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「誰でも宇宙で活躍できる社会」の実現を目指して、小型衛星用ロケットの開発に挑むJAXA発のスタートアップ、株式会社ロケットリンクテクノロジー。キーテクノロジーとしてLTP(低融点熱可塑性推進薬)の研究開発に取り組むと共に、ロケットの新しい打ち上げ/回収方式の研究や、技術教育・人材育成などを展開する。代表取締役社長 森田 泰弘氏に、これまでのロケット開発の取り組みやチームづくりのポイント、LTPが切り開く小型衛星時代の展望について聞いた。(全4話)
ーー森田先生はロケット開発の分野で偉業を成し遂げられています。先生のように、大きな目標を達成するために必要な素養を3つ挙げるとしたら何でしょうか。
第一に、失敗を恐れない挑戦心です。
日本の宇宙開発では、予算や人的リソースの制約が他国よりも厳しい中で、世界水準の成果を目指さなければなりません。だからこそ、他国が手を出しにくい大きなテーマに挑む必要があります。
特に固体燃料ロケットの場合には、ロケットの中でも小型なので、世界で目立つ成果を出そうとすると、大型ロケットにも負けない大きなチャレンジが必要です。
常識を超えていく挑戦には必ず失敗がつきまといますから、「失敗を恐れない胆力」が重要だと考えています。

森田 泰弘/1958年生まれ
JAXAで固体燃料ロケットM-V・イプシロンの開発責任者を歴任し、モバイル管制などのロケット業界の革新を主導。2023年に、JAXA発ベンチャー・株式会社ロケットリンクテクノロジーを創業し代表取締役CEOに就任。革新的固体燃料である低融点熱可塑性推進薬(LTP)の社会実装を通じて、小型衛星の即応発射と国内宇宙産業の更なる活性化を目指す。JAXA宇宙科学研究所名誉教授。日本航空宇宙学会第55期会長。日本ロケット協会会長。東京シニアビジネスグランプリ最優秀賞受賞。
第二に、私たちが「固体燃料ロケットの遺伝子」と呼んできた、「逆境と良き仲間」です。
大きなチャレンジでは、計画遅延や不具合など、失敗とも思えるような出来事が必ず発生します。それを乗り越え、次の一歩へ転換できるかは、仲間の存在にかかっています。
逆境が大きいほど、乗り越えたときのジャンプも大きい。この精神を若手の時から大切にしてきました。
第三に、信念と粘りです。
大きな挑戦ほど、実現まで時間がかかります。挑戦の過程で折れず、自分の信念を信じて粘り強く進める力が必要です。
「挑戦心」や「仲間と一緒なら必ず成功できる」という確信。それらをひっくるめて私たちは「信念」と呼んでいます。
最終的には、この「信念」が一番大切だと考えています。
ーーそれぞれの素養が芽生えた原体験についてお伺いできますでしょうか。
「失敗を恐れない挑戦心」は、宇宙開発に関わる中で、現場で身についていった感覚があります。
ISAS(JAXAの前身)に参加し、先輩方が厳しい制約条件の中で大胆に目標を掲げ、挑戦していく姿に接しました。その象徴的な例が『M-Vロケット』です。
「小型の固体燃料ロケットでは惑星探査は不可能」、それが当時の世界の常識でした。
しかし私たちは工夫と検証を重ね、2003年に「はやぶさ」を打ち上げて、その常識を覆しました。この時、世界の人たちが驚いていた光景は今でも強く印象に残っています。
この実体験が、常識に捉われることなく、普段の意思決定に挑戦を組み込む礎になりました。
これは、『イプシロンロケット』でも同様です。
私たちが作ったM-Vロケットは、当時、世界最高性能を誇る固体燃料ロケットでした。その後継であるイプシロンロケットは、M-Vをさらに超える成果を期待された、非常に難易度の高いプロジェクトだったのです。
いくつかの紆余曲折を経て、私たちは視野を広げ、ロケットを打つ仕組み全体に着目しました。
当時、ロケットの管制室は大変大掛かりなもので、大きな部屋に大量の装置を並べ、100人規模で丸一日点検をしてやっと発射できるような代物でした。
