#起業家の素養
「ソーシャルテクノロジーで、世界中の人と企業をつなぐ」をミッションに掲げ、2005年から業界に先駆けてSNSの持つ力に着目した事業を展開し、今では国内最大級のSNSマーケティング支援会社にまで成長を遂げたアライドアーキテクツ。同社の代表取締役社長 中村 壮秀 氏に起業家に欠かせない素養、時流を見極める方法などについて聞いた。(全6話)
運をたぐり寄せる「志」と「素直さ」
——起業家にとって必要な素養を3つ挙げるとすれば何でしょうか?
1つ目は、「志」です。
成功している起業家たちの多くは、自分の利益を追求する「野心」よりも社会的な利益を追求する「志」に重きを置いて事業推進しているように感じます。逆に、「野心」にウェイトがある人はうまくいかないことが多いですね。
「野心」を持つのは決して悪いことではなく、起業家であれば誰しもが持っているものでしょう。しかし、社会や他人のための「志」と、自分のための「野心」とでは、周りの行動に差が出てきます。
「志」の場合、周りに伝えていると入ってくる情報の量が多くなり、自ずと運が良くなっていくものです。京セラの稲盛(稲盛和夫)さんも「有言実行」が重要だとおっしゃっていますが、「有言」がいい理由は、運が良くなるからだと思います。「志」を発信することを前提として、素養の2つ目である「素直さ、ネアカさ(根が明るいこと)」があれば、さらにその好循環が加速していくように思います。
——「志」を持たれるきっかけとなった原体験のようなものはありますか?
両親の影響が少なからずあると思います。
私の両親は、まだこれからという時代のソニーに勤めていました。特に、父からは創成期のソニーの話をよく聞いていました。私は父の話を通して、井深大氏や盛田昭夫氏の「新たな産業を自ら興す」という息遣いを間近で感じて育ったのです。
そういった意味では、そういった「志」を掲げることに対して、ポジティブな感情を幼少期から持っていたように思いますね。
アライドアーキテクツ株式会社 代表取締役社長 中村 壮秀。1974年生まれ。1997年慶應義塾大学理工学部計測工学科(現物理情報学科)卒。1997年住友商事株式会社入社。リテール部門にて新規事業会社の設立、運営を担当。2000年に株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(現在東証一部上場)の設立に参画、eコマース事業の統括を行う。2004年執行役員に就任、同社が東証マザーズに上場。2005年、アライドアーキテクツ株式会社を設立し代表取締役社長に就任。2013年11月、東証マザーズに上場。
——2つ目の「素直さ、ネアカさ」についてもう少しお聞かせください。
素直さがなぜ重要かというと、素直な人にはどんどん情報や仲間が集まってくるからです。
人間は感覚で物事をとらえる生き物で、例えどんな言葉を使っても「この人は自分のことを信用していないな」ということは直感的に分かってしまうものです。反対に「素直な人だな」というのも伝わるんですよね。
周囲に「あいつに教えてあげよう」「協力してあげよう」という循環を作り出していくのが起業家にとっては非常に重要なことで、そのためには「志」を発信すること、そして「素直さ」が必要不可欠です。
以前、松下政経塾でお話をさせていただく機会があったのですが、壁には「素直」の文字がいたるところに貼られていました。経営の神様とも呼ばれる松下さんが「素直」であることが最も大事とおっしゃっている。やはり重要なのだなと改めて思いましたね。
「ネアカさ」についても、ソニー盛田氏がおっしゃっていたことです。その言葉を信じて私もここまでいかなる困難にも屈せずにやってきましたね。
人にとっては「ダウト」でも、自分には「イエス」な世界
——素養の3つ目を教えてください。
『人にとっては「ダウト」なものだが、自分にとっては「イエス」なものを見つけること』です。私にとって、インターネットの世界がまさにそれでした。
——インターネットの世界に可能性を見出した経緯を教えてください。
私の運が良かったのは、時間のある大学生時代にインターネットの創成期を間近で感じられたこと。その歴史的転換期に、誰よりも早く、学生ならではの暇な時間を投下できたことがツイてましたね(笑)。
