スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く成功の原則 第0回 本シリーズの概要と全体像

70名の起業家の実体験のストーリーから投資家が紐解く、成功の原則

こんにちは。DIMENSIONファンドの伊藤紀行です。

・スタートアップを成功させるためには、何が必要なのか?
・何をすべきで、逆に何に気をつけるべきなのか?

 日々、多くの起業家に身近に接しているベンチャーキャピタルの視点からこれらの問いに答える成功の原則を紐解きたく、本シリーズを開始しました。
また、上記を踏まえこの春出版を予定しています。本シリーズではその中から一部を抜粋し、コラムとして公開していきます。

 

筆者は独立系のベンチャーキャピタル(DIMENSIONファンド)に所属しており、日々スタートアップへの投資と経営支援に従事しています。弊社はその前進となるドリームインキュベータ時代の実績を含めると、20年の期間にわたりチーム全体で150社を超えるスタートアップへの投資を実行、そのうち32社が上場(2023年3月現在)しています。

出資支援先の中で一般的に知られている銘柄では、例えば、
・明石家さんまさんのコマーシャルで有名なポケトーク

スタートアップ界隈に少し詳しい人ならご存じの銘柄では、
・ソフトバンクビジョンファンドやゴールドマンサックス証券から137億円を調達したLegalOn Technologies
・初値1400億円での大型上場となったanycolorと並ぶ二大バーチャルユーチューバー事業を営むカバー

などがあります。

スタートアップが成功する確率は100社に1社とも、1000社に1社ともいわれる中で、投資先の5社に1社の上場実績は「高打率」と表現されることもあります。その成果を実現するために厳選集中の方針を掲げており、毎月投資担当のフロントメンバーで毎月100社を超える起業家の方にお会いし、弊社の支援がマッチしそうな企業を探し出します。そうした中からこれはという企業を選別し、さまざまな角度から調査や分析・お客様や有識者へのインタビューを重ねた上で、やっと月に1社投資するか否かという割合です。その過程で我々が検証している視点、あるいは投資後の上場実現を目指して、微力ながら伴走支援していく中で得られた知見を本コラムでお伝えできたらと思っています。

もちろん、スタートアップの主役は起業家および経営陣、さらには各社で働く従業員の皆さんであり、投資家は黒子的な存在にすぎません。ですので、本書はリアルな実践例として上場・非上場の起業家の実際のエピソードを軸にしながら、複数の業界・企業を横断的に見ていく中で得られた客観的な観点を織り交ぜて考察していきます。起業家のリアルな軌跡をケーススタディとして、具体的なイメージをつかんでもらえればと思っています。
これまで我々のメディアでの取材に応じてくれた70名を超える起業家の皆さんの実体験が、本書の土台になっています。

また、スタートアップの急成長を支えるノウハウは、伝統的な企業でも活用できる箇所があると考えています。世の中が目まぐるしく変化していく昨今では、ほんの数か月の差分が、市場を制するリーダーとなれるか/追随する1社で終わるかの明暗を分けてしまうこともあります。本書では起業の実例とともに、大きな成長を短い時間で実現する方法を紹介していきます。このシリーズが、読者の皆さんが手掛ける事業を飛躍させる一助になり、事業の成功につながることを切に願っております。

 

課題発見から上場までの全体構成

本シリーズの構成は大きく、前編、中編、後編に分かれています。
前編:事業の核になる課題の発見/仮説の検証/投資家からの資金調達
中編:ビジョンの設定/採用と組織作り/マーケティング&集客
後編:非連続的な成長の実現方法/危機の乗り越え方/M&A/IPO

スタートアップを起業した後、新しい事業をおこした後に必要なステップや注意すべき点について、会社設立の段階から順を追って説明しています。ただし、これらが順番通りに起こるわけではなく、後のステップを先に経験することになったり、同時並行で進んでいったりするケースもあります。場合によっては、資金を集めた後に最初のステップに戻り、事業転換をせざるを得ないようなケースもあります。

先述の通りリアルな起業家のストーリーも含めていますので、ご自身が好きな起業家のストーリーを選び、彼らのたどった道を追体験していただくのも面白いかと思います。その多くは、七転び八起きの挑戦の物語で、成功した起業家のストーリーを追体験することで、自らの糧とすることができるはずです。ページ数の関係から内容を抜粋して掲載しているので、更に詳しく知りたい場合は、起業家のインタビューの全文が掲載されている元記事、もしくはYouTubeチャネルよりご確認ください。同チャネルでは、インタビューのカギになるポイントを編集して投稿しています。

 

 

起業家はもちろん、スタートアップへの参画を目指す人の〝目利き〟にも

このコラムは起業を志す人・企業内で新しい事業づくりに挑戦する人だけではなく、スタートアップで働くことに関心がある方にも、“目利き”の視点で参考になるのではないかと思います。なぜなら、スタートアップに参画することで、自身の貴重な資源である時間を投下することになり、多額のお金を投資する私たち投資家と同等、もしくはそれ以上に真剣な目利きが必要になりうるからです。

ミクロの個人の視点で見たとき、一般論として大きな企業で働くより個々人の裁量権が大きくなるケースが多いでしょう。また、成長する企業で働くことで、スキルやネットワークの面でも、経済的な面でも報われる可能性もありえます。かつて黎明期のGoogleへの参画を(優良企業からの好待遇のオファーと比べる中で)迷っていたシェリル・サンドバーグ氏に、

〝ロケットに乗れる機会を得たなら、迷わず飛び乗れ。急速に成長していて大きなインパクトを残している会社なら、キャリアは勝手についてくる。どの座席にいるかは関係ない〟(シェリルサンドバーグ氏のハーバード大学卒業式でのスピーチを基に、筆者意訳。出典は末尾に記載)

