#起業家の素養
ほぼ月刊、鈴木修の『スタートアップメンタリング回想録』 第3回 ネガティブフィードバックどうする?
鈴木 修
Director
はじめに
鈴木修です、こんにちは。
ベンチャーキャピタルDIMENSIONは出資先スタートアップの成長支援に力を入れており、僕のメインミッションとしても、日々、スタートアップへのメンタリングを行っています(経営者を中心にCxOチームや人事の方などにメンタリングをしています)。
このコラムでは、僕が実際に行っているメンタリングを回想しながら、主にスタートアップ組織についての様々なエッセンスを書き連ねていきます。どうしても具体な内容は控えなければならないところが多々ありますのでその点はご了承くださいね。
これが唯一正しいということではなく、多様な見解が生まれていくきっかけづくりを願いつつ書き連ねていくコラムですので、みなさんそれぞれに考えを馳せていただけますととても嬉しいです。
それでは、今回のメンタリング回想録をどうぞ。
※鈴木修のプロフィールはこちら
ネガティブフィードバックどうする?(読了時間目安:5分)
メンバーの何らかの問題や課題を発見した際のネガティブフィードバック、なかなか難しいですよね。
※ネガティブという単語を使用しますが、それは、成果や成長につながる建設的な問題点や課題点という意味合いで使用していますので、単なる否定やダメ出しを意味していないことをご理解ください。
テクニカルには上手な方でも、ネガティブフィードバックを行うこと自体はどうしても気持ち的にはなかなか難しい。
僕自身、メンバーを持つ経験は年数としても場数としても豊富なほうだとは思っていますが、このネガティブフィードバックは気持ち的には決して慣れることはないなあ、というのが実感です。
今回のコラムでは、ネガティブなことをどう伝えるか?というコミュニケーション手法の前に、そもそもメンバーのネガティブ事象に遭遇した際の、それに対しての捉え方や整理の仕方の基本的なところを書いてみたいと思います。
ネガティブフィードバックについては、どういう場でどういう言葉で伝えよう・・・こう言ったらどう受け止められてしまうかな・・・、といったようにすぐにコミュニケーションの観点に思考が入り込んでしまい正解が見えぬまま時間が経過、そしてネガティブフィードバックをせずにいつの間にか放置してしまうというコミュニケーション迷子になってしまうことが多いのではないでしょうか。
ネガティブ事象に遭遇した際、まずはそれを適切に整理することで、その後のメンバーへのコミュニケーションは無駄に迷うことなく驚くほどすっきり行うことができます(その背景には、ネガティブ事象に遭遇して感情が沸騰してしまったり沈んでしまったりしたマネジャーの気持ちが、整理することで落ち着きを取り戻し対応も落ち着いて行うことができる、という心理的な効果もとても大きいと考えています)。
さて、実際にメンタリングで本テーマのご相談をいただいた際には、こういったことを質問しながら、そのネガティブ事象を一緒に整理しています。
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①どなたのどういう時の何に対してのどんな行動や言動がネガティブだったかを具体的に思い出して事実として教えていただけますか?
②そのネガティブが発生した原因を、環境、役割設定、マネジメント、本人、という軸で出してみていただけますか?
③そのネガティブは事業に具体的にどう影響していますか?影響しそうですか?
④そのネガティブは文化に具体的にどう影響していますか?影響しそうですか?
⑤そのネガティブはキャリアに具体的にどう影響していますか?影響しそうですか?
⑥そのメンバーはネガティブなことをどう伝えてもらったら頭でも気持ちでも受け入れ理解しやすいのか知っていますか?聞いてみたことはありますか?
