#経営戦略
「マンガ家の職業価値を向上させ、子供たちの憧れの職業にする。」というミッションを掲げ、オリジナル作品を中心としたマンガアプリ『GANMA!』を運営するコミスマ株式会社。同社代表取締役社長CEO 佐藤 光紀氏に起業家の素養、ヒット作を生み出すポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの巻口 賢司が聞いた。(全4話) ※コミスマ株式会社は、2025年1月6日にコミックスマート株式会社より社名変更
創業者や経営陣個人に依存せず、共通の理念に基づく組織づくりを。
ーー佐藤社長はこれまで数多くの「組織づくり」をご経験をされてきたかと思います。初期の組織づくりにおいて、どのような方針で優秀な人材を集め、組織を強化されてきたのか、具体的なエピソードを交えてお聞かせいただけますでしょうか。
前職のセプテーニグループに在職中の2000年頃はインターネット産業の黎明期で、デジタルマーケティングのような新たな事業領域は、そもそも経験者が少ない状況でした。
また、この事業は労働集約的なサービス業で、人材の質と規模が顧客評価に直結していました。
この時持っていた事業仮説は「成長市場で、優秀な人材を集め、オペレーショナルエクセレンスを構築すれば、構造的に優位になるだろう」というものです。
労働集約型のサービス業では、一部のスター社員だけに頼るのではなく、組織全体の強さが重要です。そのため、個人の能力に加え、チーム全体の力を最大化する仕組みづくりに注力しました。
具体的な取り組みとして、明確なビジョンの共有、継続的な学習環境の整備、そして社員一人一人が成長できる機会の提供を心がけました。
採用においては、「何をするか」よりも「誰とするか」を重視していることを繰り返し伝え、「偉大な企業を共につくる」というビジョンを共有できる人材を求めました。日々激変する成長市場で「何をするか」は常に変化していくからです。
現在でいうMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の概念を早期から採り入れ、柱となる企業理念を言語化しました。創業者や経営陣個人に従うのではなく、共通の理念に従う組織文化を構築しようとしたのです。
ただ、この組織作りの考え方に至るまでの道のりは簡単ではありませんでした。
インターネット広告事業を立ち上げて5年間程は、私の完全なトップダウン型の経営で、インターネット市場の成長にがむしゃらに向き合うことで急成長を遂げました。
しかしながら売上規模が100億円ほどになったところで壁に直面しました。人の成長が会社の成長についていけず、よくあるベンチャー企業の組織崩壊を一通り経験し、私自身の気力・体力も限界に近づくことが多々ありました。
この経験を経て、自分自身のマネジメント姿勢の根本的な見直しが必要だと痛感しました。「ビジョナリーカンパニー」などの書籍をむさぼるように読み、自分の経営手法と違う部分をひたすら洗い出す日々でした。
そして、「時を告げるのではなく、時計をつくる」仕事に集中しようと決意し、それまでは製品やサービスの拡大に注力していたリソースを大きく権限移譲し、組織としての理念の実現を目指す組織づくりへと転換しました。これは言わば、組織全体のOSを入れ替えるような大きな変革を、自分自身と組織に課すことになったのです。
結果的に先ほどお話しした理念経営を実現し、生え抜き人材からマネジメントチームが育ち、企業成長の牽引役となるような組織となりました。
コミスマにおいては、これらの経験を活かし、創業当初からミッションドリブンな経営手法を実装しました。
現在、社員数100数十人に対し、所属クリエイターは約400人となっており、クリエイター主体の組織として発展しています。「クリエイターを尊重し、クリエイターが活躍する社会の実現を目指す」という理念に基づき、心からクリエイターを尊敬しているメンバーたちと一緒に、理念に真摯に向き合う組織運営の実践を心がけています。
人々が集まりたくなるような魅力的な事業を創出せよ
ーー魅力的な事業の創出と優秀な人材の獲得について、具体的な戦略やアプローチをご教示いただけますでしょうか。
人材採用では、大前提として人々が集まりたくなるような魅力的な事業をつくることが重要です。
例えば、2000年代初頭のインターネット広告事業は、若者にとても人気がありました。人気の広告代理業界の中でも、若い世代が中心となって産業を変えていける新興領域で、未経験であることが不利にならず、むしろ新しい常識を生み出していけることが魅力でした。結果的に、自然と意欲的な若者が採用しやすい環境になりました。
現在のマンガ/IP事業でも同様の考え方のもと、仲間集めに取り組んでいます。
実際、実績の無い新規事業の段階でも非常に多くの人材が応募してくれ、有望なチームを作ることができています。これは魅力的な市場、事業に軸足を置いているからこそ成し得たことだと考えています。
一方で、経営幹部の採用については、私なりの結論は「コミュニティや仕事を通じての長期的な信頼関係」が重要だと考えています。
弊社のコアメンバーには、10年以上共に働いてきた仲間が多くいます。仮に今まで直接仕事を共にしたことがなくとも、何らかのコミュニティでの繋がりを通じて、長期的な信頼関係を築けるパートナーと時間を共にすることが大切だと思います。
模倣困難な組織マネジメントが本質的な競争優位性になる
ーー事業の成長段階に応じて求められるリーダーシップスキルや経営手法は大きく変化します。先ほど、組織の拡大に伴い、経営スタイルも変化したと伺いました。そうした中で、これまでどのような独自の仕組みや工夫を取り入れてこられたのでしょうか。
事業を拡大する段階で、経営者としての自身の役割も大きく変化し、外部とのコミュニケーションから、社内の仕組み作りへ注力するようになりました。
具体的には、社員との面談、メンタリングなど、組織のエンジニアリングに多くの時間を費やすようになりました。
製品やサービスは真似されやすいですが、内部の組織マネジメントの仕組みは外部からは見えにくく、模倣が困難です。人が主な資産となる新興企業においては、優秀な人材とチームを生み出す仕組みが重要な差別化要因となり、本質的な競争優位性になると考えています。
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巻口 賢司
早稲田大学政治経済学部卒業後、日本マイクロソフトに法人営業として入社。国内の大手企業におけるデジタル化の促進に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・カンパニーにて、スタジオ部門での映画の配給・マーケティングからコーポレート戦略部での新規事業開発など、幅広い業務に従事。2023年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。日台ハーフ・日英バイリンガルというバックグラウンドを活かし、グローバルな目線でのスタートアップ支援を志す。
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