【特別対談】第3回:経営の分かれ道? 幹部候補の採用で失敗しないためには

ベンチャー経営者が常に頭を悩ませる「採用」。昨今の売り手市場で適切な人材を見つけ、仲間にしていくのは簡単なことではない。そんな中、経営者は採用にどう向き合い、何をすべきなのか。そのヒントを探るべく、ベンチャー人事に長年携わり深い見識を持つキープレイヤーズ高野氏(写真左)、働き方ファーム石倉氏(写真右)の2人にベンチャー採用のあるべき姿を聞いた。(全4回)

現場と幹部人材の橋渡しは社長の役目

――ここからは、ベンチャー採用の中でも幹部採用についてお伺いしたいと思います。まず、幹部採用と通常の採用の違いは何でしょうか?

石倉:まず、適任人材が市場になかなかいないですよね。加えて通常採用と違うのは、惹きつけにかかる時間と頻度ですね。

高野:そうですね。更に言えば、幹部と言ってもCFO、COO、CTOなどで状況が違ってきます。例えばCFO人材は、比較的市場にもいる印象があります。

――CFOにはどのような人材が求められている傾向がありますか?

高野:CFOに関しては、本当に採るべき人と、経営者が欲しがってる人がズレている場合があるように思います。「投資銀行出身で何でもできる人が欲しい」とよく言われるのですが、実際にマザーズ上場企業のCFOを見てみると、圧倒的に事業会社の管理部門出身者が多い。経営者のイメージと実態がズレているんです。

最短距離で上場したいのであればやはり上場経験者を雇うのが理想ですし、そうでなければ上場後の業務も見据えて上場企業の管理部門経験のある人か、それが無理であれば会計士出身者。イメージだけで判断せず、実務をしっかり見据えた検討が重要です。

石倉:複数回の上場経験がある人は、証券会社からすると、「あ、あの人ね」みたいになるのでCFOに採用できると安心感がありますよね。CFOとしての経験で無くとも、現場で経理等の上場実務をやっていた人が、今度は別のベンチャーでCFOとして活躍しているパターンも見かけます。

――CFOは目的と求めるスキルが明確な分、市場にもある程度適任者がいて比較的見つけやすいということですね。では、他の幹部を採用する際はどういった点に留意すると良いでしょうか?

高野:例えば、最近ベンチャーでも増えてきている幹部ポストにCOOがありますが、このポストの採用では社長と仕事の領域が丸被りしてしまわない配慮が必要です。やはりベンチャーは創業者が圧倒的に力を持っていることが多いので、そういった中にCOOとしていきなり放り込まれて、採ったものの社長との棲み分けが上手くいかなかったという話はよく聞きます。

石倉:COOは幹部内でも役割が明確化されていないポジションですからね。

高野:これはCOO以外の幹部採用についても言えますが、元からいる社員と新しく採用した幹部との間に入って積極的にケアすることも社長の重要な役割だと思います。

それとは別に、営業トップの採用は鬼門と言われています。業績で結果を出さずに「管理職だけやります」では現場に認めてもらえないですから。

石倉:たしかに、営業トップは自分で売れる力がないと厳しいですよね。営業職で昇進しなくても年収さえ上がればそれでいいという人はあまりいない。特にベンチャーへ行く営業系の方の中にはプロモーション意思が強い方もいて、外部からの幹部人材採用に拒否反応を示してしまう場合もあります。

高野:一方で、エンジニアの場合、自分でモノを作ってそれが評価されて、それに応じた給料をもらえればいいという人が結構いるので、外部から幹部が入ってきても意外と受け入れられる。

例えば、CTOとして採用された人に特別な技術力がなくても、言葉が通じるだけで喜ばれる場合がある。特に社長が技術を分からず上手くマネジメントできていないベンチャーの場合は、CTOが入ると会社が安定することがあります。