そんな常識を覆し、会議室くらいの小さな部屋で、たったの数人と数台のパソコンで管制できるようにする構想を掲げ、学会で発表しました。イラストを描いて発表したのですが、世界の研究者たちは笑っていましたね。
しかし、私たちはやり遂げました。
『モバイル管制』の実現によって、打ち上げの即応性と柔軟性は格段に向上しました。
世界が怖がって手を出しづらい領域こそ、私たちが先にやる。そうした積み重ねが、挑戦心を「特別な心構え」ではなく、現場の習慣として根づかせてくれました。
ーーロケット開発には多くの方が関わっているかと思います。そういった方々との日々の信頼関係や実績の積み重ねがあるからこそ、大きな挑戦でも信じて協力してくれるのだろうと感じました。
おっしゃる通りです。
私たちの仕事はJAXA(当時のISAS)だけで完結するわけではありません。メーカーの皆さんと二人三脚で進めるのがロケット開発です。
「そのアイデアは面白い」「世界を驚かせられるだろう」「自分たちならできる」。そう思って頂けるような誠実なコミュニケーションと実績が、次の挑戦の仲間を増やします。
ここで言う「仲間」は研究所の内側だけではなく、広い意味での仲間です。
挑戦は、信頼で支えられ、信頼は挑戦で更新される。両輪の関係なのです。
ーー仲間のお話がありましたが、「逆境と良き仲間」の重要性を実感したエピソードがありましたら是非お聞きしたいです。
大学院の頃、私の指導教官だった秋葉 鐐二郎先生が、「工学は人間関係だ。仲間を大切にしなさい」と仰っていました。
当時はそれがどういう意味なのか分からなかったのですが、M-Vロケットやイプシロンロケットの開発リーダーとして仕事をする中で、骨身に染みた言葉として今も大切にしています。
ロケットは一人一人の力が噛み合って初めて完成します。打ち上げの歓喜の裏側には、数え切れない仲間の苦労がある。それを強く感じた忘れ難い出来事が、政府から突然通達された、M-Vロケットの運用停止でした。
M-Vロケットは自動車に例えるならF1マシンのようなもので、世界最高性能である代わりに値段が高い。それが理由でたった数発打ち上げただけで運用停止を宣告され、政府の突然の方針転換に私たちは大きな衝撃を受けました。

その時に、秋葉先生の言葉を思い出したのです。
何かの記念の会で頂いたタオルに印字されていた、ロケット開発の父と呼ばれる糸川 英夫先生の「人生に最も大切なのは、逆境と良き友」という言葉。秋葉先生は糸川先生の一番弟子だったので、元々は糸川先生に教わった言葉だったのだろうと思います。
大変な出来事ではありましたが、この言葉を見た時に「これはもしかしたら、むしろ私たちの明るい未来の始まりなのではないか」と前向きに捉えられるようになったのです。
その後、私たちはイプシロンロケットへと舵を切り、逆境を仲間と共に乗り切ることが出来ました。
ーー最後に、「信念と粘り」に関する原体験をお教えいただけますか。
信念と粘りについては、LTP(低融点熱可塑性推進薬)の開発に活きています。
M-Vロケット運用停止が決まった頃、有志が集まる研究会を作りました。そこで「固体燃料ロケットをこれで終わりにしていいのか」「未来を切り開く方法はあるか」など、様々なことを議論しました。
そこで生まれたアイデアの一つが、LTPです。
それから約20年、誰一人脱落者を出さずに開発を続けることが出来たのは、「必ず実現する」という全員共通の確信、つまり “信念” と ”粘り強さ” があったからです。
逆境が大きいほど、仲間の支えは強くなり、次の挑戦の礎になる。そこから先は一本道だと信じて、これまで研究を積み重ねてきました。
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DIMENSION NOTE編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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