起業家の実例に学ぶ「事業成長のノウハウ」ー第10回 資金調達の実践例ー

成功する起業家が実践する、資金調達の進め方

こんにちは。DIMENSIONファンドの伊藤紀行です。

第8回で“創業準備の進め方”と“仮説検証のアプローチ”の実践例をみてきました。自分が事業として取り組みたい課題を発見し、その事業に関する仮説を検証できた後、いよいよ事業をスケールさせるべく資金調達に動く方も多いでしょう。前回に続き、これまでにDIMENSION NOTE でお話を伺ってきた70名 に迫る起業家の事例の中から、

 

株式会社ヤプリ 代表取締役CEO 庵原保文さん

が実践された、“資金調達”の実例を見ていきたいと思います。

株式会社ヤプリ
「ノーコード」で、ブラウザー上でドラッグ&ドロップするだけでスマホアプリの開発や運用、分析が可能なプラットフォームサービスYappli(ヤプリ)を展開する株式会社ヤプリ。DXを推進する画期的なツールとして導入実績は550社を超え、2020年12月に東証マザーズ上場も果たした。

 

庵原さんがたどったプロセスは以下となっており、将来起業を視野に入れている方や今創業準備を進めている方、投資家回りをされる予定の方/既にしている方等を対象に書いています。

 

<庵原さんがたどった、資金調達のプロセス>

a) 資金調達でVCを回るも新しいマーケットの可能性を理解してもらえない

b) 自分の仕事ぶりを理解している古巣に投資家を紹介してもらう

c) プロダクト・デモで投資家の理解・共感が一気に進む

d) プレミアムな調達ラウンド実現を目指す

 

創業から上場に至るまでの7年、彼らがいかに新規市場を開拓し、投資家から信頼を集め、事業推進していったのか、当社の代表取締役CEO 庵原保文氏から学んでいきましょう。

 

“圧倒的な利便性”と“市場の黎明期”の2つの条件

庵原さんは出版社からヤフーへ転職後、同僚の佐野氏と、当時黎明期だった “アプリ”の可能性にいち早く気付き、これが起業の原体験となりました。

ヤプリを起業する3年前、ヤフーを退職するときにヤプリ共同創業者の佐野さんと一緒に、スノーボードの滑り方やジャンプ方法を解説するスノーボードハウツーアプリを作った時のこと。それは2010年にApp Storeがオープンしたばかりのアプリ黎明期の頃ではありましたが、Webサービスと比べてアプリのユーザビリティがあまりに圧倒的だったことを体感。まるで体の一部として使えるような感覚を得て、間違いなく「アプリの時代」が来ると確認されました。

 

更に、「アプリを作るのは難しい」という体験も貴重な原体験となっています。先ほどのスノーボードアプリを作るだけでも、プログラミング言語はWebではなくてiOSやAndroid用の専門言語を使わなくてはならなかったのです。ゆえにアプリが作れるエンジニアはそもそも母数が少なく、しかも一生懸命作ったアプリがアプリストアに申請却下されてしまうこともある。Webサービスを開発してきた身からすると、「なんてアプリを作るのは難しい」んだと思われたとのことでした。

 

この2つの思いが重なり、事業の選定に至ったのです。来たる「アプリの時代」に、誰でも簡単にアプリが作れる、今の言葉でいうと「ノーコードで」アプリ開発できるサービスがあれば必要とされるんじゃないか、と思いついたのか震災の翌月の2011年4月でした。起業するうえで、事業領域の選定がキモである点は、多くの書籍や記事で語られています。

 

当日のアプリ市場はまさに

  • 既存のサービス(web、ガラケー)より【圧倒的に】利便性がある
  • まだ市場自体はこれから、【黎明期】である

という、スタートアップの創業要件を満たす市場でした。

 

なぜこの2点が、特に【】の部分が大事かと言えば、人は既存サービスから乗り換えるのが面倒だと思う生き物であり、イメージでいえば10倍近くの利便性がないとなかなか乗り換えない性質があります。かつ、市場の黎明期ではなく、既に市場規模が見込めるならば、大企業が本業候補として参入してしまい、スタートアップの勝ち目が減ってしまうのです。

2010年といえば、まだ国内にiPhoneが一部浸透し始めたころのタイミングであり、大勢の人々は通称、“ガラケー(=ガラパゴスな携帯)”を使っていました。スタートアップが事業を行う上では、「まだ誰も気づいていない事実・仮説」を持てるかが勝負を分けるといえそうです。

 

創業前の2年の構想・準備期間を乗り切った“意志”

この導入を読むと、読者が想像するにヤプリの経営陣3名の皆さんは、起業も常に順風満帆だったと想像されるかもしれません。しかし、ヤプリの開発・リリースには起業前の構想2年、お客様に付加価値を分かっていただける(=業界ではPMF、Product Market Fitと呼ぶ)のに、起業後2年かかったのが実際のところです。ここからは、このチームの皆さんがどうやってサービスの投入を年単位でやりきったのか、見ていきましょう。

庵原さんいわく、創業前の先が見えない状況での2年間は本当に厳しい期間でした。そもそもプロダクトが完成するかわからない。できたところで売れるかもわからない。資金調達できるかもわからない。そういう「リスクしかない」時期にやり続けられる原動力は、定性的ですが創業者たちの「意志」や「熱量」しかありません。

 

“私はエンジニアではなく、かつメンバーは全員本業がありながらサイドプロジェクトとしてやってくれている状態でしたので、プロジェクトを息絶えさせないためにメンバーをモチベートし続けることが私の最初の役割でした”

