
#ビジョン
「ブロックチェーンで世界を簡単に。」というミッションのもと、日本国内で最大級の暗号資産取引所を運営し、創業から11年を迎えた今もなお業界の最前線で挑戦を続けている株式会社bitFlyer。今回は、同社代表取締役 加納 裕三氏に、起業家に求められる素養やWeb3業界の現在、さらにはグローバル展開を見据えた今後の展望について、DIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)
ーー起業家に重要な素養を3つ挙げるとしたら何でしょうか?また、加納さんの人生の中で、どのような原体験によりそれが養われたのでしょうか。
1つ目は「未来を見る力」です。つまり、世の中のあらゆるルールを理解した上で、その先に何が起こるかを予測する力です。私自身、この力はゴールドマン・サックスでのトレーダー時代に培いました。
起業とは、まだ誰もやっていないことに挑戦することです。だからこそ、未来がどう変化するかを読み取り、今何に取り組むべきかを考えることが重要だと考えています。
例えば、まずは50年先の未来を想像し、そこから40年後、30年後、20年後、、、と逆算していく。そうすると、各タイミングで起こり得る変化や課題、打つべき手が見えてきます。
加納裕三/1976年生まれ
東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマン・サックス証券などを経て、2014年に株式会社bitFlyerを共同創業。bitFlyer創業以降、暗号資産の国内の法改正に関する提言や自主規制ルールの策定等に尽力すると共に、暗号資産交換業者であるbitFlyer USA, Inc.のCEO、bitFlyer EUROPE S.A.のチェアマンを歴任。グローバルな視点で暗号資産交換業業界の発展に貢献。2018年には自主規制団体「一般社団法人日本暗号資産等取引業協会:JVCEA」の創設を主導。ミッションである「ブロックチェーンで世界を簡単に。」の実現に向け、Web3業界の発展に注力している。
トレーダーの場合、どの会社やサービスが伸びるかを考える際、日本経済や世界経済、ひいては金利や為替、不動産相場までがどう動くのかを予想します。そしてこれらを予想するためには、それぞれがどんな仕組みの元で動いているのか、ルールを知っておく必要があります。
例えば政治なら、どのように選挙が行われ、どのような政党があり、役人はどう動くのか。政治以外にも、経済、法律の意思決定はどのようなプロセスで行われるのか。一通り理解し、世の中の動きを把握することがトレーダーの基本です。
各企業についても、意思決定はどのように行われているのか、予算やバランスシートの情報など、公開情報を最低限理解しておかないといけません。
これらの理解を前提とした上で、その先の「将来をいかに予想できるか」がポイントです。
現在で言えば、AIが市場で過熱しています。LLM(大規模言語モデル)の発展に伴い、どんなサービスが出てきて、どれくらいのマーケットになるか。その未来から逆算して、自分たちが今のうちに仕込んでおくべきものは何か。
新しいことに挑戦する起業家も、トレーダー同様に、「未来を見る力」、そして未来から逆算して今やるべきことを見極める力が重要だと考えています。
ーー重要なポイントですね。2つ目はいかがでしょうか。
2つ目は当社のバリューにも掲げている「Execution」、実行力です。
多くの人は「アイデアが大事だ」と考えがちですが、私は、アイデアを思いつくこと自体はそれほど難しくなく、アイデアを実際に形にする「実行力」こそが価値の高いものだと考えています。
人は「成果が出ると分かっていること」に対しては努力できますが、「完成形も見えず、どうなるか分からないこと」に取り組み続けることは怖いと感じ、なかなか一歩を踏み出せません。
そんな中で「実行」するには、やはり未来を具体的に描いて、逆算して行動することが重要です。
先の見えない、真っ暗な曲がりくねった道をひたすら進んでいくような状態だと、怖くて先には進めませんよね。だからこそ何度も地図を見直し、イメージトレーニングをし、絶対的な自信をつけながら進んでいくのです。
それでも挑戦の途上は失敗ばかりなのですが、「こう来たら、こう対応する」とシミュレーションをしっかりすることで、真っ暗な道でもアクセルを踏むことができます。
「未来を見る力」を土台に、「実行する」。起業家にとって、この二つの掛け合わせは特に重要だと思います。
ーー3つ目についてもお聞かせください。
3つ目は「常識を超える力」です。少し変な言い方ですが、「頭のネジが飛んでいる」ことに近いかと思います。
私のまわりの起業家たちは、良い意味で普通じゃない、頭のネジが飛んでいるような方ばかりです。皆さん、常識の枠の外にいるんですよね。
ただ、そういった方々に共通しているのは、ただの奇人という訳ではなく、自分の中に確かな想いやビジョンを持っていること。そして、今やるべきことを論理的に考え抜いて、その内容に自信を持っていることです。だからこそ、通常の人ができないことをやれてしまう。
極端な例えかもしれませんが、最短で目的を達成するために「パラシュートを持って崖から飛び降りろ」と言われたら、多くの人は躊躇すると思います。しかし「常識を超える力」を持っている人たちは、迷わず飛び降りる。
一度もやったことがなくても、パラシュートを開く方法を調べ、イメージを持てさえすれば、自信を持って飛び降りるような人たちなのです。
このように、常識の枠を超える力を持っているからこそ、前例が無いぶっ飛んだアイデアでも形にできてしまうのだと思います。イーロン・マスク氏や孫正義氏のように、本質的に“ネジが外れている”ことが、イノベーションを起こす力になると思っています。
ーー「頭のネジを飛ばす」方法はあるのでしょうか?
