学生でも分かる資金調達・資本政策のポイントー第11回 エクイティ調達③(バリエーションについて)ー

連載している内容

本コラムを担当している下平です。DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしていますが、若い皆さんにとって、株式、融資、資本政策等の用語は、とっつきづらく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、複数回にわたって、以下のような資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えします。

  • 創業期の資金調達にはどのような種類、オプションがあるのか ⇒第1回
  • 創業者の持分が希釈化していくことの意味、リアル ⇒第2回
  • 融資と株式でハイブリッドで調達し希釈化を避けることの重要性 ⇒第3回
  • 自社のビジョン、ビジネスモデルにあった最適な資金調達の手段の考え方 ⇒第4回第5回
  • 資金調達の計画の立て方、作り方 ⇒第6回第7回
  • 預金管理のポイント ⇒第8回
  • エクイティ調達 ⇒第9回第10回、今回
  • 資本政策表の読み方、作り方
  • 初回調達の適切な契約スキームとは(J-KISS、みなし優先株、転換社債型新株予約権、普通株式、優先株式)
  • 資金調達の手続と契約
  • 金融機関、株主との継続的なコミュニケーションの方法

若い方でも理解が進むように、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、お伝えしていきます。

前回はVCが出資する際の出資判断の視点について解説を行いました。今回は、バリュエーション(時価総額の算定)について解説をしていきます。

 

基本的なバリエーションの考え方

バリュエーションは最終的には需要と供給によって決定されます。具体的には、当該資金調達ラウンドをリードするリード投資家が投資できると考えるバリュエーションのレンジと起業家として受け入れることができるバリュエーションのレンジ(=当該調達金額が確保できるのであれば放出して構わないと考える放出比率のレンジ)について、交渉、協議により重なった範囲内でバリュエーションが決まります。

過去の経験からラウンドごとのバリュエーションのレンジ、相場観を示します。バリュエーションについては個社ごとの個別性が非常に高いため、あくまで参考値として捉えられてください。

  • シード
    なし又は1~3億円/事業のポテンシャルに対して検証が進んでいません。そのため、そもそもバリュエーションをつけることの難易度が高く、バリュエーションを実施せずに、J-KISS(有償の転換価格調整型の新株予約権)が活用されるケースが多いです。
     この場合、バリュエーションキャップをどうするかが重要な論点となります。バリュエーションキャップが低いと事実上バリュエーションをしてしまっているに等しいため注意が必要です。当該事業領域において実績がある方や連続起業家の場合には、初回ラウンドから数十億円ものバリュエーションがつくケースも存在し、シードラウンドといっても十把一絡げに語ることができず、ケースバイケースです。

 

  •  プレシリーズA
     4~10億円/プロダクトマーケットフィット(PMF)の検証に時間を要している場合やトラクションがまだ十分に出ていない場合など、一気にバリュエーションをつけることができない場合において、エクステンションラウンドとして実施されます。株式の種類は本ラウンドからJ-KISSよりも優先株で行われるケースが多い印象です。

 

  •  シリーズA
     10~40億円/PMFが一定以上達成できていて、さらに今後マーケティングや組織拡大に向けて投資をしていく、一定規模以上の調達ラウンドの位置づけです。
     PMFの固さ、月次成長率の高さ、経営チームの完成度、潜在的な市場規模の大きさ、ユニットエコノミクスの検証状況などに応じて、バリュエーションレンジの幅感がかなり広いラウンドになりやすいのがシリーズAラウンドでもあります。
     有望なスタートアップのシリーズAラウンドは多くのVCが出資したいラウンドでもあるので、資金調達の需要に対して資金提供者によるオファー・供給の方が上回り、バリュエーションが高騰しやすい印象を持っています。

 

  • シリーズB
     30~100億円~/PMFの解像度が高く、より一層のマーケティング、組織拡大に向けて投資の規模を高めていくフェーズです。
     やはり前述した事業の進捗に応じて、バリュエーションのレンジは大きく変わり、シリーズBラウンドで時価総額100億円を超える企業もかなり増えてきている印象です。
     このタイミングにもなると、監査法人や主幹事証券も入ってきて上場のスケジュール感も一定見えやすいことが多いです。
     本ラウンドは投資家目線ではミドルリスク・ミドルリターンのフェーズで、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)の投資対象となりやすいステージ感です。

