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スタートアップ――起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則 第1回 70名の起業家の実体験から紐解く、課題発見の勘所

70名の起業家の実体験から紐解く、課題発見の勘所

こんにちは。DIMENSIONファンドの伊藤紀行です。

日々、多くの起業家に身近に接しているベンチャーキャピタルの視点から、

・スタートアップを成功させるためには、何が必要なのか?
・何をすべきで、逆に何に気をつけるべきなのか?

これらの問いに答える成功の原則を紐解きたく、本シリーズを開始しました。

(本コラムの内容は4/15発売の「スタートアップ――起業の実践論」をベースに記述されています。全体版は、同書をご参照ください!)

今回は、全8ステージの中の初回、事業の核になる課題発見の勘所について。メディアなどでは成功した事例がとりあげられるため、起業の本当の初期段階について具体的なイメージを持っている人は多くはないかもしれません。

このコラムでは、課題の発見、課題の初期検証、発見後の初期動作の各ステップでカギになる要素について、起業家の事例とともに考えていきたいとおもいます。課題の見つけ方、市場の規模やタイミングの初期的な検証についてふれていくため、既に課題を見つけており事業をスタートしている人にとっては基礎的な内容となる旨、ご理解頂けますと幸いです。

本ステージでは、以下の勘所をケーススタディにて考察していきます。

●やりたいことをやるだけではなく、そこに自分の得意を重ねる
●その市場は伸びるか、その市場で勝てるかを掘り下げる
●リサーチは今この瞬間にも始め、断続的にアップデートし解像度を高める

課題を発見するプロセスは難易度が高いですが、逆に一度取り組むべき課題が明確になると大きく前進します。実際に多くの起業家も、これまでの過去の経験からふとビッグアイデアを閃いたり、人とのつながりの中で画期的なアイデアが浮かんだりして事業化に至っているケースが多々あります。

本ステージで紹介する2名の起業家は、「自分自身が感じた課題を元に、起業する」「得意領域の課題で、起業する」といった手法で課題を見つけ、大きく事業を成長させています。ぜひ彼らの実例を参考にして、自分たち〝ならでは〟の課題を見つけていきましょう。

 

4/15発売 「スタートアップ――起業の実践論」

 

 

初期の起業家に共通する課題の見つけ方

そもそも、スタートアップの起業はどのように始まるのでしょうか。起業家がメディアなどで取材されるときにはすでにビジネスが一定規模になっていることが多く、さらに多くの人が従業員として働く場合には、会社の規模が一定以上になるのが一般的です。そのため、起業前や起業直後のことについては、あまり具体的なイメージを持っていない人も多いかもしれません。

我々ベンチャーキャピタルの仕事は、日々さまざまな起業家と会うことに始まります。コロナ以前は対面での面談が多かったのですが、今はZoom やGoogle Meet などオンラインツールの浸透で効率的に起業家と面談できる環境が整い、その数もぐっと増えました。さらに、問い合わせをもらったり、資料のみ拝見したりする方の数も含めると、少なくとも毎月数十名、ピッチイベントなどがある多い月には100名に迫る月もあります。

連日起業家の方と話していく中でも、起業家のステージはそれぞれです。筆者のファンドでは主に創業初期~数年以内のシード&アーリーステージと、上場まで2~3年以内に迫ったレイターステージを対象としています。そのため、売上も組織も整いつつあり〝いざ、上場を実現せん〟とする起業家とお話しすることもあれば、彼らが事業をスタートしたばかり、あるいは事業を開始する前からご相談いただくこともあります。後者の場合、まさに、これだ! という課題を発見し動き始めたばかりの状況でご一緒することになります。何度かそういったことを経験する中で、そこには1つの共通項、いうなれば王道の流れのようなものがあるのではないか、と感じ始めました。

今回の出版にあたり、筆者が携わるオンラインメディア『DIMENSION NOTE』での70名以上の起業家への取材を改めて見直していく中で、そのステップがさらに具体的に見えてきました。そもそも事業をどのように始めたらいいのか、多くの起業志望者が気になるスタート部分を、第1ステージでは見ていきます。

 

CIC Tokyoで開催された、起業家向け勉強会の様子

 

 

まずは、自分が課題に感じていることから探してみる

成功する起業家は、どのように会社をスタートするのだろうか? そこには何か共通項はあるのでしょうか?

