DIMENSION NOTE スタートアップ/ベンチャー経営のための
ヒントやナレッジを発信

起業家の実例に学ぶ「事業成長のノウハウ」ー第11回 ビジョン策定の実践例ー

成功する起業家が実践する、ビジョンの磨き方

こんにちは。DIMENSIONファンドの伊藤紀行です。

前回は、“資金調達”の実践例をみてきました。今回は「ビジョンの磨き方」を考えていきたいと思います。

調達した資金を活かし組織をつくり、事業成長させるには、原動力となるビジョンの策定が欠かせません。“ビジョンの策定”の実例として、DIMENSION NOTEでお話うかがってきた70名 の起業家の事例の中から、

 

ユーザーベース取締役・新野良介さん

のお話を取り上げたいと思います。

 

 株式会社ユーザーベース(DIMENSION NOTE 起業家インタビューより)
「経済情報で、世界をかえる」をミッションに掲げ、企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「News Picks」を提供している株式会社ユーザベース。2008年創業のベンチャー企業でありながら、2013年に上海・香港・シンガポールに拠点を開設し、2016年にはスリランカにリサーチ拠点を開設。翌年、2017年にはNews Picksの米国進出に伴い、Dow Jones社との合弁会社をニューヨークに設立するなど、グローバルでアナリストや編集者、公認会計士など多種多様なプロフェッショナルが集まる会社としても名を轟かせている。同社の取締役・新野良介氏に起業家の素養や組織づくりの秘訣などについて伺いました。

 

経営者の成否を分ける、“ビジョンの強さ”

以前、ユーザーベースの社長を務められていた新野さんにサービス開発におけるビジョンの要諦と重要性を我々はインタビューで伺う機会に恵まれました。

 

ぜひ、読者の皆さんにはユーザーベースが新市場・新商品を作り上げるうえで、ビジョンがどういう役割を果たしか、という目線で読んでいただければと思います。

 

新野さん曰く、ビジョンは「『目の前のお客様をいかに満足させるか』という執念と、将来のビジョン・夢の強さ、その両極の強度が高い」ことが重要だと語られています。「両極が強いこと」が肝で、一般的には、「こんなにお客様に尽くしても儲からないかな」などとあれこれ考えた挙句、結局中間解に落ちてしまうことが多いようです。

 

一つ目は、要するにお客様が、

「ああ、これを使って良かったな」
「良いサービスだったな」

と喜んでくださる以上の価値なんて存在せず、その価値を生むためにビジネスモデルを洗練させていく執念こそ、が必要だという意味なのだと語られています。

 

二つ目の「ビジョンの強さ」とは何か、掘り下げて聞いてみました。新野さん曰く、経営のボトルネックとは何か?、それは突き詰めると経営者の能力とのこと。そして、経営者の能力の最大のボトルネックは「経営者自身のメンタルモデルの大きさ」なのだそうです。

打ち手は向かうべき方向を逆算していくものなので、構想を大きく描ければ描くほど、打ち手の強度が高くなり、中間解に落ちなくて済むというのです。「たとえ人に批判されることであっても、やるべきことだったらやる」という力がそこで生まれるのです。

 

その原体験はどこにあるのか、新野さんは以下のように語ってくれました。

 

“私は事業をやっていた父親の影響が大きいですね。小さい子どもから見た父親は世界一かっこいい男で、何でもできるスーパーマンじゃないですか。その彼が経営者だったので、野球選手の息子が野球をやりたくなるのと同じように、父の姿を見て自然と備わってきたというのがひとつです。

その迷いがさらに少なくなったのは2012年頃。その時期、病気で倒れて7ヶ月くらい会社を休まないといけなくなってしまったんです。「もう社会復帰できないかもしれない」とまで言われて、その時いかに自分の持っていたものが貴重だったか、悩んでいる時間が無駄だったかを痛感しました。「こんなに素晴らしい仲間と可能性のある事業に出会っているのに、儲かるだの儲からないだの何小さいこと言ってるんだ!」と思ったんです。

大切なものを取り上げられそうになった瞬間、そのことを強く感じたという意味で言えば、私はいわば小さな死を経験したのかもしれませんね。”

 

人生として何が大切なのか、考える機会をもらったことが、新野さんの語るビジョンの強さに繋がったとおっしゃっています。

 

新野さん曰く、ビジネスの要諦は、

「何に向かって」
「どんなチームが」
「どのように考え行動するか」

に尽きると語られています。

 

「何に向かって」は目の前のお客様と将来のビジョンの両極に向かって、「どんなチームが」は困難な時に団結するチーム、「どのように考え行動するか」はPDCAを高速回転させる。これらは、言うなれば事業を上手く回すためのエンジンなのだとおっしゃっています。そして、そのエンジンのガソリンは何でしょうか。それは最終的に情熱であり、執念なのだと語られています。起業家の素養として究極的に1つ挙げるなら、「本物の情熱=執念が強いこと」。これに尽きるということなのです。

 

情熱をもち、高く保つには

読者によっては、その情熱はどうやれば強くなるのか、疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。新野さんにこの疑問をきいてみると、「情熱や執念は身につけようと思って身につけるものではなく、既に持っているものを引っ張り出す」のがいいのではと教えてくれました。

「情熱を強くする方法」ではなく、「どうやったら既に持っている情熱を引き出せるか?」という命題設定にして考えていくべきなのだと。そうすれば自ずと、過去これまでの人生のなかで、自分自身が情熱を燃やした原体験を思い返せば、引き出せる確率は上がるでしょう。