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このそれぞれの質問のポイントを少し紐解いてみます。
まずは、①で事実を整理して、②でその原因を整理。もちろん口頭ではなく文字で整理、整理の基本ですね。
①の事実の整理では、文字にしてみると意外と小さい出来事だった、具体的に何が問題か曖昧だったが紐解くと小さな行動だった、そもそも単なる印象論であってそれほど大きな事実があったわけではなかったなどなど、ネガティブ事象レベルが低くなることが少なくありません。
マネジャーも人間ですし、感情的にネガティブ事象レベルを高くしてしまっていることもありますから、ネガティブ事象を客観視し落ち着いた気持ちでレベル算定をしてみましょう。
①で事実を客観的に冷静に整理できた上で、②の原因の整理に進む事ができます。そうでないと、ネガティブ事象原因の所在をどうしても本人だけに限定してしまいがちに。
環境に原因はないかな?役割設定に原因はないかな?マネジメントに原因はないかな?そして本人に原因はないかな?といったように、様々な軸で原因を洗い出してみる。
そうすると、会社としてのdos and don’tsが明示されていない、業務フローが未整備、裁量や制限が設定されていない、業務量過多であり優先順位が合意できていない、本人の役割設定が曖昧、小さな相談ができるマネジメント体制が無いなど、環境や役割設定やマネジメントに原因があり、その外部要因の結果としてメンバー個人のネガティブ事象が発生しているんだな、というケースが多々あることを認識できます。
本人起因以外の原因をしっかりと把握し対処する事が、今後の組織の別のところでの同様のネガティブ事象の再発防止にもなり、組織力を向上させ強くすることにもなりますので、経営視点ではとても大切だと考えています。
“仕組みの改善と個人の改善はセット”
本人起因の原因は最後に洗い出すくらいの順番を意識し、まずは環境要因を考えてみてよいと思います。
ネガティブフィードバックする際にも、環境課題改善と個人課題改善をセットで伝えることで、受け手側であるメンバーの納得感や受け入れ度合いは大きく変わります。
さて、①で事実を整理し②で原因を整理した後には、その具体的な影響を整理する③④⑤です。
③事業影響と④文化影響と⑤本人キャリア影響(本人の今後の昇格昇進や仕事機会獲得などキャリア構築にどんな影響があるのか)、具体的にすでに起こっていることは何か?具体的に今後起こりそうなことは何か?影響を具体的に把握もしくは予測しそれがどれほどのレベルなのか、これが経営にとって何よりも重要ですよね。
メンバーへのネガティブフィードバック効果を高めるためにも、そのネガティブな行動や発言などの事象を明示するだけではなく、それがどのように事業や文化や本人キャリアに影響するのかを具体的に伝えましょう。マイナス影響の広さや深さが伝わらない限り、自らの行動や言動の問題の重さは伝わる事はなく=責任が伝わることはなく、結果、本人は自己改善変容に本気でトライしません。
自己が確立された大人が自己変容に動くということは決して容易ではなく、影響の重要性や危機レベルをどれだけ認識し合意できるか、それ次第です。
③事業影響と④文化影響と⑤本人キャリア影響をよくよく整理してみたらそれほど影響しないな、ということもあります。その背景には、上司部下がキャラクターとして合う・合わないとか、何らかのコミュニケーションスタイルの違いとか、そういった個性の違いからマネジャーがメンバーをネガティブにとらえてしまっているケースが少なからずあります。その場合には、マネジャー自身がしっかりと対人許容量や寛容性を成熟させましょう。
最後に⑥のコミュニケーション方法確認。誰かとのコミュニケーションの取り方に悩む際には、その誰かにコミュニケーションの最適な取り方について直接聞いてみる、ということは大事です。
ほとんどの方はこういったことを相手に聞いてみた事が無いのではないでしょうか。
伝えた事がどう伝わるかどう受け入れられるか、それはその受け手の好ましいコミュニケーションスタイル(もっと言うと性格などの人間性の深いところ)と合っているかどうかに依存します。特に、ネガティブなことであればあるほど、どう受け入れてくれるかどう理解してくれるか、それは人それぞれです。誰しも自尊心や自責心といったものは持ち合わせていますから、それがフィルターになり同じ内容でも伝わり方が変わってきます。
ですので、新規入社者のオンボーディングや上司部下の関係性になった時、できる限り早いタイミングで、「今後、何か課題点や成長点などをフィードバックする際にどういうフィードバックの仕方が受け入れやすい?」といったように聞いてみることはとても有効です。
以上、ネガティブな事象に遭遇した際には、このように①②③④⑤⑥を自問自答したり、マネジャー同士で質問し合ったりしてみていただければと思います。
どうコミュニケーションしよう・・・、と思案し悩む前にこの6つを整理することで、脳内も気持ちも整理ができ、結果的に冷静に打ち手やコミュニケーションをシンプルに実施することができます。
この6つの整理プロセス、時間はまったくかかりませんよ。メンタリングでも、最初は30分ほどはかかりますが、慣れると自分で10分から15分でできてしまいます。ネガティブフィードバックはメンバー成長にとって必須ですので、それくらいの時間はしっかりとるべきですよね。
メンバーの問題や課題を発見したら、すぐにこの6つのプロセスをmax15分で行い、その日のうちにネガティブフィードバックを行う、という習慣を身に付けましょう。
ポジティブもネガティブも“フィードバックは新鮮さ=速度が命”。
この6つの整理がその新鮮さを保ってくれます。
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さて、今回のメンタリング回想録、いかがでしたでしょうか。
今回のコラムでは、ネガティブなことをどう伝えるか?というコミュニケーション手法の前に、そもそもネガティブ事象をどう捉えてどう整理するのかのポイントお伝えしました。
どう伝えるか?といったようなコミュニケーション手法については、また別の機会に書いてみたいと思います。
本シリーズでは、できる限り読んでいただく方の関心の高いテーマについてお伝えできればと思いますので、もし何かテーマのリクエストなどありましたら、遠慮なくお気軽にご連絡いただけますと嬉しいです。
それでは、また次回。
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