
#レジェンドに聞く
先達に学ぶー第1回 新卒の事業承継ー

本コラムを担当している下平です。DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしていますが、若い皆さんにとって、株式、融資、資本政策等の用語は、とっつきづらく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、複数回にわたって、以下のような資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えします。
若い方でも理解が進むように、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、お伝えしていきます。
今回は、スタートアップ企業がエクイティファイナンスを行う際に使われる出資スキームの種類について、全体感と最近のトレンドについて説明します。
・ 普通株式
出資と引き換えに普通株式を発行するスタンダードなエクイティ調達の手段です。
創業期にエンジェル投資家等から資金調達を行う際、普通株式での調達が行われるケースを目にしますが後述するJ-KISSの普及に伴いかなり少なくなってきている印象です。普通株式による出資においては、バリュエーションを決める必要があります。不確実性の高いシードラウンドにおいてバリュエーションの実施を先延ばし・先送りでき、雛形も流通していて、簡単・迅速な調達ができる、J-KISSの方が起業家にとっては有利といえるでしょう。
・転換社債型 新株予約権付社債(Convertible Bond/以下「CB」と略します)
会社が発行する社債の1つです。社債とは、会社が発行し投資家から資金提供を受ける代わりに満期までに利子を支払い、満期には元本を返済する有価証券のことです。
銀行などの金融機関からの融資では金融機関からしか資金の提供を受けられませんが、社債なら一般投資家を含めて資金調達を募ることができます。CBとは、社債を転換価額で株式に転換することができる社債のことをいいます。
CBの保有者は、転換権を行使することで、転換価額で会社の株式を取得することができます。
投資家として純粋なエクイティ出資はまだ様子を見をしたい、社債引受後の会社の事業状況次第で、アップサイドを狙いにエクイティに転換したいニーズが存在するケースで用いられる資金調達手段です(一般的な融資よりもより投資家側に有利なことから利率は安く設定されます)。
投資家の立場としては、社債保有者としての元本保証+利子で、手堅いリターンを狙いながら、アップサイドとしてエクイティに転換したほうがより大きなリターンを得られると判断した場合には、エクイティに転換できる選択肢、オプションを持つことができる投資形態であり、投資家にとっては選択肢を多く持つことができるスキームとなります。
スタートアップ側としては、一次的には社債であるため社債の内容にしたがって返済(償還)の必要が出てくる契約であり、エクイティとは言い難い点に注意が必要です。
少し前には保守的な投資家がシードアーリーステージの企業に出資する場合、本スキームが用いられることもあったようですが、現在では、特殊な文脈の場合を除いて、後述するJ-KISSの普及、認知向上も相まって、このようなステージで用いられることはほとんどないように思います。
ミドルステージ以降、金融機関がスタートアップ企業に対して大型の融資を実行する際に、金融機関としてはスタートアップに資金提供する以上将来のアップサイドも積極的に得ていく観点から、CBが利用されるケースを目にします。DIMENSIONの出資先では、五常・アンド・カンパニーがCBでの資金調達を実施しています。
“<民間版の世界銀行を目指す五常・アンド・カンパニー、シリーズD資金調達の第一回クローズで23.3億円を調達>
本シリーズの第一回クローズには既存株主であるセブン銀行やSBIグループ、2020年2月よりレンダーとして名を連ねているクレディセゾン、個人投資家複数名が優先株式と転換社債型新株予約権付社債の引受けの組み合わせにより参加しました”
(五常・アンド・カンパニ社ープレスリリースより引用)
・J-KISS型新株予約権(有償の転換価格調整型新株予約権/Convertible Equity)
出資と引き換えに新株予約権を発行し、将来一定の条件に適合するファイナンスが実施された場合、当該ファイナンスで発行される株式に転換できる旨を新株予約権の内容として定める資金調達方法です。
Coral Capitalさんが無償公開しているコンバーティブル・エクイティを使ったシード投資のための投資契約書のことをいいます。雛形についてはこちらをご参照ください。
バリエーションについては資金調達時点で実施せず、計算式だけ決めて(=転換価格をあらかじめ所定の金額で定めないため、転換価格調整型 といわれます)、先延ばしすることができる点で起業家にとって有利な契約となっています。2022年現在、シードファイナンスで最も活用されている資金調達手段のように思います。
J-KISSには、主に以下のメリットが存在し、スタートアップ業界において普及してきている印象で、DIMENSIONでもJ-KISSを活用するケースが増えてきています。
①バリュエーションを先延ばしすることができる。但し、投資家保護の観点からバリエーションのキャップ(上限)やバリエーションのディスカウント(たとえば次回調達ラウンドのXX%のディスカウント)が入るケースがあり、この点が投資家との交渉ポイントとなります。
②会計上、負債にならない
③J-KISSの雛形が無償提供されている(=業界で共通認識、理解がある)
④調達の手続が優先株と比較して簡易、簡素
・みなし優先株式
普通株式を発行しつつ、将来一定の条件に適合するファイナンス(適格ファイナンス)が実施された場合、優先株式に転換するスキームです。
シード・アーリーステージにおいて優先株を発行するほどのステージではないが、将来の優先株発行に備えて優先株への転換を担保したい場合での活用が想定されます。J-KISSとは異なり、普通株式を発行する際にバリエーションを行う必要があるため、J-KISS登場以来、実務上活用される頻度は高くない印象ではあります。
・優先株式
出資と引き換えに普通株式よりも投資家にとって経済的、ガバナンス上有利な内容が定められた種類株式を発行するスキームです。
シリーズA以降で一定規模以上のエクイティファイナンスを実施する場合には、殆ど本スキームが用いられるように思います。実務上、優先株式が活用することによって、投資判断においてダウンラウンドを恐れることなく、躊躇なく高いバリュエーションをつけやすく、一方で、起業家にとっても希釈化せず高いバリュエーションで大きな金額をく調達することができるため、VCと起業家、お互いにとってメリットが大きいという点があります。詳細については次回以降、解説したいと思います。
投資家の属性、資金調達の背景、企業特性によってケースバイケースではありますが、近年のエクイティファイナンスの傾向値としては、シードステージではJ-KISSが利用されるケースが多く、シリーズA以降は優先株式での調達が多い印象で、DIMENSIONでもそのような形態で出資させていただくケースが多いです。
いかがでしたでしょうか。今回は、出資スキームの種類・トレンドについて説明をしました。DIMENSIONではシード、アーリ―ステージを中心に積極出資中なのでお気軽にご相談ください。
次回は、「優先残余財産分配」と「みなし清算条項」等、優先株式が実務上活用されている背景、スキームの詳細について説明します。
第1回、第2回、第3回、第4回、第5回、第6回、第7回、第8回、第9回、第10回、第11回も参考にしてみてください。