多くの場合、何らかの形でまだ世の中で解決されていない課題や問題に気づき、そこからその解決策となるような事業を考えていく、という流れがあります。筆者が日々お会いする起業家、そして『DIMENSON NOTE』で取材した起業家を見ていくと、課題の気づき方には、いくつかのパターンがありそうです。起業して現在成功している先輩諸氏は、一体どのように課題に気がつくことができたのか、このステージではそんな問いからスタートしていきましょう。

 

まずは、読者の皆さんに1つ質問をさせてください。皆さんが日々生活していく中で、どんなことに不便を感じているでしょうか。少し時間をとって考えてみましょう。

「必要なサービスがない」
「〇〇に困っている」
「××に不満をもっている」など

おそらく1つ、2つはなんらかの考えが浮かんできたのではないでしょうか。パッと思いうかばなかった方は、過去に成功したビジネスの事例でも大丈夫です。あのサービスは、こんな課題を解決しているのだろう、とイメージしてみましょう。実は成功する起業家も同じで、最初は自分自身や自分の身近な人が不便に感じている課題からスタートすることがかなり多いです。

たとえば、2021年10月に米国上場したファッションサブスクのRent the Runway は、自分の妹が友人の結婚式に着ていくためだけに1500ドルのドレスを買おうとしている話を聞いた際、〝オンラインでレンタルできるドレスがあったらいいのでは?〟とふと思ったことからスタートしています。実際にその気づきを事業化していくには、初期的な気づきを深堀して顧客の期待を超えていく必要があるのですが、始まりは他の多くの人が感じるような、フワッとした疑問でした。

「あれ、これって意外にまだ解決策がないよな」
「もしかしてこれってビジネスになるのでは?」

など、ふとした気づきがスタートになっているケースが多々あります。本ステージで紹介するケーススタディは、まさにそういった事例を準備してみましたので、ぜひ参照してみてください。後に偉大な企業をつくる起業家も、最初は何気ない問題意識からスタートしているケースがあります。課題発見の最初のパターンとして、「自分自身が感じた課題」をもとに起業するのは最もオーソドックスで、多くの起業家がその道をたどっています。

 

長期的に課題意識を持ち続け、事業化につなげる

では、自分が感じた課題を事業につなげられる人は、何が違うのでしょうか。

たとえば、我々のファンドの出資・支援先で、ペット領域のD2Cの会社であるバイオフィリアは、代表の岩橋さんの〝動物を救いたい〟というとても大きな課題認識からスタートしています。幼少期より犬や猫に囲まれて育った岩橋さんはそんな思いを学生時代から持っていましたが、当時の彼には具現化する方法がわからず、最初の一歩の踏み出し方も見えていませんでした。

いつかは起業したい、自分のビジネスをスタートしたいと思っている方の中にもどのようにスタートしていいのかわからない、という方は多いのではないでしょうか。岩橋さんは、新卒で大手証券会社に入社、新規に上場する企業の審査を行う部署に配属となります。当該部署でさまざまな事業を観察し、どういった事業が大きく伸びるのかについての知見を重ねていきました。そこで培った経験をもとに、ついに現在の会社を起業。4つの事業のアイデアで失敗と検証を繰り返し、最も成長性があり、自分たちが勝てる領域を粘り強く見つけていきました。現在彼らはその製品で事業を大きく伸ばし、この領域のリーディングカンパニーに成長しています(直近、犬の着ぐるみ姿の吉田鋼太郎さんが同社のCMキャラクターに就任。2023年1月14日(土)より全国放映がスタート)。

このように、最初は自分でもどう取り組んでよいのかわからなくても、後にその思いやアイデアが具現化されることがあります。なので、今すぐ事業化の方法がわからないからといって、あきらめる必要はありません。これから取り組む領域を決める段階にいるのであれば、ほんのささいな問題認識や課題もメモなどに書き留めておき、折にふれて見返すようにするのはいかがでしょうか。

 

バイオフィリア株式会社の代表取締役、岩橋洸太さん

 

 

成功しやすい課題発見の方法を知る

一般的には、どのような課題発見の方法があるのでしょうか? 起業家の事例を調べていくと、多種多様な方法で課題を発見し起業へと結びつけていることがわかります。

その中でもよくあるパターンとして、

1 自分自身が感じた課題を元に、起業する
2 得意領域の課題で、起業する
3 海外の事例を研究、日本にはまだ解決策のない課題で、起業する

などがあります。現実にはこれらの組み合わせであるケースが多かったり、そのほかにもパターンがあったりするが、まずはこのような汎用的なパターンを、次回から紹介するケーススタディも参考にしながら押さえていきましょう!

また、本コラムの内容は4/15発売の「スタートアップ――起業の実践論」をベースに記述されています。全体版は、同書をご参照ください!

 

注釈・参照先:スタートアップ――起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則

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