起業家、そしてこれから起業家を目指す読者にアドバイスがあるとしたら何か、新野さんに聞いてみました。

 

“「自分がいいと思うことを真っ直ぐやってもらいたい」という意味ですね。自分の思うがままに生きていってほしい、というか。情熱を持続させることが才能だとすれば、ビジネスで情熱が続く人はビジネスの才能があるし、家族に対して情熱を燃やせる人は良いお父さん・お母さんになれると思うんですよ。

そう考えると、起業家予備軍と呼ばれる人達はビジネスに情熱を傾けられる人間なので、湧き上がってくる情熱に従えば良いのではないでしょうか。要は、「他人の人生を生きずに自分の人生を生きる」ということなんです。

自分の情熱を持続させているということは最も希少性のある価値で、その執念の大きさにアイデアやリソースがついてくるだけです。成功するか否かはマーケットが決めてくれるんです。ですから、「どこまで成功するか」をいちいち考えたり批判を恐れたりせず、自分の好きなことを愚直に追いかけていってほしいというのが私のメッセージです。”

 

自身が情熱を掲げて起業している創業者がゆえのメッセージ、と捉えられるのではないでしょうか。

この点はぜひ、読者の皆さんに強調して伝えたい点です。上手くいくかはマーケットで決まる面も大きいですが、製品として世に出せるかは起業家、創業者が心の底からやりたいと思うかどうかだ、というのはまさにその通りだと思います。

読者の皆さんにも、人生をかけてやりたいテーマを選んでほしいと切に願っています。その情熱こそが最終的に顧客開拓、市場開拓、企業としての成長成否を分けると、筆者も感じているからです。自分の人生を悔いなく、全力で生きるために、ビジョンに根差して事業テーマを考えてもらえればと思います。

 

ビジョンは採用も、投資家からの調達も活かせる

さて、ユーザーべース新野さんの事例はいかがだったでしょうか。

ここまでみてきた事例を踏まえて、ビジョンの効用を改めて押さえておきましょう。

唐突ですが、なぜ、あなたは起業するのか?という問いに一言で答えられるでしょうか。大体の人は、色々と考えた過程を一言で伝えるのに悩むのではないでしょうか。一方、採用候補者から「なぜこの事業をやろうと思ったのか?」と聞かれた際に、明確に伝えられなければ入社には至らないであろうし、投資家に伝えられなければ資金調達もままならない。それこそが本記事を記すことになった所以です。

どんな立場の人にも自分が起業することになった理由を伝える手段として、自身の原体験を整理し、実現したい世界を言語化することをおすすめしています。この「実現したい世界」こそが、よく言われるビジョンであり、ビジョンがあることで、採用など各方面にポジティブな効果が期待できる。ゴールの見えない組織に入社したい、出資したい、とはならないからです。創業初期からビジョンが必要かは経営者ごとに考え方があるが、言語化できているほうが強い組織ではあると、私は思います。今回の章が読者の会社のビジョンづくりのヒントになればと願います。

 

ビジョンを磨くには、原体験がヒントなることも

ビジョンとは実現したい世界観であり、いきなり生まれてくるものではありません。長い時間をかけて自身の内省を深めながら、少しずつ形にしていくものに近いです。そういう意味では、「いきなりビジョンを言語化するのは骨が折れるのでは」という感想を持つ方もいらっしゃるでしょう。我々としても、いきなりビジョンを言語化せよ、というのはかなり難易度が高い肌感があります。

ではどうするか、ここで重要になってくるのが起業を志すに至った、当初の原体験なのです。繰り返し申し上げている通り、この原体験というのは何か特異な、珍しい体験というわけではありません。言葉にすると他の人も同じように体験したことのある出来事について、自身の人生における意思決定に大きく影響を与えたのなら、それは立派な原体験と言えるでしょう。

ビジョンをいきなり言語化するのは難しくとも、前述で触れた起業の原体験は読者の皆さんも言葉にしやすいのではないでしょうか。なぜ起業した/したいのか、起業した先にどうしたいのか、どんな世界を実現したいのか、の順で少しずつ言葉にしていってはどうでしょうか。目の前の顧客をどんなサービスでどう幸せにしたいのか、書き出していくと延長線上にビジョンが浮かび上がるのではないでしょうか。

たとえば、これまでの起業家へのインタビューで、「自分とは異なる価値観を持つ集団に身を置いたこと」が原体験になっている例もあれば、幼少期から何事も自分自身で決めてやり抜いた経験が起業に影響を与えている経営者もいらっしゃった。自分自身が言葉にしていないだけで、自身の思考や行動の源泉になっている原体験は誰しも少なからず持っていると感じます。

起業に影響する自身の原体験が見えれば、どんなことにこだわりを持っているか、どんな世界観が居心地良いのかも見えやすくなるでしょう。自身が過去に助けてもらった体験を他の人にも届けたい、苦労した体験を他の人にしてほしくない、などの実感があればビジョンとして言葉に落ちるのは時間の問題なはずです。焦らずに、仲間や周りのメンターと話しながら自身の言葉に落としてみるのはいかがでしょうか。

 

第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回も参考にしてみてください。

DIMENSION NOTEについてのご意見・ご感想や
資金調達等のご相談がありましたらこちらからご連絡ください