とエリック・シュミット氏が熱く語った逸話を、聞いたことがあるという人もいらっしゃるかもしれません。そう、大成功するスタートアップの一員として働ければ、皆さんのキャリアはまさにロケットのような飛躍を遂げ、想像を超えるほどの成功につながる可能性があります。実力があるのに、安定した環境でくすぶっているのはもったいないと思いませんか。人生の先輩方が築いてきた事業を更に大きくすることも非常に素晴らしいことですが、自分たちで新しい事業をつくることにチャレンジしてみることは、とてもワクワクすることだと思います。

一方で、スタートアップに失敗はつきものです。我々のチーム出資支援先の5社に1社が上場していると先ほどお伝えしましたが、逆にいうと残り4社は上場に至っていないということです。(上場=成功という意図ではありません。こちらについは本文にて触れます)この確率を高いとみるか低いとみるかは皆さん次第ですが、いわゆる安定したキャリアではないことは確かです。人生の貴重な数年を費やしたにも関わらず、その会社がなくなってしまったり、不本意な形で買収されてしまったりする可能性もありえます。その事実を踏まえた上で、皆さんが参画を検討しているスタートアップが自分の人生の貴重な時間を投下するに値する企業か、その目利きに本書の内容が活きればと思っています。

 

 

目次と全体像、各ステージで登場する起業家の皆さん

現時点での目次と全体像は以下となります。(今後目次は改定される可能性があります)

Stage:1 課題発見~事業の核となる、アイデアを見つける~
本ステージで登場する起業家プロフィール
・「課題発見」のキーポイント
・ケーススタディ
 Case:A 弁護士ドットコム株式会社 代表取締役社長 元榮太一郎さん
 Case:B カバー株式会社 代表取締役社長 CEO 谷郷元昭さん
・さらに学ぼう
 課題の発見
 課題の初期検証
 課題発見後の初期動作

Stage:2 仮説検証 ~アイデアを磨き、事業に昇華する~
本ステージで登場する起業家プロフィール
・「仮説検証」のキーポイント
・ケーススタディを読む前に
 仮説の構築
・ケーススタディ
 Case:C SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二さん
 Case:D 株式会社北の達人コーポレーション 代表取締役 社長 木下勝寿さん
・さらに学ぼう
 仮説の検証

Stage:3 資金調達 ~どういうポイントを押さえ、誰から調達するのか~
本ステージで登場する起業家プロフィール
・「資金調達」のキーポイント
・ケーススタディを読む前に
 そもそも資金調達とは何か?
・ケーススタディ
 Case:E 株式会社ヤプリ 代表取締役 庵原保文さん
 Case:F 株式会社LegalOn Technologies 代表取締役 角田望さん
・さらに学ぼう
 株式調達と融資
 株式調達の実際
 投資家タイプ
 資本コストを意識しよう

Stage:4 マーケティングと集客 ~戦略に沿った施策とブランディング~
本ステージで登場する起業家プロフィール
・「マーケティングと集客」のキーポイント
・ケーススタディを読む前に
 プランニング
 施策の実行
・ケーススタディ
 Case:G BABY JOB 株式会社 代表取締役社長 上野公嗣さん
・さらに学ぼう
 プランニング
 評価とアクション
 コミュニティとファンづくり

Stage:5 起業の原体験とビジョン ~ミッション/バリュー/ビジョンが会社の体幹をつくる~
本ステージで登場する起業家プロフィール
・「起業の原体験とビジョン」のキーポイント
・ケーススタディを読む前に
 なぜビジョンが重要なのか
・ケーススタディ
 Case:H 五常・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 慎泰俊さん
・さらに学ぼう
 自身の人生を内省し、何を成し遂げたいのか言葉にする
 経営者トップが繰り返し伝えた言葉だけが、組織に伝播する
 ビジョンと会社経営

Stage:6 採用と組織づくり ~非連続な成長のための戦略とメンバー配置~
本ステージで登場する起業家プロフィール
・「採用と組織づくり」のキーポイント
・ケーススタディを読む前に
 採用
・ケーススタディ
 Case:I マネーフォワード株式会社 代表取締役社長CEO 辻 庸介さん
 Case:J 株式会社SHIFT 代表取締役社長 丹下 大さん
・さらに学ぼう
 採用のノウハウ
 配置と体制づくり

Stage:7 事業成長の機会とリスク ~成長実現のために頭に入れておきたい主要論点~
本ステージで登場する起業家プロフィール
・「事業成長の機会とリスク」のキーポイント
・ケーススタディを読む前に
 新市場の創出
 経営者として必要な心持ち
・ケーススタディ
 Case:K マネーフォワード株式会社 代表取締役社長CEO 辻 庸介さん
・さらに学ぼう
 危機への対処
 事業成長の実現
 法規制を乗り越えるには
 大企業との連携
 海外展開

Stage:8 IPOを実現するために ~上場のプロセスと事業拡張~
本ステージで登場する起業家プロフィール
・「IPOを実現するために」のキーポイント
・ケーススタディを読む前に
 IPO・上場とは何かを理解する、上場目的を設定する
・ケーススタディ
 Case:L 株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO 天沼 聰さん
・さらに学ぼう
 上場審査に耐えられる準備チームをつくっていく
 共闘を通じて監査法人、主幹事証券、シ団に応援してもらう
 何を解決する会社か、上場株投資家にシャープに伝えられるようにする

 

注釈・参照先
・【出展】
SHERYL SANDBERG – 2012 HBS GRADUATION CEREMONY
Get on a rocket ship. When companies are growing quickly and they are having a lot of impact, careers take care of themselves. If you’re offered a seat on a rocket ship, don’t ask what seat. Just get on.

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