「ネットワーク型の組織には『情報のハブ』となる人物が必要」株式会社Synspective 新井 元行 代表取締役CEO(第2話)

「次世代の人々が地球を理解し、レジリエントな未来を実現するための新たなインフラをつくる」というミッションを掲げ、小型SAR衛星と関連システムの開発・製造・打上を通じた衛星コンステレーションの運用と、その取得データの販売・解析ソリューションを提供する株式会社Synspective。同社代表取締役CEO 新井 元行氏に、事業作りや組織構築、ファイナンスの要点などについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)

初期チームの質の高さにより、大型の資金調達に成功した

ーー宇宙分野は人材が希少なため、創業期の仲間集めは難しいのではないかと思います。御社の場合はどうだったのでしょうか。

もともとあった「ImPACTプログラム」に、非常に優秀なエンジニアが集まっていました。衛星開発や専門的な経済活動をしていくことについては、既に白坂先生が優秀なメンバーを集めてくださっていました。

それ以外の事業開発や管理系のメンバーは、私がそれまでのプロジェクトやスタートアップで関わってきた信頼できる友人たちに声をかけました。

声をかける際には、私たちの価値観である「次世代のためのサステナビリティの実現」という理念や、ライフワークとしての仕事の考え方に共感してくれる点を重視しました。

以前から一緒に働いてきた仲間たちとは既にその使命感を共有していましたし、ImPACTプログラムにいらっしゃったエンジニアの方々も、技術を社会のために活用するという強い使命感を持っていました。

そういった志を持つ人々と、「一緒に会社を作りましょう」というところからスタートしたのが、私の最初の仲間集めでした。

 

ーー創業時のメンバーは何名ほどだったのでしょうか。

会社設立時は私一人でした。

「ImPACTプログラム」は会社の創業後も並行して動いており、会社は2018年に創業しましたが、プログラムは2019年3月まで続いていました。その間、メンバーは各大学やJAXAなどに在籍して活動していました。

私一人で会社を立ち上げた後、すぐにファイナンスに動き出しました。

シードラウンドの目処が立ち、事業を進められる見通しができたところで人材募集を始めました。最初のメンバーである今泉さんと芝さんが入社したのは、創業から2ヶ月後の頃です。

 

ーーシードラウンドでいきなり22.5億円を調達されたんですよね。なかなか真似できないすごいことだと思います。

あの時に持ち逃げするのが一番幸せだった、なんて思ってしまう人もいるかもしれないですね(笑)。

リードインベスターを引き受けていただいたジャフコさんは、本当にリスクを取ってくださいました。

「ImPACTプログラム」の確かな技術基盤とエンジニアの存在、そして私が声をかけていた優秀なメンバーの存在が大きかったと思います。初期チームの質の高さが評価されたのです。

ジャフコさんは「チームを見る」とよく言われているのですが、私たちのチームにピンと来たようで、リードを引き受けてくださりました。その後、多くの投資家の方々にご賛同いただき、大きな資金を調達することができました。

 

ネットワーク型の組織には「情報のハブ」となる人物が必要

ーー御社は大きな資金調達を元手に、組織を急速に拡大されてきました。組織が急に大きくなると難しさも出てきますし、御社の場合はそこにコロナ禍も重なっています。この困難を乗り越える上で、工夫された点がもしあればお聞かせください。

実は私たちは、創業時に「みんなにとって働きやすい環境を追究しよう」というもう一つのミッションを掲げ、数名の小規模な段階のうちから、人数が増えても良く機能する組織設計について密に議論してきました。

その結果、「ヒエラルキーのない、プロフェッショナルな人材がフラットに連携する組織」である、いわゆる「ネットワーク型の組織」こそが、強烈なリーダーシップを必要とせずとも正しい方向に向かっていける、我々の目指すべき組織だろうとの結論に至りました。

この結論に至ったのは、私自身がフリーランス出身で、そういった組成のプロジェクトを多く経験していたことも関係しています。

10人程度のチームメンバーひとりひとりがプロフェッショナルで、かつ同じミッションを共有していれば、リーダーが強くディレクションをしなくても、物事がうまく前進することを知っていたのです。

しかし、100人規模になると難しさが出てきます。「ネットワーク型の組織」とは、各プロフェッショナルが会社全体の動きを見て「自分がどう動くべきか」を自律的に考える組織であるため、規模が拡大し全体が見づらくなると、うまく機能しなくなってしまうのです。

特に、責任感があって優秀な人ほど、自分の担当領域を完璧にこなそうとするあまり、部門に閉じこもり、組織のサイロ化を招いてしまいます。これは人間の生物としての限界であり、ITを活用したとしても避けられない問題だと思います。

私たちはそこで初めて、チーム単位ではなく、会社全体をディレクションする機能の必要性を認識しました。

但し、ヒエラルキーを作らないまま、「ネットワーク型の組織」として成立させることを前提にしながら、情報共有と意思決定の仕組みを見直していきました。

具体的には、「情報のハブ」になる人たちを、マネジメントとして私が指名しました。このマネジメントたちが会社全体から情報を集め、専門性のあるメンバーのレビューを受けながら意思決定することで、アジャイルに会社全体をディレクションしていくのです。

この仕組みを回すには、会社全体の情報共有とレビューがうまく進む必要があるため、組織間の風通しや、ものを言いやすい雰囲気づくりなど、会社文化の側面も併せて手当てしていきました。

創業から3-4年目の時期でしたが、このフェーズは本当にしんどかったですね。

 

ーーよく考えられた仕組みですね。組織の設計を変えることについては、どのように意思決定を進めていったのでしょうか。

周りの人に相談しまくりました(笑)。

サイロ化が進んでしまった当時は、会社の雰囲気が悪くなって皆が働きづらくなってしまったのですが、そのままでは事態は好転しません。

誰かが明確にリーダーシップを取って進めないと、組織の仕組みの話は自然に進んでいくものでは無いのです。

会社全体を誰かがディレクションするという思想は、「組織は自律的に前進すべき」という私の哲学と相反するものだったので、私自身、相当に苦しんだのですが、上手く行かない現状を受け入れ、皆と話し合って方針変更を決めました。

 

ーーヒエラルキーの無い「ネットワーク型の組織」では、メンバーの教育が課題になりやすいようにも思います。この点について、何か工夫されたことがあればお聞かせいただけますか。

これは難しい問題で、今でも試行錯誤を続けています。

スタートアップでの仕事は、常に新しいことへの挑戦の連続ですので、何か決まった教材を準備して教育してあげるということができません。

そのため、社内の専門家同士で如何にナレッジを共有できるかが肝だと思っています。

施策として、社内勉強会の開催や、部門を超えた業務内容・課題の共有など、積極的に情報連携の場をつくっています。

どういった教育の仕組みが良いのか、あるいは、仕組みではなくカルチャーで対応すべきなのかは、今でも探っているところですね。

 

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