基礎から学ぶ!起業の手順書 第3回 事業計画の作成

はじめに

こんにちは。独立系ベンチャー投資ファンドDIMENSION家弓(かゆみ)と申します。

本コラムでは、起業からEXITの時間軸に沿って、事業推進の論点になり得るポイントを網羅的に紹介していきます。当連載を順番に読めば、検討すべき項目を抜け漏れなく把握できる、そんなコラムを想定しています。創業前の方は第1回から、既に起業している方は会社のステージに合う回からご覧頂ければと思います。

私共のナレッジの活用によって、真摯な起業家精神と、正しい事業構想を持つ起業家のみなさまが、少しでも効率的に事業を推進されることを願っています。

第3回の本稿では、事業計画を立てる際のポイントについてご紹介します。
(本稿における「事業計画」は、ピッチブックではなく、損益の月次推移などを表計算した計画書を想定しています)

事業計画は、起業家にとって羅針盤とも言える重要なツールです。適切な事業計画を立てることで、事業の方向性が明確になり、効率的に前進することができます。また、進捗に応じて軌道修正を行うための指標となるほか、ベンチャーキャピタル(VC)や金融機関から資金調達を行う際にも必要不可欠な書類となります。

ぜひ、本稿を一つのご参考にしながら、事業計画を作成してみて頂ければと思います。

 

孫氏曰く 「事業計画を立てよ」

事業計画とは、会社の目的地を明示し、そこへ至るための道筋を示すものです。即ち、その通りに進めば目的地へ到達すると納得できる計画、である必要があります。

事業計画に盛り込むべき内容は事業の性質によって多岐にわたりますが、最低限押さえるべき要素は「損益の月次推移」「組織計画」「資金繰り」の3点です。何をいつ誰がやるのか、それに必要な資金をどう調達するかを、細かくイメージしながら作成することが大切です。

事業計画は資金調達に必要な資料だから、調達のタイミングになったら作れば良い、とする意見もあります。しかし筆者は、簡易なもので良いので、事業計画はなるべく早期に立てることをお勧めします。

頭の中にあるイメージを数値に落とし込んでみることで、思わぬ落とし穴が見つかることもあるはずです。市場規模は十分か、成長速度の計画に無理はないか、資金の出し手を納得させる実績が出るまで手元資金は持つのか。さらに、こうした計画を立てることで行動が最適化され、無駄の少ない効率的な経営ができる効果も見込めます。

孫氏の兵法にも、「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む」、という教えがあります。これは、勝利を確信できる計画を先に立て、その後で実際の戦いに臨むべきだと説いた言葉です。このアプローチに従い、十分な準備を整えてから行動に移ることをお勧めします。

 

事業計画作成のポイント

事業計画書については、多くの企業や団体が親切にもひな形を公開しているため、Web検索で簡単に見つけることができます。筆者の経験上、出資を検討させていただくスタートアップの皆様も、こうしたひな形を活用して事業計画書を作成されているケースが多いように思います。

事業計画書にどんな項目があって、どのような数値を入力する必要があるかは、上記のひな形や、有識者(例:商工会議所)への相談を通じてご確認頂けるかと思います。

本稿では、筆者がスタートアップの皆様との議論を通じて感じた、事業計画作成のポイントを4つご紹介します。

①妥当なKPIに基づいた計画か
②事業の成長を論理的に説明できるか
③組織計画が事業計画に紐づいているか
④目指す売上規模が市場規模に対して妥当か

事業を成功裏に展開されている方々は、これらの重要な点を押さえ、綿密に練り上げられた事業計画を作成されていると感じます。

以下、順にご説明します。

① 妥当なKPIに基づいた計画か
KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)は、最終目標達成に必要な要素の達成度合いを測る指標です。例えばSaaSモデルでは、単価、離脱率、CAC(Customer Acquisition Cost、顧客獲得単価)などがKPIとして用いられます。

月次の事業進捗計画が、適切なKPI数値に基づいているかがポイントです。離脱率を考慮していなかったり、CACが非現実的に低かったりする計画では、将来的に、事業が想定よりも停滞する可能性が高くなります。

自身のビジネスモデルに関して、重要なKPIを明確にし、それらの妥当な数値を事前に調査することをお勧めします。これにより、より現実的で達成可能な事業計画を立てることができるでしょう。

② 事業の成長を論理的に説明できるか
事業計画において、月次売上高の成長ロジックを表計算で示す必要があります。このとき、例えば「売上が毎月3%ずつ増加する」といった仮定を置けば、いわゆるスタートアップに期待されるエクスポネンシャルな成長を簡単に表現できます。

しかし、もしそこに論理性が無いのであれば、「月次3%の売上成長」は単なる目標に過ぎず、計画とは言えません。

例えばBtoBでの製品販売の場合、営業人員の能力と人数、リード獲得数、成約率などを月次で考慮する必要があります。さらに、人員増加のペースや新機能のリリース時期、それによるアップセルの可能性も検討すべきです。

これらの要素を細分化し、各要素の計画の妥当性を検証しながら継続的にフィードバックを行うことをお勧めします。このアプロ―チにより、経営の不確実性が減り、安定した事業展開が可能になるはずです。

③ 組織計画が事業計画に紐づいているか
事業の数値目標を達成するには、それに見合った組織の構築が不可欠です。部署や役職によっては、募集を開始してもすぐに採用できなかったり、採用後も教育期間が必要で即戦力にならなかったりします。そのため、組織計画は事前に立案し、早期に行動を起こす必要があります。

スタートアップの主要コストは人件費ですから(事業によっては広告費や設備投資費も加わります)、数値目標達成に必要な組織規模を見誤ると、資金繰りに支障をきたす恐れがあります。特にエクイティで成長を目指すスタートアップは、資金が枯渇するまでに大幅な業績向上が求められます。

事業計画と組織計画を適切に連動させることで、想定通りの事業成長を実現すると同時に、予期せぬ資金不足のリスクを軽減できます。慎重に計画を立て、実行することが肝要です。

④ 目指す売上規模が市場規模に対して妥当か
市場規模が小さい業界で先行者優位を活かし、ニッチトップを目指す戦略も考えられます。しかし、そのような状況を迅速に作り出し、将来的に維持するには相応の組織力や製品力が必要です。多くの事業においてこれを実現するのは困難であるため、筆者としては、市場規模の小さな領域でスタートアップとして上場を目指すのは基本的には避けるべきだと考えています。

例えば、時価総額100億円での上場を目指す場合、PER 20倍として当期利益5億円が必要となります。純利益率10%と仮定すれば、50億円の売上が求められます。市場規模が1,000億円あれば市場の5%を獲得することになり、妥当なイメージが湧きます。一方、市場規模が100億円しかない場合、市場の50%を占める必要があり、非常に高いハードルとなります。

市場を素早く獲得する営業力と、その寡占状態を維持する圧倒的な競合優位性があれば成立しますが、創業から数年のスタートアップにとっては、極めて難しい戦いになるでしょう。

事業計画を立てた結果、このような想定になった場合には、1つ目の事業が安定した段階で別の事業にも手を広げるなど、市場規模を拡大する取り組みが必要になると考えます。

 

いかがだったでしょうか。本稿の内容は必ずしも皆さまの事業に直接適用できるものではありませんが、一つの参考として心に留めておいていただき、必要に応じて適宜ご活用いただければ幸いです。

DIMENSIONでは、スタートアップの皆様からのご相談をお待ちしております。是非、お気軽に弊社メンバーまでご連絡下さい。

 

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