石倉:元からいるエンジニアは「話が通じる人が来てくれてありがとう」みたいになるわけですね(笑)。とはいえ、CTOも含めた全ての幹部職採用に共通して言えることですが、やはり人材を採用する順番はとても大事です。特に新規事業に取り組む際はトップの事業責任者から採っていくのが理想だと思います。

高野:特に新規事業の場合はそれが理想でしょうね。

石倉:実際にはベンチャーで新事業をいくつも並行して立ち上げている最中は、人手が足りないのでどうしても色々なランクの人を同時に採ってしまいがちです。上から順に採用し続けることは現実的に難しい場面もあると思いますが、常に順序は頭に入れて採用するべきだと思います。

幹部採用でも重要な、積極的に発信する姿勢

――幹部候補の人材はそもそも市場に殆どおらず、特に若い起業家ともなるとツテも少ないのが実情かと思いますが、どのように人材を見つけると良いでしょうか?

石倉:幹部人材獲得に困っている企業の社長は、そもそも情報発信含め、外に出ていないことが多いと思います。

高野:情報発信しない社長は多いですよね。発信した方がいいとは皆思っているんですけど、優先度が低くて実施できていない・・・。

とはいえ、本当は情報発信は非常に優先順位が高い業務なはずです。会社の幹部のうち誰か一人は発信するようにすべきだと思いますね。会社の取り組みを知られたくないから内々で進めている会社もありますが、とはいえ人を採りに行くときには表に出ないと戦えません。そもそも存在を認識してもらえないと受けたい・入りたいと思ってもらえませんから。

石倉:例えばブログにしても、週1の更新で良いと思うんです。テーマを決めて継続的にやっていれば、敏感な人たちがキャッチしてくれますし、エージェントさんも候補者に推薦しやすくなりますよね。「こういう会社です」という形でブログ記事を紹介したときに候補者が過去にその記事を見たことがあったら、少なくとも応募意思は獲得できるんですよ。そういう違いが地味に効いてきます。

――何を発信したらいいか迷ってしまっている方もいるのではないでしょうか?

高野:凄く良いものを書かなきゃいけないという考えがあるんでしょうね。

石倉:凄さより、スタンスがハッキリしていることの方が大事だと思います。スタンスをとって共感や、一部反感も含めて、相手の関心を得ていくことが大事。無関心が一番無意味ですから。

会社によって採用に対するスタンスは少しずつ違っています。それに誰が共感してくれるか分からなくても、経営陣が自らでスタンスをとった方が人は集まりやすいと思います。

万が一を見据えた取り決めも重要

高野:幹部を見つける更に手前の話ですが、共同創業は上手くいかないことが多いですね。一概にダメとは思わないですが、もし訣別するときにどうするのか、という取り決めはしっかりしておく必要があります。日本は契約文化が薄く、この点が弱いですね。

石倉:ふんわりしてますよね。

高野:創業から1~2年たつと、株式の買戻しなどで揉めて訴訟になるような例も散見されます。そういった事態を想定して取り決めを最初から交わした方が良いと思います。極端な話、社長は幹部が辞めることを常に想定しながら動かないといけない。

石倉:採用するときは株、SO(ストックオプション)、肩書をインセンティブにすることが多いと思いますが、代わりに別れる際の取り決めもしっかりしておく必要があります。

高野:それも米国の事例を参考にすべきだと思うんです。インセンティブを付与すること自体は問題ではなくて、訣別する際の取り決めがないことが問題なんです。期待値を下回る場合が出るのはしょうがないですから。このように幹部採用においては、様々な事態を事前に想定しながら動く意識が社長には求められると思います。

 

>第4回 「営業と同じ採り方では失敗する?エンジニア採用の戦い方」に続く

 

■バックナンバー■

第1回 「ここまでやる!採用に強いベンチャー経営者の共通点

第2回 「採用強化はなにから始める?募集始める前にやるべき3つのこと

DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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