 

  • シリーズC以降
     ケースバイケース/上場時期や上場確度をにらみながら、必要な資金を適切なバリエーションで調達していくラウンドです。上場のタイミングや上場時の想定時価総額についてそれなりに高い解像度で見え始めているタイミングであり、バリュエーションについても上場時の公募価格を想定しながらの協議となります。
     企業によっては債務超過を解消するため純資産に厚みを持たせることを目的として調達するケースもありますし、上場時期はずっと遅らせて、まだまだ投資を掘っていくために一定規模以上のグロース投資家に大きなチケットサイズでがっつり出資してもらうケースもあるラウンドで、上場後の全社戦略、資本政策も視野に入れたうえでのラウンドとなります。

 

リード投資家のバリエーションの算定ロジック

それでは、リード投資家はバリュエーションを提示するうえで、どのようにバリュエーションのロジックをつけているのでしょうか。

企業価値の算定方法は様々存在し、その代表的な手法は将来のキャッシュフローの現在価値を算出することで企業価値を算定するDCF法となりますが、VC投資の実務でほとんど使われることがありません。ここでは実務上参照されることが多いと考えられる「VC-method」というバリュエーション手法を紹介します。当該出資によって得られる想定IRRが、当該資金調達ラウンドのリスクに見合ったハードルレートを超えるかどうかを確認する手法となります。

 

■VC methodによるバリエーションの手順

計算のロジックを上記のとおりまとめたのでご参考ください。

当該出資のIRRを算出するためには、大きく以下の4つの数値を出す必要があります。

  • 本ラウンドの出資タイミング(①)と出資金額(②)
  • エグジットのタイミング(③)とその時点における想定リターン額(④)
    -これを算出するために、今後の希釈化の予定、エグジット時の予想売上や純利益を算定
    -上場時の時価総額は業績(売上or純利益)×類似企業の平均マルチプル(PSRorPER)で類似企業比較法により算定を行います

 

①~④を算出することができれば、エクセルの「XIRR」などの表計算により、年間の利回り=IRRを計算することができます。ざっくり申し上げると、早いステージでは60%以上、ミドル以降のステージでは3~40%以上のIRRは求めたいところで、当該出資案件がこのようなハードルレートを上回ってくるか、上回るための適切なバリエーションを算定、見立てることが可能となります。

VC-methodは、簡易に4つの変数で調達ラウンドのバリエーションの妥当性を判断できるため、実務上多く使われている印象です。

ご覧いただいたとおり、VC-methodを利用するにあたり、少なくともエグジット時のタイミングと時価総額を予測する必要があります。またエグジット時の時価総額を予測するためには、エグジット時までの事業計画を作る必要があります。

将来キャッシュフローの現在価値を算出することで企業価値を算定するDCF法について、変数の置き方が主観的にやりやすいため算定が恣意的とはいわれていますが、VC-methodにおいてもそれは同様だと思います。将来の成長シナリオには相当な振れ幅が出てくるため、エグジットの時期や時価総額には幅間を持たせて感応度分析を行い、アグレッシブシナリオ~ワーストシナリオでどのようにIRRが上下するか、ワーストシナリオでもハードルレートを超えることができそうか、という観点で、今回のバリュエーションを正当化できそうか参考材料としてみていきます。多くのVCは事業のヒアリングを行い、過去の経験や実際の類似モデルの上場企業の成長ペースも参考にしながら、投資家としての事業シナリオを予測、策定し、IRRを算定して、本ラウンドのバリエーションレンジを決められているように思います。

 

いかがでしたでしょうか。今回は、バリエーションについて説明をしました。DIMENSIONではシード、アーリ―ステージを中心に積極出資中なのでお気軽にご相談ください。

次回からは「資金調達の契約や手続き面」について解説を行っていきます。第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回を参考にしてみてください。

 

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