インターネット、WWW(World Wide Web)ができたのが1991年で、1994年にAmazon、1995年にyahoo!が設立しています。そんな真っ只中の1993年に大学に入学していますが、その年に慶應義塾大学にワークステーション室(高性能なインターネット設備が備えられた自習室)ができ、そこでMosaic(米国立スーパーコンピュータ応用研究所NCSAからリリースされたウェブブラウザ)にも出会えた。
さらにいうと、私の周りにいた理工学部の「コンピューター好き」な仲間にも恵まれました。仲間たちとワークステーション室でアメリカの研究室とインターネットを繋いでみるなど、インターネットによく時間を投下していましたね。
そうやって大学生時代にインターネットの持つ可能性を後天的ではなくネイティブな感覚で理解することができた。そこは本当に恵まれていたと思いますね。
その後、私は、大学を卒業して、1997年に住友商事に入社をしますが、会社員としてもインターネットがどんどん商用化されていくことを目の当たりにします。例えば、1997年に楽天ができましたが、楽天市場に初めて住友商事が出店する際の出店担当のヘルプが私でした。なにかの縁を感じずにはいられませんでしたね。
それらの経験を通して、「インターネットは半端ない」ということを心から理解していましたから、その後、私はインターネットの世界に突き進むことになるんです。
——当時、世間ではまだ未知な部分の多かったインターネット産業に確実な勝機を感じて飛び込んだんですね。
「心から理解する」ことが重要です。そのためには没頭する時間も必要です。インターネット業界で今でも活躍している起業家に私と同じ世代の人たちが多いのは、過渡期の段階にゆっくりと時間をかけてインターネットに触れることで本質を見極め、周りがなんと言おうと「イエス」と言い切れる勘が育まれた世代だったからといえるでしょう。
例えばインターネットバブルと言われるものは2000年に一度はじけていますが、私は微塵もインターネットの持つ可能性に疑問を持たなかった。いまでいうと、ブロックチェーンなども同じような状況だと言えるかもしれませんね。周りがなんと言おうと意に介さないで進み続けられる「自分には見える何か」を持つことが、起業家には必要だと思います。
技術のポジティブな面に「感動する力」
——同じような環境に身を置いていても、「自分には見える何か」が持てる人とそうでない人の差はどこにあるのでしょうか。
そもそも、1993年に慶應の学生の中でワークステーション室などでインターネットを触っていた人は少なかったはずです。つまり、他の人よりも早く経験をするということが一つ重要なポイントです。
そのうえで、「常に本質を考える」ことが大切です。本質を考えると、「これもできるな」「あれもできるな」と発想を発展させられるんです。
例えば、私がゴルフダイジェスト・オンラインに勤めていた時にちょうどブログやmixiが出始めて、初めてソーシャルメディアに出会いましたが、世間はSNSのことを周りは人と繋がるツールくらいにしか見ていませんでした。そんな中で私は「ソーシャルメディアはすごいことになるかもしれない」と感動していたんです。
——その当時感じられていたソーシャルメディアの本質はどういったことだったのでしょうか?
インターネットがサーバーとサーバーをつなぐ技術だとすれば、ソーシャルメディアは人と人をつなぐ技術。つまりこれはOSになりうる、情報流通の中心になりうる、という感覚を持っていました。企業が用意するメディアではなく、個人の発信する情報が主流になり、コマースでもモノが売れるような時代が到来すると。
冒頭で3つの素養を伝えましたが、技術のポジティブな面に目を向けて「すごいな」と素直に思う感動力も大事にしたいですね。心から「すごいな」と言っている若者たちは強い。書物から技術を勉強する側になると、心から感動している学生などの若者にはなかなか勝てないものです。なので若いメンバーから日々感覚的なものを吸収できる環境を持ち続けたいと思ってます。
>>第2話「起業家が失敗時に立ち返るべき『シンプルなロジック』とは」に続く
>アライドアーキテクツ公式HPはこちら
DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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