであるのも事実です。また既に成功している起業家は、自分の成功ストーリーを基軸にアドバイスを発信しがちです。

当然ですが、他社のベストプラクティスが、そのまま自社のベストプラクティス化できることは中々ありません。アドバイスを受けた時は、そのアドバイスの根拠は何か、自分なりに整理することが重要です。さらに、その根拠は自身の事業にも適応され得るのか、分析しなければならない。ここで適応できると判断できて、初めて取り込み得るアドバイスとなるでしょう。

秋元さんの言葉を借りると、「隣の芝は見ない」ということでしょうか。“隣の芝(≒成功事例)”に翻弄されずに、自分がやりたいことに最短距離の道が何なのか、常に本質を見極めながらフィードバックを受け止めていきたいですね。

 

自分だけの一次情報に向き合い続ける

本質を見極める際に役立つのが、ウェットな一次情報と向き合い続けることでしょう。これは前回、ナイルの高橋社長がおっしゃっていたことと通じるものがります。ウェット一次情報とは、ユーザー・インタビューや取引先との会話など事業関係者から自ら収集した情報を指しています。これらの一次情報が、自社ビジネスの真の声であり、常に意思決定時の拠り所となるでしょう。外部者からアドバイスを受ける際は、これらの一次情報と彼らのアドバイスが整合するか確認しながら取り込んでいくことが有効でしょう。

実際に事業を経営している当事者の方が外部のアドバイザーよりも、アクセスできるインサイトの量や質が圧倒的に多い傾向があり、事業について思考している時間にも大きな差があります。あくまで別ビジネス、業界、プレイヤーとしての、視点提供者としてアドバイザーを自分の中で位置付けることが、アドバイスを受ける際のポイントとなるでしょう。自分よりも事例を多く見ているからと言って、自分よりも当該事業について詳しいとは限らない点を忘れずに。

食べチョクの事業アイデアの原型も、こうしたウェットな一次情報から生まれています。アイデア構想時、秋元さんは日本中の農家を歩き回っていました。実は、それまで多くのIT企業が一次産業に参入しては、期待通りの事業規模に到達できず撤退を繰り返していました。故に、IT企業出身の秋元さんに対し、敵対的に振る舞う農家すらいたといいます。そうした農家の心情も理解し、一緒に農作業をしたり、地元のお祭りに参加したりするなどして、距離感を縮めていったそうです。それは、想定ユーザーの農家のことを知る(=一次情報)を知れば知るほど、彼らが抱える本質的な課題にたどり着けると秋元さんは信じていたからでしょう。

そんなある日、梨を栽培している農家のおじいさんがこぼした言葉が、食べチョクを構想するきっかけになりました。

 

“「こんなにこだわっても販路がないんだ。美味しい梨を作っているのは自分のエゴでしかないから、息子に継がせようと思わない。儲からないし、息子にはちゃんとした職に就いてもらいたいんだよ」”

 

弱々しく笑う、その農家のおじいさん救わなければならないと感じた瞬間だったとのこと。どれだけ味にこだわっても、販路がない。そうした小規模農家は日本中に存在しています。であれば、彼らのために販路を作るべきではないのか、という考えで生まれたのが食べチョクでした。

一次情報の取得は、事業内容にとどまらず、細かいマーケティングの施策にも活きています。ビビッドガーデンは、一次情報の中から「ご近所出品」と言う施策を生み出している。「ご近所出品」は生産者の出品数を促進する取り組みで、オンライン出品に慣れていない高齢の生産者の方を、ネットリテラシーの高い生産者がアシストする仕組みです。

地域毎にこうしたグループを組成し、今まで出品できていなかった層が「食べチョク」のプラットフォームに参画できるようにしています。この施策の誕生のきっかけは、地域毎に共同配送・出品を手掛けている地域リーダー的存在がいるとユーザーヒアリングから学んだことでした。幾度となく生産者からウェットな一時情報を収集し続けた結果たたどり着いた発見でした。

一次情報の情報源は、直接的な会話やインタビューに留まりません。昨今だとTwitterやnote、LINEのオープンチャットやSNSのコメント蘭など、業界の生の声を収集する手段は多様化しています。秋元さんのTwitterのフィードは、生産者の声で溢れています。「生産者ファースト」を掲げ、真摯に生産者の声に耳を傾け続けた結果、食べチョクは「生産者認知度」で一位のサービスにまで成長し、今では5,000以上の生産者が登録されています。

豊富な生産者のラインナップにより、食べチョク経由での購入者も増加。産直ECの中で「お客様認知度」、「お客さま利用率」、「お客様利用意向」、「Webアクセス数」、「SNSフォロワー数」でも一位を獲得。優先すべき一次情報に向き合い続けた結果、食べチョクはこうした結果を出すことができました。自分だけの一次情報を集め、事業の理解度を高めていくことが、ユーザーに寄り添うプロダクトを作っていきたいですね。

 

“「生産者のこだわりが正当に評価される世界」の実現に向けて、ようやくスタートラインに立てたのかなと思っているので、これまで積み上げてきた信頼を裏切らないことを前提としながら、より価値のある事業をつくっていきたいと思っています。ほかにも、販路のサポートだけでなく、生産者が抱える他の課題、例えば人材調達や資材調達などの解決にも今後はアプローチしていきたいと考えています”

 

己を信じることと、他人からアドバイスをもらうことは矛盾しない

秋元さんの事例、いかがでしたでしょうか。創業の準備と検証にあたり、以下を自身にといかけてみましょう。

・起業家としての素養が身につく環境に、身を置くことができているか?
・自分にとって理想的な、事業アイデアの検証方法は何か?
・どのアドバイスを取り入れ、どのアドバイスは受け流すべきか?
・自分だけの一次情報を持てているか?

かつて、チャード・ブロディさん(Microsoft Wordを開発いたプログラマー)が

「己を信じることと、他人からアドバイスをもらうことは矛盾しない」

とおっしゃっていたように、自分なりの独自の審美眼をもち、事業の成功に近づいていきたいですね。

ご自身が持っている仮説の検証にあたり壁打ち相手が必要な時は、ぜひ気軽にご相談ください。

 

前回の「創業準備と仮説検証の実践例」の前半第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回も参考にしてみてください。

 

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