#人事・組織
「個のためのインフラになる」というミッションを掲げ、フリーランス業界No.1のクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を運営している株式会社クラウドワークス。同社代表取締役社長 兼 CEO 吉田 浩一郎氏に、経営者の素養や、上場後の心構えなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの巻口 賢司が聞いた。(全4話)
37歳、一人のオフィスに届いた「お歳暮」からの気づき。
ーークラウドワークスは2回目の創業ということですが、お話を聞く限り、吉田さんの1度目の起業は一貫性や行動力、好奇心が特徴的だと感じました。一方、2度目の起業となるクラウドワークスの創業時には具体的にどのような変更や調整をされたのでしょうか。
当時、私はドリコムの役員としてIPOを経験していたこともあり、IPOコンサルタントや顧問、社外取締役の依頼が複数ありました。
さらにホームページ制作やECのコンサルといった受託業務も行うことで得た資金を元に、ワインビジネスやドバイ・マレーシアでの事業、ベトナムでのアパレル事業など、様々な事業に挑戦していきました。
会社は、日本での受託事業担当の役員とベトナムでのアパレル事業担当の役員との2人体制でした。しかし、一方がお金を稼ぎ、もう一方がそれを使うという構図では、今考えると上手くいくはずがありませんでした。
そして37歳の時、受託事業担当の役員が取引先を引き連れて独立し、会社の収入は完全に途絶えることになりました。
後に判明したことですが、この出来事は緻密に計画されていました。
半年前からその役員は「吉田さんはベトナムに集中し、日本は私に任せてほしい」と言い、クライアントには「吉田さんが来られないのは申し訳ないが、私が責任を持って担当する」という形で、半年かけて顧客を徐々にはがしていました。
当時の私は器が小さく、強い憎しみを感じました。「よくも裏切ってくれたな」と思い、寝ても覚めても彼の笑顔が浮かび、何か仕返しができないかと考えていました。
しかし、1ヶ月経って我に返った時、「こんなことをしても何も前に進まない。彼はビジネスを進めているのに、私は何もしていない」と気づきました。結局、周りの人々は皆離れていき、ベトナム事業も諦めて、完全に一人になってしまいました。
その年の12月、一人のオフィスにお歳暮が届きました。
その時、「人に覚えてもらえているっていいな」と感じたのです。周りの人が皆離れていく中で、人とつながり、人の役に立ち、そして人が贈り物をしてくれるということの意味を、初めて実感しました。
憎しみではなく、私が本当にやりたかったのは、人とつながり、人に貢献し、その結果としてお歳暮をいただけるような関係性を築くことだったのだと気づきました。
自分を見つめ直してみると、それまでの自分は「社長になりたい、時間やお金を自由に使いたい、車が欲しい、美味しい物が食べたい」など、様々な欲望に振り回されていました。
しかし、それらを一旦整理することで、「人とつながり、人に貢献する仕事がしたい」という本質的な願いが見えてきました。
その想いが定まってから、周りの人々に率直に相談し、「人の役に立つビジネスは何かないでしょうか」と尋ねた結果、教えてもらったのがクラウドソーシングでした。
当時、サイバーエージェント・ベンチャーズ(現サイバーエージェント・キャピタル)の社長を務めていた田島さん(現ジェネシア・ベンチャーズ)に「今、受託の仕事がオンラインで個人にマッチングするのが世界的な潮流になっている。クラウドソーシングと呼ばれているが、これなら吉田さんの強みが活かせるのではないか」と提案されました。
私はそれまでアパレルやお酒など、自分の強みのない事業ばかりを続けていました。しかし、クラウドソーシングについて話を聞いた時、この事業には私のすべての経験が活かせることに気づいたのです。
ホームページ制作、Eコマース、マーケティング支援、コンサル、営業支援など、これまで手がけてきた経験がすべて活きる分野でした。そのため、どこが重要で、何が満足度につながり、何が不満の原因になるのか、トラブル時の対処法まで、全てが手に取るように分かりました。
「これだ」という確信を得て、それから事業を整理し、クラウドワークスを創業することになったのです。
「公明正大であれ。」メンターからの教えと“夏休みの宿題理論”。
ーー創業後の大きな課題の一つとして、会社や創業者への信用構築があると感じています。特に御社は創業後、資金調達を行いながら、短期間で多くの大手企業との連携を実現されてきました。大企業との信頼構築について、意識されたことをお聞かせください。
信頼構築については、以前の展示会ビジネスの経験が活きていると思います。
産業見本市で半導体業界を担当していた頃、東芝の川西さん(東芝元副社長)や、シャープの片山さん(シャープ元社長)とお付き合いさせていただきました。いずれも20代での経験で、BtoBにおける信頼関係の基礎を学びました。
また、リードエグジビションジャパン(現・RX Japan)の石積さん(リードエグジビションジャパン元名誉会長、現・クラウドワークス顧問)からは、公明正大であること、事実に基づいて伝えること、精一杯伝えることは良いが、嘘はいけないという基本を徹底的に叩き込まれました。
営業で売上が未達の時は、どうしてもごまかしたくなりますが、嘘は一切許されません。4〜5年の在籍中、公明正大の中で評価を得ていくことを繰り返し教わり、それが私の原点の一つとなっています。
もう一つ、中学高校時代の印象深い経験があります。
私は夏休みの宿題を一切せず、9月1日の始業式では「宿題を忘れました」と言う10人ほどの生徒の一人でした。
9月末が近づくにつれ、同じ言い訳を続ける生徒は次々といなくなり、最後には私一人となりました。
結局、最後まで提出しなかったその経験は、今でも夢に見るほど心に残っています(笑)。この「夏休みの宿題理論」から、嘘をつき続けることの苦しさと、正直であることの大切さを学びました。
