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シリコンバレーで創業&資金調達、成功の舞台裏 トレジャーデータ創業者 芳川裕誠(第3話)

日本で起業するという選択肢はなかった

ーー日本人3人で起業したにも関わらず、なぜシリコンバレーで起業することを選ばれたのでしょうか?

私は元々、米レッドハット社でオープンソースのOSを販売していました。共同創業者でCTOの太田もHPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)のエンジニア、同じく共同創業者の古橋もデータテクノロジーのエンジニアです。

3人に共通しているのはエンタープライズ向けサービス、しかもOSなどの非常に低層ソフトウェアの専門家だということ。

これらのソフトウェアマーケットにおいて「世界標準」が日本から生まれたことは過去にありません。例えばOSひとつとってもWindowsやMac、Linuxなど、ほとんどが欧米発です。同様にCPUやデータベースも欧米が主導権を握っています。

我々が専門とするエンタープライズ向けソフトウェアで起業する上では、アメリカのマーケットシェアを取らないと、世界マーケットは取れない。日本で起業するという選択肢は最初から私たちにありませんでしたね。

 

ーー創業と同時に北米の投資家から資金調達に成功されています。

最初から「50万ドル資金調達できたら創業しよう」という条件を決めていました。

三井物産のベンチャーファンド時代に知り合った方々にピッチして回る中で、黒崎守峰さん(IT-Farm代表取締役)に紹介いただいたのが、様々な勃興期のテクノロジーに精通し、のちに弊社のボードメンバーにもなっていただいたBill Taiでした。彼は20社近い企業をIPOに導くなど、シリコンバレーでも著名なベテランベンチャー投資家です。

紹介してもらったその日のうちに会いに行き、ファンドレイズ用のピッチをしましたが、その場ではすぐに投資を決めてもらうことはできませんでした。技術やビジネスプランは認めてもらえたものの「Go To Market(GTM – 営業・マーケティング・ディストリビューション)はどうするのか」とかなり突っ込んで問われたことを覚えています。

その後、プランを練り直してピッチをしに行ったところ、その場でタームシートを書いてくださいました。結果的にBillと黒崎さんが共同出資という形で50万ドルの出資を決めてくれたのです。

シードラウンドの投資家界隈では、シリコンバレーにもやはりクラブディール的なところがあって、Billからの出資が決まってからはほとんど断られることがなくなり、合計で100万ドルを調達することができました。

 

シリコンバレー流・投資家の見極め方

ーー初期の投資家選びで気をつけていたことをお聞かせください。

投資家選び、と言うよりも、アメリカではそれぞれのラウンドのリードインベスターにはボードメンバー(取締役)に入ってもらうのが通常です。つまり各種類株のオーナーシップを代表するメンバーを選ぶということなのです。

ボードメンバーは社員と同じくらい時間を共に過ごしますし、何か困ったことがあったらすぐに相談する相手です。当然ながら、特に初期のメンバー選びは慎重になった方がいいでしょう。

よくある失敗として、ファンドのブランドに浮ついてしまうケース、あるいはバリエーションの評価額だけで決めてしまうケースがあります。

しかし、創業初期の時点でそういった話は重要な論点ではありません。それよりも、その投資家と上場するまでの何年もの間、答えのない困難にぶち当たった時も信頼して共に歩めるかどうかを見極めることが重要です。いわば長年付き合う「かかりつけのお医者さん」を決めるようなものなのです。

さらにアメリカ独特の特徴を言うと、オーナーシップの関係から通常ボードメンバーはいつでもCEOをクビにすることができます。でも逆に社長がボードメンバーをクビにすることはできません。ですから、お互いのケミストリーが合うか、経営状況が厳しいときにこそ頼りとなる、互いの信頼関係が醸成できるかどうかの判断はより一層重要となります。

 

ーー限られた時間内で見極めるのは非常に難しそうです。

ピッチをしてから投資実行まで一般的に2-3ヶ月くらいのプロセスですが、その間に見極めるのは簡単ではありません。それでも、長年寄り添ってくれる仲間になってくれるか、投資家自身の性格や経験などを掘り下げて見極めていくことが大切です。

幸い、私は本当に創業メンバー、そしてボードメンバーに恵まれました。辛い時は真っ先にボードメンバーに電話して相談していましたし、Billや黒崎さんをはじめとしたメンバーはいつも親身に相談にのってくれました。

 

 

先日、M&Aのお祝いディナーをボードメンバーが開いてくれました。創業から7年間、辛い時も全面的にサポートし続けてくれたメンバーと集まれて、本当に楽しい瞬間でしたね。

やはり投資家を社外パートナーや単なる資金提供者と見るのではなく、本当に仲間として信頼して戦えるかどうかで見極めること。それが重要だと思います。

 ※本記事は配信日現在の内容です

 

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著者 山崎満久

著者 山崎満久

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社じげんに入社。じげんでは、事業責任者として、インターネットセクターのプラットフォーム型ビジネス創出、推進に従事。その後、経営統合の責任者としてM&A先の経営や、株式会社NTTドコモとの共同事業創出等を経験し、DI参画。DIでは日本・米国のベンチャー投資や投資先への経営支援に加え、大手メーカーにおける事業戦略策定等の戦略コンサルティングに携わる。

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