#インタビュー
    「誰でも宇宙で活躍できる社会」の実現を目指して、小型衛星用ロケットの開発に挑むJAXA発のスタートアップ、株式会社ロケットリンクテクノロジー。キーテクノロジーとしてLTP(低融点熱可塑性推進薬)の研究開発に取り組むと共に、ロケットの新しい打ち上げ/回収方式の研究や、技術教育・人材育成などを展開する。代表取締役社長 森田 泰弘氏に、これまでのロケット開発の取り組みやチームづくりのポイント、LTPが切り開く小型衛星時代の展望について聞いた。(全4話)
ーー世界初・世界最高を狙う開発は、常に大きなプレッシャーが伴うと感じます。リーダーとしてチームを鼓舞し、意識を揃えて成果を出すためのポイントを教えてください。
様々なことがありますが、ひとつ挙げるとすれば、困難の中に「希望を見出す力」が重要だと思います。
『M-Vロケット』でも『イプシロンロケット』でも、諦めようと思えば諦められる瞬間はいくらでもありました。それでも、危機の中には必ず希望がある。必死に探せば必ず見つかるーーそう信じて、私たちは常に探し続けました。
リーダーは最初にその小さな光を見つけて掲げ、皆の視線を同じ方向へ向ける役割を担うべきだと考えています。
ーー希望を見つけて伝えていくことが大切なのですね。
M-Vロケットの運用停止が決まったとき、固体燃料ロケットと共に歩んできた仲間は皆、不安な顔をしていました。
私自身も先行きが心配でしたが、そこで沈んだ表情を見せるわけにはいかない。たとえ“から元気”でも構わないと思い、「これは終わりではない。未来への入り口だ。」と伝え続けました。
声に出すうちに、「から元気」がだんだんと「本当の元気」に変わっていく。当時の経験が、私のリーダーとしての心構えの芯になっています。
実際に現場では言葉だけではなく、姿勢でも示し続けました。
イプシロンロケットの1号機では、発射19秒前に自律点検装置が異常を検知して緊急停止しました。飛ばして失敗しないための異常検知であって、当然、発射停止の判断が正しい。むしろ「異常検知の成功」とも言えるものでしたが、当時は今ほど世間が優しくなく、新聞には「打ち上げ失敗」と大々的に掲載されました。
世の中から厳しい声が寄せられる日々。現場の士気に与える影響は小さくありませんでした。それでも、私が徹底したのは顔つきを崩さないことです。
仲間の前では「大丈夫だ。どうってことはない」と言い切る。内心は穏やかではなくても、リーダーの表情が曇れば判断も仕事も鈍ります。
当時はただひたすら仲間を元気づけることに徹していました。あのときは気付いていませんでしたが、今思えばその行為が自分自身すらも励ましていたのではないか、とも思っています。
ーー反対に、上手くいっている時はどのようにチームをリードしていらっしゃったのでしょうか。
普段の私は、正直、目立つような存在ではありません(笑)。
私は危機の局面で皆を鼓舞して引っ張るタイプで、日常の運営や細部の積み上げは、緻密に進めることが出来る相棒に頼ることが多いです。
幸い、M-Vロケットの時にもイプシロンロケットの時にも、必ずそういった人が隣にいてくれました。
リーダーが万能である必要はないのです。自分の強みと弱みを自覚し、補完してくれる仲間にきちんと頼ることが大切です。
創業間もない今のロケットリンクテクノロジーも、まだまだ拙い部分があると思います。
私たちの熱意に共鳴して、弱みを支え合い、強みを高め合えるような方々が加わってくれることを期待しています。

ーー今後の宇宙業界の展望についてお伺いしたいです。海外を中心に新しいサービスがどんどん生まれていますが、今後はどのような領域に注目すべきでしょうか。
宇宙利用は、これから本格的に私たちの“生活”に入ってきます。
インターネットが劇的に発展してスマホが当たり前になったように、小型衛星が次々と打ち上げられれば、宇宙の利用は一気にパーソナル化していくはずです。だからこそ、どのような利用が伸びるかは誰にも予測できないほど多様化していく、私はそう見ています。
これから宇宙に参入する人たちの多くは、「衛星やロケットそのものを作る」のではなく、衛星データをどう活用するか、使い手側の目線で参入してくるはずです。
宇宙を特別視せず、当たり前に宇宙を使う時代になる。つまり、地上と宇宙の境目が消えていくのです。
この境目が消える未来を本当に実現するうえで、何が一番重要か。答えは明確で、宇宙輸送技術、つまりロケットです。
ロケットが無ければ、誰も宇宙へ行けないし、物も宇宙へ運べない。どれほど画期的なアプリケーションやサービスを構想しようとも、打ち上げができなければ、実現には辿りつけません。
ですから私は「どの領域が儲かるか」という観点よりも先に、「ロケットは宇宙産業全体の生命線=輸送の役割そのものである」との理解が必要だと繰り返し伝えてきました。それを体現するためにも、自らロケット会社を立ち上げているのです。
私は元々、学会長として「輸送系に力を入れなければならない」と訴え続けてきましたが、言葉だけでは現実は動きません。
ロケット開発は時間も人手も資金もかかり、誰もが手を出せる領域ではない。それでも、誰かがやらなければ地上と宇宙の境目は消えない。ならば、自分たちがやるしかない。
宇宙輸送という基幹インフラを、自前で前進させる。その覚悟が、私が起業に踏み切った根本にある想いです。

ーー「打ち上げたいものがあるけれど、日本のロケットだけでは足りないからアメリカに行く。」今はそういった状況ですよね。
『スペースXが打ち上げてくれるから十分だろう』と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、衛星の打ち上げ需要が伸びていくことを考えると、毎回アメリカまで行かないと打ち上げられない、という状況のままでは困ります。国内で頻繁に打ち上げられる体制が必要です。
そのために、インターステラテクノロジズさん、スペースワンさん、そして弊社も頑張っています。
SynspectiveさんやQPS研究所さんなど、宇宙業界の仲の良い方々ともよく情報交換をするのですが、最後は必ず、「早くロケットをお願いしますね」と激励の言葉を頂いています(笑)。
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            DIMENSION NOTE編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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