ーー「夏休みの宿題理論」、大変興味深いです。その他、クラウドワークスの創業初期に気をつけられたことなどございますか。
私は以前から、マッチングビジネスにおいて、ビジネスモデル自体には価値がないと考えていました。
例えば、展示会は出展者と来場者がいれば成り立ちますが、流行っている展示会と流行っていない展示会が存在します。
当時のリードエグジビションジャパンは、スペースを最高値で売り、業績も伸び続け、人が集まっていました。このことから、ビジネスモデル自体に価値がない場合、プラットフォームの価値は「誰がいるか」で決まることを学びました。
そういった観点で、クラウドワークスの立ち上げの順序を考えたのです。
当時はソーシャルゲーム全盛期で、エンジニアが不足していました。通常のIPやeコマース、WEB制作のエンジニアが不足していたため、優秀なエンジニアを集められれば仕事は確実に取れる状況でした。
エンジニアを集めるため、エンジニア交流会に協賛し、フードスポンサーなどを務めました。そこでクラウドワークスを紹介し、共感いただいた著名なエンジニアから顔写真を借りることとなりました。
その際気をつけていたのは、様々な言語のトップエンジニア、関西・関東のエンジニア、学生ハッカーから20-40代のエンジニアまで、幅広くアプローチすることでした。大企業のインハウスエンジニア、フリーランス、ベンチャー企業のエンジニアたちにも声をかけ、多様なエンジニアが集まる場を作ることを目指しました。
単に偏った層が集まるだけでは他の場と変わりません。多様な人材を集めるため、最終的には、エンジニア、デザイナーのトップ層から30名の顔写真をお借りすることとなりました。
そして、このような方が共感していますという顔写真とともに事前登録を開始した結果、1300人のワーカーが集まり、次に企業開拓に向かいました。このような取り組みが功を奏し、対面営業では大企業からベンチャーまで約30社の案件を獲得することができました。
こうして、サイトオープン時には、1300人のエンジニアと30件の案件が揃っていました。
オープン直後から活況を呈し、週2回の定期的なプレスリリースを継続した結果、2ヶ月半で月間投稿額1億円を突破しました。これにより、さらに多くの人が集まるようになりました。
経営者へのロイヤリティではなく「ミッションへの共感」が重要
ーー御社は設立後わずか4年で上場を果たし、現在も過去最高益を更新し続けておられますが、成長の過程でも経営陣との意見の相違をはじめとした様々な困難に直面されたと伺っておりますが、苦しい時期をどのように乗り越えてこられたのでしょうか。
上場後も様々な軋轢がありました。
当時は6人の役員がいて、コンサルタントを入れて本音のフィードバックをする機会があったのですが、「吉田が嫌い」「クラウドワークスに未来はない」といった意見ばかりでした。
正直、そう言われてかなり辛かったですが、独立後、37歳の時に1ヶ月間オフィスに一人でいた経験が期待値の底になっているんです。
1回目の起業で失敗した時に、全ての会社は利益を追求するという意味では、日本の400万社が皆同じことをしているのだということに気づきました。
だからこそ、ここでしかできない意味を作る必要がある。
「働くを通して人々に笑顔を」というミッション、今で言えば「個のためのインフラになる」という公共性に、とことんこだわってきました。
私へのロイヤリティは必要ないのです。このインフラを作るというミッションに共感して集まってくれればいいので、とにかくミッションを立てることが重要でした。
もう一つは、他者が簡単に真似できないプラットフォームの仕組みを作ることです。
1回目の起業とは異なり、たとえ社内で軋轢があっても、このプラットフォームを簡単に持ち去ることはできません。そして、このミッション自体を「最悪だ」と思う人は誰もいなかったのです。
そういう意味で、1回目の起業からは明確に変化がありました。
ーー30代での苦労が、今でも一種のアンカーになっているということですね。
ターンアラウンドになったのは、「言葉を定義したこと」が大きかったと思います。
2017年にDeNAのWELQ騒動が起こり、弊社も当時の売上15億円のうち3億円ほどがDeNAからの売上だったため、大量のライティング発注が遮断され、20%が消失するという時期がありました。
その時、社内予算の下方修正の議論が起こり、売上の90%を切ると下方修正の開示が必要になるというリスクに直面しました。しかし、マネージャーたちが一致団結して下方修正の発表を回避し、最終的に95%ほどの達成率を実現できました。
この経験から気づいたのは、「目標」という言葉の定義が人によって異なっており、90%という下方修正の基準だけが共通の目標として認識されていたということです。
そこで目標の定義について全員に意見を聞き、4種類ほどに分解して一つの定義に合意しました。
現在は、数字の定義も言葉の定義も、あらゆるものを定義して積み重ねていくモデルを作っているので、経営はこれからも習熟していくと考えています。
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巻口 賢司
早稲田大学政治経済学部卒業後、日本マイクロソフトに法人営業として入社。国内の大手企業におけるデジタル化の促進に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・カンパニーにて、スタジオ部門での映画の配給・マーケティングからコーポレート戦略部での新規事業開発など、幅広い業務に従事。2023年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。日台ハーフ・日英バイリンガルというバックグラウンドを活かし、グローバルな目線でのスタートアップ支援を志す。
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