
#レジェンドに聞く
先達に学ぶー第1回 新卒の事業承継ー

本コラムを担当している下平です。DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしていますが、若い皆さんにとって、株式、融資、資本政策等の用語は、とっつきづらく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、複数回にわたって、以下のような資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えします。
若い方でも理解が進むように、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、お伝えしていきます。
今回は、主にシリーズA以降のほとんどのエクイティファイナンスで活用される優先株の役割や意義について説明をします。
2023年の現在、シードステージにおいては、前回解説した「J-KISS」か普通株式を活用するケースが多く、シリーズA以降の調達ラウンドではしっかりとバリュエーションを付けてそれなりの金額の調達を行う必要から「優先株式」での調達が殆どです。シリーズA以降の調達では標準的になっているといってよいと思います。
VCにとっては、「優先株式」による、「優先残余財産分配」と「みなし清算条項」の設計でM&Aによるエグジット場面において、バリュエーションが下がるダウンラウンドの場合でも、バリエーションによっては投資原本+αの投資リターンを確保できるようになります。
M&Aによってスタートアップの企業価値が現実化した場合、スタートアップが清算したかのように捉えて、M&Aの対価分配について、残余財産の分配を適用する仕組みが「みなし清算条項」です。M&Aの際に会社が清算したと「みなす」ことから(実際に清算されているわけではありません)、「みなし清算条項」と呼ばれます。
本スキームの活用により、VCは投資判断においてダウンラウンドを恐れることなく、バリュエーションをつけやすく、一方で、起業家にとっても希釈化せず高いバリュエーションで大きな金額を調達できるため、VCと起業家、お互いにとってメリットが大きいという点があります。
優先株式の設計において日本の実務では、優先倍率1倍、参加型がまだまだ多い印象です。参加型とは、M&A発生時において、投資原本1倍を回収した後、残り分配についても投資家の持株比率に応じてリターンを享受できる設計です。シリコンバレーではVCの競争環境が激しいことやM&Aの頻度、金額感が高いこともあり、投資倍率1倍・非参加型がデフォルトといわれています。参加型はグローバルで見た場合に一般的ではないことに注意が必要で、将来のエグジットシナリオを踏まえて起業家として積極的に投資家とコミュニケーション取っていってよい点だと思います。
たとえば、VCとして創業期に将来性を高く評価しPost20億円で2億円を普通株で出資(VCが10%保有、創業者が90%)、結果として事業がうまくいかなくなり、バリュエーション10億円でのダウンラウンドでM&Aをせざるをえなくなった場合(それなりの頻度で発生します)、普通株で出資しているケースですと、VCが1億円、創業者が9億円の回収となりVCは投資元本を割り込む結果となります。
一方、たとえば、「残余財産分配額1倍、参加型」で優先株として出資していれば、10億円の売却額のうち、まずVCが投資元本として出資額2億円を回収し(元本をトップオフで回収)、残りの8億円について創業者:VC=9:1で分け、結果の分配額としては、創業者が7.2億円、VCが2.8億円を回収することができ、50%のダウンラウンドであっても、投資原本+αのリターンを得ることができます。
このように、ダウンラウンドでも一定のプラスリターンを得られる設計によって、VCとして躊躇せずに積極的に高いバリュエーションを付けられるようになる点が優先株活用のメリットとなります。「優先株式」の活用がエクイティ革命といわれる理由がこの点にあります。
優先株式のメリットはほかにも色々ありますが、実務上強く意識される点はこのポイントとなります。
次回は、優先株式を発行するラウンドで契約締結される、①総数引受契約、➁投資契約、③株主間契約、④発行要綱(定款変更案)の4つのドキュメントの概要について解説を行います。