#ブランディング
企業向けの空間シェアリングビジネスの先駆けとして、2005年の創業以来、遊休不動産を保有することなく借り受け、貸会議室・宴会場として展開することで、新たな空間活用ビジネス市場を創出してきた株式会社ティーケーピー。同社代表取締役社長 河野 貴輝氏に起業家の素養、組織作りなどについてDIMENSION代表取締役社長の宮宗 孝光が聞いた。(全4話)
仲間集めは「ホップ・ステップ・ジャンプ」
ーー起業初期は、資源も経験も実績もない中で仲間を集めることが難しいケースも多いと思います。その点について何かアドバイスがあればお聞きしたいです。
それは、先ほどお話しした「大目標・中目標・小目標」が重要になります。私は「ホップ・ステップ・ジャンプ」というフレーズをよく使っています。
私にとってのホップは、伊藤忠商事時代に培ったディーラー経験。これが後の事業モデルを構築するのに非常に役立ちました。
ステップは、イーバンク銀行(現楽天銀行)の創業に参画した経験です。その時に、資金や株主の信用力、資金調達力、企業ブランドの重要性を理解できたことが、TKPを創業し事業を拡大する上で役立ちました。
私の場合、単にサラリーマンを辞めて起業したわけではなく、一度ベンチャーを立ち上げた事業経験がありましたから、その時に関わった企業から出資を受けたり、関わった人たちをTKPに誘ったりすることができました。
そういう基盤があったからこそ、私にとってのジャンプとして、創業したTKPは3年目に売上20億円を達成できたのだと思います。
もし、ホップステップなしにジャンプを目指していたら、創業期から強い基盤を作ることはできず、赤字を掘りながら進むビジネスモデルになってしまっていたでしょう。
ーー近年は創業初期は大きく赤字を掘り、Jカーブを描いて成長する姿がスタートアップの一般的な姿として言われているようにも思います。
その苦痛は、私がネット証券やネット銀行を作った経験からよく理解しています。赤字を掘り資金を集めながら事業を進めていると、本来やるべきことに集中できないという問題があります。
ですからTKPは、どんな状況でも赤字を出さないように経営してきました。
常に黒字で雪だるま式に大きくなる事業を作ろうと決め、それがうまくいかなかったら会社を解散しようと思っていました。だからこそ、コロナが発生する前まで、雪だるま式に会社をどんどん大きくすることに集中できていたのだと思います。
事業ビジョンの描き方「凧揚げ理論」
ーー単一事業で一定期間活動した後、多角化するか否かという局面は、多くの起業家に訪れると思います。河野さんは、多角化をどのように決断されてきたのでしょうか。
ビジョンを自分で描いた上で、多角化を決断します。
私のやり方は、スケッチブックで事業モデルを描く方法です。事業の基本形を描き、それを2次曲線に見立てて、そこに多角化と国際化などを重ねて大きくしていきます。
私たちがこれまで進めてきたのは、「内製化」「多角化」「国際化」です。これらにより、事業の発展を加速させてきました。
創業期の1カ月の売上は50万円でしたが、現在は1カ月で50億円を売り上げています。創業期と比べて1万倍です。
貸会議室事業からはじまり順調に成長していったTKPですが、このビジネスには経済の動きがダイレクトに影響します。11年の東日本大震災の際には自粛ムードでイベントが軒並み中止になるというピンチが訪れました。
それでも、私たちは困難をチャンスに変え、使われなくなったホテルの宴会場を積極的に仕入れていきました。そして、その厨房を使ってケータリングを提供することで、私たちの会議室はバンケットに変わり、一人あたり1時間100円だった売上が、1時間あたり5,000円になりました。
宿泊を提供すれば1日の研修が2日間に伸びると考え、ホテル事業にも進出しました。
それにより、一人あたり1時間100円しか取れなかったものが、一気に1泊1万円取れるようになったわけです。
このようにして、私の描いたビジョンをもとに売上を着実に伸ばしてきました。
ーー経営ビジョンの発想は、河野社長ご自身もしくはチームのどちらで生み出しているでしょうか。
発想の源泉は、基本的に経営者、特に社長であるべきだと思います。
つまり、社長が現場から上がってきたニーズやウォンツをどう見つけ出し、それに対してどうベットするかが重要だと思います。
もちろん事業が大きくなればなるほど、その意思決定をいかにして現場に下ろすかが問われますので、今はほとんどの意思決定を現場に下ろしていますが、初期の頃は全て社長である自分が決めていました。
ベンチャーは凧揚げのようなものです。
初めは自分で走って風を作り、凧(会社)を高く上げていきます。しかし、やがては風(時代の潮流)を読みながら、さらに凧をどんどん高く上げる必要があるのです。
それを実現させる凧の骨組み部分が幹部であり、これをしっかりと固めることが重要です。
また、例えばコロナのような事態が起きたら、リストラクチャリングして事業の再構築を行う必要があります。私たちも一度凧を下ろし、骨組みを変え直し、再度凧を上げ直すことを強いられました。
最初はまた自分で走って風を作りますが、ある程度成長したら組織を信じ、大きな流れの方向性を見定めるのが社長の仕事です。
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宮宗 孝光
ビジョンは「正しい起業家と事業の創出」。真摯に経営に向き合う起業家に出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャー投資ファンドDIMENSIONの代表取締役社長。出資先9社の上場、12社のExitを経験。直近の出資・支援先はSHOWROOM、五常・アンド・カンパニー、AnyMind Group 、LegalOn Technologies 、カバーなど。 東京工業大学・大学院を卒業後(飛び級)、シャープ株式会社を経て、2002年からDIにて20年間、大企業とスタートアップの戦略策定、幹部採用、M&A、提携、出資・上場支援に従事。2019年DIMENSIONファンドを立ち上げ、2021年MBO・独立。 2022年、産業革新投資機構・海外機関投資家・11名の上場創業社長などがLP出資する101.5億円のDIMENSION2号ファンドを設立。
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