#起業家の素養
ベンチャー経営者が常に頭を悩ませる「採用」。昨今の売り手市場で適切な人材を見つけ、仲間にしていくのは簡単なことではない。そんな中、経営者は採用にどう向き合い、何をすべきなのか。そのヒントを探るべく、ベンチャー人事に長年携わり深い見識を持つキープレイヤーズ高野氏(写真左)、働き方ファーム石倉氏(写真右)の2人にベンチャー採用のあるべき姿を聞いた。(全4回)
募集人材要件の定義で陥りがちな罠
――採用強化をする上で、まず初めに何から手をつけていけばいいのでしょうか?
高野:まず初めに「欲しい人材の要件」をしっかり定義することが重要です。ベンチャーが陥りがちなミスとして、ポジションやスキルを決めすぎているケースがよく見られます。例えば、「うちは広報力が足りないので、大企業で広報の経験を持った人が欲しい」といった相談をうけることが多いですが、よくよくヒアリングしていくと予算的に低めの年収条件しか提示できない。しかし、転職市場に条件に合致する人材はほぼいない訳です。
そうやってポジションやスキルで人材要件を定義してしまうのではなくて、オープンポジションで色々できるような人材を採る方がベンチャーは上手くいくケースが多いと思っています。
石倉:高野さんの広報の話と同じで「人事責任者が欲しい」とよく相談されますが、やはり金額面で折り合いがつかずなかなか採れない。それなら社内で優秀な人を人事に置いて、その欠員を新規採用で補充した方が良いですよね。
特に社員が30人以下くらいのベンチャーはやるべき仕事が事業成長に応じてどんどん変わっていくはずなんです。にもかかわらずポジションをカッチリと決めて採用したがる会社が非常に多い。「優秀な人材であればそれで良い」というくらいの気持ちで、ポジションに嵌めるというより、優秀な人材をその時々の状況や向き不向きに合わせて柔軟にアサインする方が機動力のある組織になると感じています。
高野:そうすると今度は、「優秀な人材」像を決める必要が出てきますね。
ベンチャー採用においては入社後の成長も非常に大事です。実際、入ってすぐにカルチャーともフィットして、ベテランや先輩が持つエッセンスを恐ろしいスピードで吸収する人っていますよね。
採用時に優秀かどうかに加えて、入社後に「優秀になりうる人材」の要件を考えることが重要です。
採用競合を知る
――欲しい人材が定義できたところで、次にポイントになるのはなんでしょうか?
石倉:要件を決めても、「市場にそんな人はいない」ということがよくあります。なので、自社・競合・市場を俯瞰的に見た上で、自社の適切なポジショニング・戦略を考えることが重要です。
高野:そうですね。
当然ビジネス上の競合に比べて良い人が採れているかという観点も大事ですが、それに加えて採用競合に比べて優秀な人が採れているかを把握することが重要です。
例えば、とあるベンチャーの社長は「うちは内定を出したら絶対採れる」と思っていて、実際に数としては採れていた。ただ、本当はそれでは不十分だったんです。というのも、候補者のリストを見ていると、採用上で競合するメガベンチャーが採っている層と比べて少し力の落ちる人ばかりが受けていて、本当に採るべき層を逃していたんです。短期ではビジネスモデルなどでなんとかなっても、中長期では優秀な人を採らないと業績が頭打ちになってしまいます。
石倉:自社の採用が上手くいっているのは2ndティア内だけだということに気付かないといけないですよね。
私は人材エージェントと話す意味は自社のポジショニング把握にあると思っていて、社内の人間だけでは採用競合のことまで分からないんです。そういった話を広く見ているのはやはり人材エージェントなので、上手く力を借りるべきだと思います。紹介料を取られることを気にしてエージェントとコミュニケーションをとらないのは非常にもったいないと思いますね。
高野:確かに、1~2人しかいない採用担当者が自社内での議論に行き詰まりを感じているケースが多いように感じます。
口説き文句の「引き出し」を増やす
――では、人材要件を決めて、競合を理解した後に、実際に候補者を「口説く」際に何に気を付けると良いでしょうか?
高野:まず、口説き文句のパターンが少ないベンチャーが多いと思います。「うちは若くして権限移譲します」「上場目指してます」ってどこでも言えてしまいますよね(笑)。
石倉:口説き文句を考える際にも、相対感が重要になります。先程もありましたが、ビジネス上の競合は見ていても、採用上の競合までは意識して発言していないことが多い。採用競合・転職市場がある中で、自分たちがどう思われていて、どのように発言すれば魅力的に映るかを考える必要があります。
例えば、事前に競合したい会社を定めて、それに合わせて採用メッセージや口説き文句を練る方法もあります。実際に競合したい会社を受けている人材が応募してくれているかどうかを後からチェックするんです。
――それはアーリーのベンチャーでも使えそうな考え方ですね。
高野:採用メッセージを考える上では、自社が持つ価値観の明文化が重要になってきます。感覚的には、社員数が5人くらいであれば不要だと思うんですが、30人以上になると何らかのメッセージやビジョンが必要です。その時は、コピーライターを入れるなどしてしっかり作る気概を持っている会社の方が上手くいっているように思いますね。言葉はやはり洗練されていないとあまり伝わらないですから。有名どころでいくと、メルカリさんの「Go Bold」なんかはすごく分かりやすいですね。
石倉:簡単で人材要件もイメージしやすいですよね。
高野:採用においてはデザインがイケてるとか、コピーがイケてるということが侮れない重要性を持っています。最近はベンチャーもメッセージやビジョン、デザインに凝っている企業が増えているので、分かりやすく、覚えてもらえるメッセージを練ることは労力をかけて行なうべきだと思います。
>>第3回 「経営の分かれ道?幹部候補の採用で失敗しないためには」に続く
>第1話「ここまでやる! 採用に強いベンチャー経営者の共通点」に戻る
DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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