
#ファイナンス
学生でも分かる資金調達・資本政策のポイントー第12回 エクイティ調達④ 出資スキームの種類・トレンドー

本コラムを担当している下平です。DIMENSIONチームでは高校生~大学生のみなさんにも積極的に出資をしていますが、若い皆さんにとって、株式、融資、資本政策等の用語は、とっつきにくく分かりづらいことが多いのではないでしょうか。本稿では、複数回にわたって、以下のような資本政策、資金調達の基本的な知識や考え方についてお伝えします。
若い方でも理解が進むように、基本的な用語の定義やお薦めの書籍についても紹介しながら、お伝えしていきます。
今回は、主にシリーズA以降の殆どのエクイティファイナンスで活用される優先株ラウンドの契約におけるドキュメントの概要について説明をします。
優先株式発行のラウンドの場合、ケースバイケースではありますが、以下の5つのドキュメントを準備することが一般的です。
①総数引受契約
➁投資契約
③株主間契約
④優先株式の定款
⑤みなし精算に関する分配契約
以下それぞれ概要について説明をします。
①投資契約
投資契約は「株式を購入」するために締結する契約です。
投資契約において規定される条項は、秘密保持義務等の一般条項を除くと、以下のような条項です。
・引受、払込、払込までの誓約事項
・払込条件、払込後の手続き、書類の提出
・資金使途の制約、表明保証 など
②株主間契約
株主間契約で規定される条項は、大きく「出資後の会社の運営やガバナンスに関する取り決め」と「株式に関する取り決め」の規定に分かれます。
投資契約が株式を購入するための契約であるのに対して、株主間契約は、出資後、会社、経営陣、投資家等の関係者の行動を規律する規定として機能します。
分かりやすさの観点から、会社運営・ガバナンスについてと株式に関する取り決めについてと、株主間契約をさらに2つの契約に分けて規定することもあります。個別状況ごとの協議となりますが、それぞれ以下のような条項が定められるケースが多いように思います。以下は一例。
【会社の運営・ガバナンスについて】
・職務専念義務、競業避止義務
・取締役の派遣
・取締役会または経営会議の開催、オブザーバー参加権
・情報提供
・事前承諾、事前協議、通知
・誓約事項(アームスレングス、知財確保、維持、法令順守)
・上場努力義務
【株式の処分について(一例)】
・新株引受権
・新株予約権の制限
・経営株主による株式譲渡の禁止、譲渡通知と先買権、共同売却権
・共同売却請求権
③総数引受契約書
新株を引き受ける方と発行される新株が全て引き受けられることが決まっている調達ラウンドで締結される契約です。株式の全部を引き受ける契約のことで、同じラウンドにおいて発行される株式の全てについて”このような募集要項で誰に何株発行されるか”という点が明確に記載される必要があります。①の投資契約の中に記載することで兼ねることも多い印象です。総数引受契約の締結については株主総会での承認が必要となる点に留意しましょう(取締役会が設置されている場合には取締役会)。
④定款(優先株式発行要綱)
優先株式の定款において重要な点は主に以下です。
・残余財産の優先分配:
①優先株主が対価分配において優先されるのは何倍までか
②優先株主が優先分配を受けた後に分配すべき金銭が残っている場合、優先株主が当該分配に参加できるか、参加できないか。さらに、参加型とする場合、各シリーズ間の優劣関係、参加の上限を設けるかどうか等
・普通株式への転換請求権:投資家はいつでも請求することにより、優先株式を普通株式に転換することができる権利。実務上、本条項が重要なのは、希釈化防止条項の点です。VCとして心配なのが出資後、事業が思ったようにうまくいかず、出資時よりも低い時価総額で資金調達が実施され(ダウンラウンド)、持株株比率が大きく下がってしまう点ですが、ダウンラウンドの事態に備えて、優先株1個に対して希釈化を避ける観点から、普通株が1個よりも多く交付される設計(転換比率を調整する設計)を希釈化防止条項といい、どのようにワーディングするか重要な論点となります。
・普通株式の全部取得条項:上場申請について取締役会で可決され、主幹事証券から要請があった場合、スタートアップのみの意思により、種類株式の全部を普通株式に転換できる全部取得条項の権利を入れるのが一般的です。
その他にも以下のような条項が定められます。
・優先配当
・種類株の議決権の数
・譲渡制限
・償還請求権
・みなし清算
・株式の分割、合併
・種類株主総会の決議の排除 など
優先株発行ラウンドにおいては定款を変更する必要があります。
⑤みなし清算に関する分配契約
M&Aが発生した場合、会社と株主が得られる対価の合計を残余財産とみなして、残余財産の優先分配の規律を適用する契約です。みなし清算条項を定款の規定だけでは法的効力として不十分という見解も有力なことから、実務上は株主間において契約でも締結を行います。
いかがでしたでしょうか。今回は、優先株ラウンドの契約におけるドキュメントの概要について説明をしました。DIMENSIONではシード、アーリ―ステージを中心に積極出資中なのでお気軽にご相談ください。
第1回、第2回、第3回、第4回、第5回、第6回、第7回、第8回、第9回、第10回、第11回、第12回、第13回も参考にしてみてください。
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