“新しい医療を作る”現役精神科医の「研究」と「起業」に通ずる思いとは サスメド 上野太郎社長(第1話)

「SUStainable MEDicine」を冠した社名の通り、ICTの活⽤で「持続可能な医療」を⽬指すサスメド株式会社。デジタル医療プラットフォームを活⽤した「治療⽤アプリ開発」「臨床試験⽀援」を軸に急成長を遂げ、2021年には上場も果たした。同社の上野太郎(うえのたろう)代表取締役社長に、起業家の素養、事業成長のポイントなどについて聞いた。(全3話)

「研究者」と「起業家」に通ずる素養

ーー上野さんが考える起業家にとって重要な素養を挙げるとすると何でしょうか?

「前例を疑う」こと。既存のやり方ではなく、本来的にあるべき姿を追求する姿勢です。

これは研究者のマインドと近い部分があると思っています。研究者も、今までにない研究を行なうことにバリューがある。なので医師として研究してきた私のバックグラウンドが、起業においても役に立っている部分だと感じています。

もう1つ挙げるとすると「社会課題」に立脚すること。

社会課題から始まるソリューションだからこそ、事業として社会的に意味がある。社会課題を解決する方法としての起業、というのは今後ますます重要になるだろうと思っています。

 

上野太郎(うえのたろう)
医師・医学博士。臨床研修後、博士号取得。東北大学医学部卒(H18年)。
睡眠医学・睡眠医療分野を中心とした科学業績を多数有し、臨床医として専門外来診療も継続。国立がん研究センター等との共同研究を主導。日本睡眠学会の評議員も務める。2015年にサスメド株式会社を設立、2021年には上場も果たした。
井上研究奨励賞、武田科学振興財団医学系研究奨励、内藤記念科学奨励金・研究助成、肥後医育振興会医学研究奨励賞など受賞。経済産業省ヘルスケアIT研究会専門委員、日本脳科学関連学会連合産学連携諮問委員。

 

ーー医師がスタートアップを起業されるケースは稀かと思います。上野さんが起業するに至った経緯をお聞かせください。

私は精神科医としてのバックグラウンドがあり、精神科の中でも睡眠障害を専門として研究してきました。

その臨床現場では「睡眠薬の過剰処方」という大きな問題があります。睡眠薬は依存症などの観点からあまり良くないと言われながらも、医療現場も忙しいのでその代わりとなる非薬物療法を時間をかけて提供することができていません。

そんな課題に直面した時に、アプリを通じてなら課題解決ができるのではないかと思い、最初は合同会社という形で会社を立ち上げました。私自身、過去に眠気テストアプリや問診アプリを自作した経験があり、しっかりとしたエンジニアであればアプリを通じた治療法を作れるんじゃないかと考えたのです。

起業を最初から志していたわけではありませんでしたが、目の前の患者を治療するだけでなく、スケールする形で新しい医療を作りたい、という思いは研究者としても持っていました。

手段が「研究」か「起業」かの違いはあれど、目的は変わっていません。

弊社はビジョンとして「持続可能な医療」を掲げています。この目的も「皆保険制度がこのまま永続するとは思えない」といった、同世代の医師ならば誰もが感じている課題です。

たしかに起業して課題解決しようと思い立つところは独特かもしれませんが、目的意識は医師として極めて一般的な考えから始まっています。

 

ーー起業してから上場企業の社長へと立場が変わっていく中で、経営者としての素養を進化させるために意識されているポイントなどがあればお聞かせください。

私は元来は医師で、起業や経営を学んでこなかった人間です。そのため、起業してからずっと学ばせていただいている、今も学び続けている感覚です。

一方で何事においても「既存のやり方が本当にベストなのか」という部分は一度疑ってかかりたいといつも意識しています。

加えて大切にしていることは、「前例を疑う」という姿勢です。前例とされるものには何かしら理由があるわけですが、その前例の理念を理解した上で、踏襲するのか、不合理だと思って違う形を提案するのか。この「前例を疑う」姿勢は研究や事業、あらゆることにおいて成長し続ける上で大切だと思っています。

 

ーー経営、特にディープテック企業を経営される長い旅路の中で、モチベーションを維持する点で何か工夫されていることはありますか?

「新しい医療を作る」という思いは研究者を志したときも起業した時も全く同じです。新しい医療を社会に普及させるところには未だ至っていませんので、全くやりきった感はありませんし、これからがスタートだと思っています。

こうやって自分を俯瞰すると、長く継続するためにはやはり自分が心から思い続けられるビジョンが重要なのだと思います。

あとは私個人の人生観として、「死ぬ時にこれはやったと思って死にたい」というのがあります。

私は次世代にきちんと医療のバトンタッチをすること、いつか破綻すると言われている皆保険制度に代替する手段にチャレンジして、持続可能な医療として次の世代に渡すことに貢献すること。これをやりきってから棺桶に入りたいのです(笑)。

 

ーーまさに死生観のような部分だと思います。なにか原体験がおありだったのでしょうか?

医者の良いことの一つは「死が間近」にあるということです。

今の社会は死ぬことを前提に置かないような雰囲気があります。そういった考えは全部病院に追いやって、誰もが明日普通に生きられる前提で物事が動いている。

でも死ぬことを念頭に置くと、物事の優先順位は自然と定まります。社内のメンバーには「月曜の朝から死生観のことを語っている」とよく揶揄されていますが(笑)。

今の医療は先人が開発してくれたもので、誰かが今の医療をもう一歩前に進めないと将来の医療は前進しません。

まだまだ燃え尽きるような段階では無いですし、やるべきことは山積みだと思っています。

 

 

 

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DIMENSION 編集長

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「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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