これは生まれつきのものだと思います(笑)
ただ、現状「頭のネジを飛ばす学校」は存在していないので、そういった試みや訓練を実際に行ってみたら、もしかしたら誰でも後天的に身に付けられる力なのかもしれないですね。
ーー加納さんは、暗号資産が市場で熱狂を帯びるよりも遥か前の、2014年1月にbitFlyerを創業されました。加納さんの中で、暗号資産取引所の事業が伸びると思ったポイントや、この領域での起業を決意したきっかけは何だったのでしょうか?
きっかけは、ビットコインの急騰を経験したことです。ビットコインは2009年にできたのですが、私は2010年にその存在を知り、そこから定点観測をしていました。
当時、約1ドルの価値で推移していたビットコインが、2013年3月にキプロスで起こった金融危機により、約40ドルに急騰したのです。価値がいきなり40倍になり、衝撃を受けたことを覚えています。
その後、2013年11月にFRB(米連邦準備制度理事会)元理事長のベン・バーナンキ氏がビットコインの容認発言をしました。すると、キプロスショックを経て100ドルくらいまで上昇していたビットコインの価値が、一気に1,100ドルくらいまで上がりました。それを見たときに、「これは大きな波が来る」と感じたのです。
その際、ビットコインの成功には大きく分けて2つの要素がポイントになると考えました。
一つ目は、規制です。規制当局に規制されてしまうことを懸念していましたが、シニョリッジ(通貨発行益)、つまり法定通貨を発行して得られる金利部分の利益が暗号資産で減ってしまうことをFRBが容認したことで、状況は大きく変わりました。大きなハードルが1つクリアになったのです。
二つ目は、信用の連鎖が生まれるか、です。元来、通貨とはそのモノ自体に価値があるわけではありません。日本円もそうですし、ドルもそうです。「共同幻想」とも言われるように、この通貨には価値がある、と全員が認識して初めて、そこに価値が生まれるのです。
今、ビットコインは、信用の連鎖の過渡期にいると感じています。政府が容認し、正しく規制をしていくフレームワークが作られたことで、徐々に信頼の連鎖が広がってきています。
2014年当時、これら2点をクリアできそうだという未来が見えたので、bitFlyerを創業しました。新しい通貨の誕生に立ち会える、そんな一生に一度のチャンスに乗り遅れるわけにはいかないと感じたのです。
ーー創業当時、ビットコインが広まることによって世界がどう変わっていくと考えられていましたか?
もともとは、ビットコインは決済通貨として使われるようになると予想していました。
ただ、現実には価格の変動が大きく、法定通貨と比べても3〜5倍ほどの振れ幅があるため、決済手段としてはまだまだ使いづらい状況です。
一方で、ブロックチェーン技術を活かしたステーブルコインには、決済手段としての利用が広がる可能性があると考えています。
特に国際送金を行う際は、手数料が安くスピードも速いため大変便利です。bitFlyerグループでも、実際にステーブルコインを活用しています。
将来的にビットコインが決済通貨として普及するには、価格の安定とウォレットの浸透が不可欠であるため、当面はステーブルコインの普及が進む可能性があると考えています。
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家弓 昌也
名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。
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