Web3スタートアップが進むべき道と、規制との向き合い方 株式会社bitFlyer 加納 裕三 代表取締役(第3話)

「ブロックチェーンで世界を簡単に。」というミッションのもと、日本国内で最大級の暗号資産取引所を運営し、創業から11年を迎えた今もなお業界の最前線で挑戦を続けている株式会社bitFlyer。今回は、同社代表取締役 加納 裕三氏に、起業家に求められる素養やWeb3業界の現在、さらにはグローバル展開を見据えた今後の展望について、DIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)

Web3は今も進化している - 狙うべきは“周辺”と“掛け算”

ーー今からWeb3領域で起業を志すとしたら、どのような事業に可能性がありそうでしょうか。

bitFlyerのような、中央集権型の取引所を今から日本で立ち上げるのは難しいと思います。

実際にコインベースも日本市場から撤退しましたし、大手企業も過去に参入を試みましたが、成功したとは言えない状況です。コインチェックなど既存のプレイヤーがいて、ある程度成熟したこのマーケットに挑むには、コストやリスクが大きすぎるのです。

これはAIの分野でも同じことが言えると思います。今からLLMでOpenAIに挑むようなことは、資金的にも人材的にも現実的ではありません。このように、Web3においても、大規模なインフラを構築するような領域は、既に勝負がついていると感じています。

一方で、その“周辺領域”にはまだ可能性があります。ステーブルコインが普及した未来を前提に、その上で何を構築するかを考えるのは有効でしょう。

「AI×Web3」や「宇宙×ステーブルコイン」といったように、掛け算の発想で新しいサービスを創出することが今後のカギになると思います。そうした新たな組み合わせの中にこそ、次の可能性があるのではないでしょうか。

 

「物」と「Web3」が結びつく次の市場

ーー加納さんが現在注目されているWeb3領域のトレンドをお聞かせください。

Web3領域に限定すると、最近注目しているのは「DePIN(Decentralized Physical Infrastructure Network)」です。物理的なデバイス、簡単に言うと「物」と「Web3」を結びつけ、非中央集権的にインフラを構築・運用するというコンセプトで、今後の広がりに可能性を感じています。

例えば「ハイブマッパー(Hivemapper)」というプロジェクトでは、個人が車に専用カメラを取り付けて走行しながらデータを収集し、自分たちで地図を構築していきます。

こうして生成された地図を利用したい企業はトークンを支払い、地図データ提供者には報酬としてトークンが分配されるサービスです。ユーザーがGoogleなど中央集権的な企業に依存せず、自分たちでサービスをつくる点で革新的だと感じます。

同じような仕組みで、「ファイルコイン」と呼ばれるプロジェクトもあります。これは、個人の空きストレージを活用して、Googleドライブのようなストレージを構築するものです。

個人PC等の空きストレージに利用者のデータを暗号化して保存し、データ利用者は報酬を支払い、ストレージ提供者は報酬を得る。そうして世界中に分散型のクラウドが形成されていく。こういった、物理的インフラとWeb3を組み合わせる流れが今後のトレンドだと考えます。

 

健全な業界のために。規制とどう付き合うか

ーーWeb3業界に参入する際は、規制への対応が重要なポイントですか。

全てが厳しく規制されているわけではありません。例えばNFTに関しては、日本はかなり緩やかな規制環境にあります。実際のアプリケーションを開発したり、サービスとして提供したりする部分については、そこまで制限を受けることはないと思っています。

一方で、我々のようにトークンを預かる事業、いわゆる暗号資産交換業に関しては、しっかりとした規制の枠組みが敷かれています。リスクを抑えるために、厳しく管理されているのが現状です。

つまり、交換・取引などのライセンスが必要な部分は既存の事業者に任せ、その上で流通やアプリケーションを展開する領域であれば、今からでも十分にチャンスはあると思っています。

 

ーー規制に関連して、加納さんが設立された自主規制団体「JVCEA(日本暗号資産等取引業協会)」の活動内容や意義について教えてください。

まず、最初に立ち上げたのは「ブロックチェーン協会」で、世界的に見てもおそらく最古のブロックチェーン団体だと思っています。登記は2014年9月ですが、それ以前から活動は始めていました。当時はまだ「暗号資産」という言葉すらなく、「価値記録」という呼び方をされていたため、この団体の最初の名称も「日本価値記録事業者協会」でした。

当時はまだ法律が整備されていなかったため、このような団体を作る必要がありました。2016年に初めて法制化されたため、2014年のbitFlyer創業当初はマーケットが混沌としていたのです。

実態が分からない詐欺まがいの会社が多く参入している状況に大きな課題を感じ、団体の立ち上げを通じて、セキュリティやマネーローンダリング対策といった最低限のルールを自主的に整備しよう、と考えました。

ただ、これは非常に大変でした。「なぜ自ら規制される必要があるのか」と反発する声も多く、説得は難航しました。顧客獲得コストが低い事業領域では特に、ルールに従うメリットがないと感じる企業も多かったのです。

しかし、私は“放牧地のジレンマ”のようなものを感じていました。皆が自由に草を食べれば、いずれ土地が枯れてしまう。適切な柵を作ることで、持続可能な形で全体の利益を最大化すべきだと考えたのです。

当時、ビットコインは「シルクロード」と呼ばれた違法マーケットで使われるなど、非常にネガティブなイメージが強いものでした。私はそれを強く問題視しており、この素晴らしい技術をそのようなアングラな用途で終わらせたくなかったのです。

だからこそ、自分たちでルールを作って、業界を健全な方向へ導きたかった。これが後に「JVCEA(日本暗号資産等取引業協会)」へと繋がっています。

 

 

とはいえ、この姿勢に対して、とあるVCから「理念は高尚だが、それでは儲からない」「もっとグレーな領域で攻めるべきだ」と言われたこともあります。

しかし私は、グレーゾーンを攻めるようなビジネスは長続きしないと考えています。そうしたやり方には、「懲役百年かビリオネアか」といった極端な結末しか待っていないでしょう。

Circle社のように、規制遵守によって信頼を獲得することで、大きな時価総額での上場を果たした企業も出てきています。創業当時から知っている彼らが、苦しい時期を乗り越えて大きくなった姿を見ると本当に嬉しいです。彼らのように、真の技術、サービスで勝負するやり方がWeb3業界の未来を切り拓くと信じています。

 

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家弓 昌也

家弓 昌也

名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。

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