学生でも分かる資金調達・資本政策のポイントー第10回 エクイティ調達②(VCの出資検討の視点)ー

連載している内容

本コラムを担当している下平です。DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしていますが、若い皆さんにとって、株式、融資、資本政策等の用語は、とっつきづらく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、複数回にわたって、以下のような資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えします。

  • 創業期の資金調達にはどのような種類、オプションがあるのか ⇒第1回
  • 創業者の持分が希釈化していくことの意味、リアル ⇒第2回
  • 融資と株式でハイブリッドで調達し希釈化を避けることの重要性 ⇒第3回
  • 自社のビジョン、ビジネスモデルにあった最適な資金調達の手段の考え方 ⇒第4回第5回
  • 資金調達の計画の立て方、作り方 ⇒第6回第7回
  • 預金管理のポイント 第8回
  • エクイティ調達 ⇒第9回と今回
  • 資本政策表の読み方、作り方
  • 初回調達の適切な契約スキームとは(J-KISS、みなし優先株、転換社債型新株予約権、普通株式、優先株式)
  • 資金調達の手続と契約
  • 金融機関、株主との継続的なコミュニケーションの方法

 

若い方でも理解が進むように、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、お伝えしていきます。

今回は、VCの投資検討の視点について解説をしていきます。主に純投資を目線とする独立系のベンチャーキャピタルの視点について説明をします。

 

VCのビジネスモデルと成功

第5回でも解説したとおり、純投資を目的とした純粋なVCの場合、個別企業に求める期待リターンは、シード~アーリーステージでは、IRR 約60%以上(=5年で約10倍の時価総額UP)、レイターステージでは、IRR 約30%以上(=3年で約2.2倍の時価総額UP)と高いものがあります。

この数値は、ベンチャーキャピタルに出資する投資家の期待リターンを反映したものです。実際にはIRRだけでなく、規模としての投資倍率としての結果も求められます。ここで、改めてVCファンドにおける事業成功の定義について考えてみたいと思います。

VCファンドのリターンは市況に影響を受けやすいため、絶対評価というよりも、ファンド設立の設立年ビンテージごとに横比較でパフォーマンスを比較されることになりますが、LP投資家としてVCに対して出資するリスクに鑑みた場合、10年のファンド期間をかけて、2倍以上の投資倍率が確保できれば、”一定の”成功といえるでしょう。

2倍になるケースとは、たとえば、50億円のファンドサイズの場合、投資倍率としては2倍=100億円のリターンを創出する必要があります。

50億円ファンドの場合、ファンド総額の2%×10年=10億円程度について管理報酬としてGPが取得しますので、出資原資は約40億円です。

仮に、1社に対して、追加出資を含めて1億円をシード~アーリーステージの会社に合計40社出資し、15%のシェアを取得し、上場時に仮に10%のシェアを保有できるとした場合、2倍の目標を達成するには、ファンド期間10年以内に以下のKPIを達成する必要があります。

出資先40社の中から累計で100億円のリターンを創出するために
 ・時価総額500億円規模の上場を2社(50億円×2社)
 ・時価総額250億円規模の上場を4社(25億円×4社) などです。

グロース市場(マザーズ)に上場する企業の平均的な公募価格が100億円に達していません。10年のファンド期間があるとはいえ、50億円のファンドサイズを2倍にするハードルの高さについてご理解いただけるかと思います。

ポートフォリオを構築して40社出資したとしても、全ての投資仮説がそのとおりに行くわけではありませんので、1社1社に対して、最低でも数百億円規模の時価総額で上場できる事業仮説、投資仮説を持ちながら出資していく必要があります。

このように見てくると、ベンチャーキャピタルは、約10年以内に最低でも数百億円規模の時価総額で上場する事業仮説を持つ企業、そのような企業、組織を作ることができる起業家、経営チーム に対してしか出資できない、制約を受けるビジネスモデルといえ、出資対象となる企業がどうしても限定的になってしまう点についてご理解いただけるかと思います。

50億円のファンドサイズでも上記のとおりの結果を創出する必要がありますので、このファンドサイズが100億円、数百億円と上がっていくと、より高い水準での時価総額の上場企業の創出が求められます。ファンドサイズが上がれば上がるほど、投資テーマや出資できる企業、事業がより一層、狭く、限定的になっていくことも理解いただけるかと思います。

なお、社内における新規事業の創出、オープンイノベーションを目的としたCVCにおいては、CVCの投資戦略によりますが、財務リターンの観点はより緩やかに考えられるでしょう。

 

投資検討の視点/ステージごとの比重

案件ごとケースバイケースではありますが、上記のような規模感の上場、エグジットを達することができるかどうか、事業ステージ、資金調達ステージごと、以下のような観点と比重で、投資検討が行われることが多い印象です。

 

 

創業期に近いステージでは、起業家、チームやプロダクトマーケットフィット、市場性が判断の中心となり、ミドル~レイターステージに移行するにつれて、競争優位性や継続性、収益性が重視されるようになってきます。各ファンドごと投資方針に沿っているかどうかは全てのステージで重視され、時価総額については上場が近いステージになるほど、現実的な公募価格の目線感も見えてくるため、よりシビアに見られるようになっていくでしょう。

 

いかがでしたでしょうか。今回は、VCの投資判断の視点について説明をしました。DIMENSIONではシード、アーリ―ステージを中心に積極出資中なのでお気軽にご相談ください。

次回は、エクイティファイナンスにおけるバリュエーションの考え方/VC methodについて解説を行います。第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回も参考にしてみてください。

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