 

 

庵原さんたちが具体的に取り組んだことは、サービスが何もない段階でかなり気合の入ったサービスページを作ったり、開発合宿をあえて上海でやったり、といった内容でした。

メンバーの皆さんが、「このサービスは本当にローンチされるんだ」「自分たちのプロダクトを作って、資金調達をしてスタートアップを起業するんだ」というマインドセットになるように、あらゆる手を尽くされました。

 

まだアプリ自体が黎明期だったため、アプリの制作ツールというのは、参考にできる他社サービスもなく、ゼロから経営陣で構想する必要がありました。そのため、開発を行う前に毎週3名でミーティングを開催し、宿題を自身に課しては次週持ち寄ってといったプロセスを2年間にわたってやり続けたのです。

加えて、サービスができたとして、本当にお客さんがつくのか、売れるのか、確証はありません。デモ画面を作らないと、検証もままならない状況です。こういった状況で、本業の仕事と兼業しながらプロジェクトを回し続けるのは相当な「意志」がなければやり遂げられません。この時の情景を庵原氏は以下のように語られています。

 

“結局起業するまでに私が仕様書を作るのに半年、黒田がデザインコーディングを作るのに半年、さらに佐野が実装開発に1年と、合計2年という膨大な時間を費やした上でようやくヤプリは生まれました。
周りにどう言われようと「諦めない」。創業者たちの「意志」こそが、不可能を現実にするのだと思います”

 

 

空振りし続けた2年半と“売り方”の試行錯誤

プロダクトへの手ごたえを感じた経営陣は創業から2年後、資金調達を開始します。IT系のCVCを訪問し、プレゼンを行うものの、当時は「これはビジネスにならない、分からない」という反応が中心でした。
創業初期はプロダクトそのものよりも、経営陣を評価してくれる投資家を探す必要があると、実際に動いていく中で気が付いていったのです。

 

“アプリの市場すらまだほとんど無い段階で「ノーコードでアプリが作れる」ことの魅力を投資家にゼロから理解してもらうのは難しいと思ったのです。単純に私たちが個人として評価されるところ、つまりは古巣のヤフーに行こうと考えました”

 

自分たちの仕事ぶりを知っている人の信頼で、投資家を探すことにした庵原氏ら経営陣はヤフーで立ち上がったばかりのYJキャピタルへ訪問。訪問にあたってはヤフー時代の上司であった川邊氏(現ヤフー株式会社 代表取締役社長)に紹介を依頼し、YJキャピタルの当時社長であった小澤氏に面会する機会を得ました。

ピッチ資料で説明していた際は、途中で飽きてしまっている様子にも見え、焦りも覚えた庵原氏でしたが、プロダクトのデモ(デモンストレーション、ユーザーがどうプロダクトを使うのか、導線を最初から最後まで説明するさま)を見せた瞬間、小澤氏の反応が変わりました。「これすごいじゃん」という反応にかわり、その場で3,000万円のシード出資が決まった。初めての資金調達が実現した瞬間でした。この際の出来事を庵原氏はこう振り返っています。

 

“私の場合は前職がヤフーであったことが幸運でしたが、他の人でも活かせることがあるとすれば「どんな仕事も一生懸命することが大切」ということです。仕事で得た信頼は、いつか必ず自分に返ってきます”

 

これは資金調達に限らず、自社の採用や顧客獲得についても同じことが言えます。ヤプリの初期の顧客を紹介してくれたのは、庵原氏が勤めていた出版社時代の同僚でした。周りに応援されることが起業においていかに重要か、伝わってくるエピソードではないでしょうか。

 

安易に妥協しない、“プレミアム”な資金調達の実現

本最初のシード(会社の創業期を指す)調達を実現したのち、2年半ほどしてシリーズA(プロダクトができ、売上が立ち始めている状態)ラウンドを実施しました。それ以前から数千万円の調達オファーはもらっていたものの、断っていました。その際の背景を庵原さんはこう話されています。

 

“実は途上で数千万円の出資話はいくつかいただいていたんです。経営者としては資金もギリギリだったので飛びつきたい気持ちもあったのですが、YJキャピタルの小澤さんに「大きくやろう」と視座を上げていただき、グッとこらえましたね(笑)”

 

庵原さん自身、GAFAやヤフーのような社会に大きなインパクトを与えるスタートアップが作りたいという思いがあったため、シリーズAラウンドでの資金調達方針はヤプリを「プレミアムなブランド」にしようと決めた背景がありました。

最近では護送船団方式のように様々な投資家を入れて資金調達をするケースもありますが、その真逆をいくヤプリのような事例もあります。とにかく投資家を選定して限定し、それによって会社の価値を高めようと考える手法も1つです。

こういった意志を固めてシリーズAの資金調達に臨んだヤプリは、老舗VCや著名エンジェルからの出資を取り付け、1億円調達を実施。ここから上場に至るまで、数十億円単位での調達を実施することになりました。

 

既存市場がない中で、どう資金調達を成功させるか

ヤプリ社の事例、いかがでしたでしょうか。資金調達にあたり、以下を自身にといかけてみましょう。

  • 誰が最初の顧客になり得るのか?
  • 売り方は合っているか?もっと早い浸透方法がないか?
  • プロダクトが完成していない中で、投資家に訴求するものは何か?
  • 自身の仕事ぶりを評価してくれる人は誰か?
  • “プレミアム”な資金調達を実現するためには、何が必要か

 

もしご自身の調達に資金が必要になった時は、ぜひ気軽にご相談ください。

 

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