#ビジョン
「金融を“サービス”として再発明する」というミッションを掲げ、金融サービスを展開するための「クラウドインフラ」と「データ解析基盤」を提供している株式会社Finatextホールディングス。同社代表取締役社長CEO 林 良太氏に、経営者の素養や、組織づくりのポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)
自分の熱意と得意な領域、そして波に乗れるか
ーー御社はフィンテックの波に乗って大きな成長を遂げられました。波の選び方について、後輩起業家へ向けたアドバイスはありますか。
波は自分で起こせないので、乗るしかないんですよね。でも、それがなかなか難しい。
波がないところにも意味はあります。競合がいないからこそ、うまくできることもある。
ただ結局のところ、スタートアップとして成功するかどうかは、自分の熱意のある得意な領域で戦えているかと、波に乗れているかの掛け合わせで決まるんじゃないかと思います。
例えばいろいろ調べてみて、「今、BtoB決済が流行っている」と分かったとしても、自分にBtoB決済領域のスキルや熱意がないと厳しいですよね。
逆に、自分は小売のデザインが得意なので、小売のオンラインECのデザインをやります、と意気込んでも、波が無いので盛り上がらないかもしれません。
「海賊王におれはなる」というスタンスを持つだけでも、マーケット・時流に合わせるだけでも、どちらも成功は難しい。得意分野と時流の掛け合わせが重要だと思っています。
1,000億円への道のりにおいて、5億円、10億円は誤差
ーー御社は創業まもない時期から、大きな資金調達を複数回成功させて来られました。そのご経験を踏まえ、起業家に向けてファイナンスについてのアドバイスを頂けますと幸いです。
まず、当時の私と、今の私では考え方が違います。
当時は、バリュエーションを高くした上で大きな金額を調達できれば、それで十分という考えでした。
しかし、現在はそうは思いません。
今思えば、当時の資金調達というのは、スタートラインの中のスタートライン。むしろその後に株価が上がりやすいことを考えると、バリュエーションを低くして資金調達した方が良いこともあるんですよ。
例えば弊社が上場した時は、700億円の時価総額でPSR24倍。そんな企業はほとんどないと言っても過言ではない割高水準で、結果的に上場直後は「20年ぶりのストップ安」と言われるほど、株価が低迷しました。
その後1年間くらいの、私のYahoo!掲示板での評判は想像つかないでしょう(笑)。もう本当に最悪な言われようでした。
一見するとすごく良い時期に上場して資金調達できたと思われるかもしれないですけど、実際は最悪です。投資家に損をさせて、「高い値段で買わせやがって」なんて思われてしまうわけです。投資家に損をさせたい経営者なんて、一人もいません。
ですから今から振り返って思うのは、資金調達時のバリュエーションはもちろん大事だけれど、適正価格で評価される方が重要だということです。
また、未上場時の、100億円未満の頃のバリュエーションなんて誤差だとも思います。
スタートアップを始めるからには、みんな「1 Billion」「10 Billion」の時価総額を目指して、世の中に大きな価値を与えたくて始めるのだと思います。
1,000億円を本気で目指すなら、50億円と80億円の差なんて大した違いではないんです。むしろ50億円の方が、投資家にとってお買い得だからとやる気になってくれる場合もある。
投資家選びでは、バリュエーションよりも担当者の方が重要だと思います。
ファンドのトップだけでなく、ファンドの担当者が本気で自分たちと頑張ってくれるか。逆に言うと、それくらい本気になってもらうために、投資家に儲けてもらうような資本政策も必要だと思うのです。
投資家は「仲間」として迎え入れる
ーー投資家とWin-Winの関係をつくるべき、ということでしょうか。
そうですね。多くの人が勘違いしているんです。出資を受けたら「やった!」で終わりではない。それは、むしろ高額な値札が付いたようなもの、亡霊を背負ったようなものです。
「やった!」ではなく、そこから本当の意味で時間との戦いが始まるんだ、という考えで投資を受け入れるべきです。
だからこそ、創業メンバーと同じような感覚で、本当に信頼できる、仲間にしたいと思える人を投資家として迎え入れるべきだと思います。
通常なら年俸5,000万円や1億円を払っても来てくれないような人材でも、投資家としてなら来てくれる、そんな感覚で投資家を選ぶことをお勧めします。
ーー投資家に求めるもの、投資家が果たすべき一番の役割は何とお考えでしょうか。
最近、「グローバル投資家」といったような、ネームバリューを重視するケースが増えています。私はそれがあまり好きではありません。
私はむしろ、具体的に動いてくれる投資家、一緒に汗水流して働いてくれる投資家が好きです。
具体的に言うと、弊社に投資をしてくれたあるVCの担当者は、資料作成や、顧客紹介、人材採用の相談など、困った場面でいつもこちらの要望に応えて動いてくれました。
グローバルかつ先進的なビジョンを提供してくれる、そんな投資家を迎え入れたいという考え方もあると思います。でも、私はウェットな人間関係が好きなので、そういったウェットなやりとりができる投資家の方が納得感があります。
「強く、偉くならないと世の中を変えられない」
ーー御社の今後の展望についてお聞かせください。
近い将来、私たちは日本で名のある会社になりたいと考えています。
現時点ではグローバルへの展開はまだ難しいため、まずは日本で認知度の高い企業を目指します。具体的には、5年以内にEBITDAで150億円を達成したいと思っています。
私の試算ではその時点で、時価総額ベースで日本のトップ300社に入るだろうと思います。
なぜ私たちが名のある会社を目指しているかというと、「強く、偉くならないと世の中を変えられない」という事実があるからです。
現状では、いくら私たちが声を上げても、日本の金融は変えられません。ですから、まずは自分たちが強くなることが重要です。
それに向けて、失ったマーケットの信頼を取り戻したいと考えています。具体的には、まだ公募価格に戻っていない株価を元の水準以上に戻すことを目指しています。
1,290円でベットしてくれた投資家に報いて、まずはこの「亡霊」を払拭したいですね。
やはり、ここはきちんと責任を取らなければなりません。
これは私自身の想いとしても絶対に許せないところで、重要な目標だと考えています。
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家弓 昌也
名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。
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