#ビジョン
「マンガ家の職業価値を向上させ、子供たちの憧れの職業にする。」というミッションを掲げ、オリジナル作品を中心としたマンガアプリ『GANMA!』を運営するコミスマ株式会社。同社代表取締役社長CEO 佐藤 光紀氏に起業家の素養、ヒット作を生み出すポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの巻口 賢司が聞いた。(全4話) ※コミスマ株式会社は、2025年1月6日にコミックスマート株式会社より社名変更
コミスマ設立の原点
ーー2013年にコミックスマート(現・コミスマ)事業を立ち上げられた当時、マンガ市場にはどのような流れがありましたか?
2000年前後にデジタルマーケティング事業を立ち上げた頃は、メディアや広告産業全体がデジタル化していく黎明期を迎えていました。
その後、2010年代にはスマートフォンが急速に普及し、従来型のコンテンツやサービスがPCやフィーチャーフォンからスマートフォンへと転換し始めた時期でもありました。
分かりやすい例として、通勤や通学電車の中の風景は大きく変わりました。
従来の車内では新聞や紙の雑誌、携帯ゲーム機を使用している人が多く見られましたが、次第にスマートフォンでニュースを読んだりゲームをするような習慣に置き換わっていました。
一方でマンガに関しては、当時はまだ紙媒体が主流で、スマートフォンに最適化された形式のマンガは殆ど存在していませんでした。ここに大きな事業機会があると考えました。
また、韓国ではちょうどその頃スマートフォン向けの縦読み型マンガ、ウェブトゥーンの利用者が広がっており、この形式での参入プレーヤーが日本でも増えてくるタイミングと予測しました。
このような環境変化を踏まえ、市場参入のタイミングを見定める中で、スマホネイティブなマンガサービスを始めるのに最適なタイミングだと判断し、2013年にコミックスマート(現・コミスマ)を創業しました。
自分たちだけで新たな市場の開拓を行うのではなく、競合の参入時期と足並みを揃えることで、初期の市場開発コストを抑えつつ、事業を成長軌道に乗せることができました。
ヒット作を生む鍵は「新人育成 / オールジャンルアプローチ / 10代へのフォーカス」
ーー御社は、注目を集める作品を多く生み出されています。特に『山田くんとLv999の恋をする』は、言語や文化の壁を越えて人気を博しています。マス市場に受け入れられるIPの共通する特徴や、ヒット作を生み出すのに必要な要素について、お考えをお聞かせいただけますでしょうか。
ヒットIPを継続的に生み出すことの再現性や蓋然性については、特に投資家の方々からは最も関心をもたれている部分でもありますし、ある意味一番難しい課題だと考えています。
我々の取り組みには、定量的に説明できる部分と、言語化が困難な「魂」のような部分があります。このうち定量化、仕組み化の部分については、事業の初期段階から現在に至るまで変わらないアプローチを採用しています。
第一が、新人作家の育成に注力することです。これは最も困難ではありますが、同時に最も価値のある取り組みだと考えています。
当時は異業種からの参入となりましたが、我々が強固なブランドを構築するためにはこの難しいテーマに挑戦する必要があると考えました。
商業作品の経験がない新人の潜在能力を見抜いて育成する「才能発掘力」を磨き込み、コミスマならではの新人育成を行う上で、作家の成長を支援するプログラム「RouteM」を開発しました。これはシリコンバレーでのシードアクセラレーターによる起業家支援プログラムから着想を得ています。
第二は、オールジャンル展開です。従来の出版業界では、特定のジャンルに特化した雑誌を制作することが一般的だったように思います。
それに対し、我々は創業当初からオールジャンルでマンガ作品を制作する方針を掲げています。これにより、多様なユーザー層にアプローチすることができ、ユーザーの男女比も均等になっています。
さらに、デジタルプラットフォームの利点を活かし、ユーザーごとにパーソナライズされた体験を提供することができます。
趣味嗜好は個人によって多様であり、従来の雑誌のようなジャンル分けでは捉えきれない複雑さがあります。我々のアプローチは、この多様性に対応し、各ユーザーが自分に合った作品を見つけられるようにすることを意図しています。
第三は、10代へのフォーカス、ティーンエイジャーを読者層の中心にすることです。
10代の読者層は、メガヒットIPとの初期接点を持つ重要な世代です。現在も巨大な成功を収めているIPには、数十年前に生み出されたマンガ作品を原作とするものが数多くあります。これらの人気コンテンツは作品の立ち上げから数十年を経て、今もなお成長を続けています。
これらのIPは、時間をかけて熟成し、高い資産価値を持つヴィンテージ作品となっていますが、この成功の裏には、現在のファンが10代の頃に熱中したコンテンツへの愛着、深いエンゲージメントが関係しているように思います。
若い頃は可処分時間が多くあるものの、まだ所得が少ない状況です。年齢を重ねるにつれ所得は増加するものの、一方で忙しくなり可処分時間は減少していきます。
この変化に伴い、かつての熱狂的ファンは「時間をお金で買う」ようになります。
一方、現代の10代を取り巻く環境はかつての時代とは大きく異なります。
様々なストリーミングサービスやモバイルゲームなどの娯楽オプションが存在する今、これまで安価な娯楽だったマンガが、相対的に高価なものになっています。
このような状況下で、我々はティーンエイジャーがエントリーしやすい価格設定、コミュニケーション体験を施したマンガプラットフォームを開始し、ユーザーの熱狂を生み出すことで市場におけるユニークなポジションを築くことができました。
我々は、スマートフォンやインターネットデバイスを通じて次世代のメガヒットIPを生み出すことを目指しています。「10代の読者層」がいかに熱狂できるサービス・コンテンツを提供できるかが、今後数十年のIP事業を支える鍵となると考えています。
これらの3つの方針「新人育成、オールジャンルアプローチ、10代へのフォーカス」は、とても難易度の高いチャレンジだと捉えています。
しかし、我々はこの独自のアプローチにこそ、成功の機会があると強く確信しています。
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巻口 賢司
早稲田大学政治経済学部卒業後、日本マイクロソフトに法人営業として入社。国内の大手企業におけるデジタル化の促進に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・カンパニーにて、スタジオ部門での映画の配給・マーケティングからコーポレート戦略部での新規事業開発など、幅広い業務に従事。2023年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。日台ハーフ・日英バイリンガルというバックグラウンドを活かし、グローバルな目線でのスタートアップ支援を志す。
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