#経営戦略
新たなスタイルのチョコレート「Bean to Bar」専門ブランドの先駆けとして脚光を浴びている「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」。全くの門外漢だった株式会社βace 代表取締役・山下貴嗣氏が2014年に立ち上げたブランドながら、世界的なチョコレート品評会で日本初の金賞を受賞している。短期間で商品のクオリティだけでなく、一流ブランドを作り上げた山下氏にブランド作りの秘訣や組織づくりについて伺った。(全6話)
カニミソ味のチョコレート?
──ブランド運営をする際に、組織づくりで工夫されている点をお聞かせください。
スタッフ教育は力を入れてきちんとやっています。
毎月第一日曜の夜には、アルバイトを含めてスタッフ全員で集合し、2~3時間のミーティングを行うんです。
そこではルーティーンの業務についてインプットするのはもちろん、私が出張から帰って来たらその報告をしたり、新しいチョコレートを食べて「こういうことをやろう」と発信するなど、多岐に渡る内容を全員で共有しています。
また、強いと感じるのは、弊社のスタッフはちゃんと自分でチョコレートを買って食べていることです。
お客様に商品をすすめる際の型のトークもありますが、それよりも、スタッフ自身が実感としておすすめでき、自分の心からの言葉で語れるというのが大事です。
これに関しては、過去に強烈な体験をしたことがあります。
一時期、甘くて焼き芋っぽいチョコレートを出していたんです。これが結構売れたんですが、お客様から「美味しいね!」と言われた時に「焼き芋みたいで美味しいですよね」と答えようとしたら、その前に「カニミソみたいな味がするよね!」と言われて。(笑)
「え、カ、カニミソ?」って感じだったんですけど、要は食の表現やそのもとになる記憶って人によって違うんですよね。あくまでも「焼き芋」というのは我々の表現でしかなくて、捉え方は人それぞれある訳です。
この体験を俯瞰して考えると、共感できるコンテンツというのは、その人自身の解釈が入っていくということなんだなと感じたんです。だからこそ、少なくともスタッフには「山下さんがこう言えって言ったから」じゃなくて、自分の実体験や解釈を語って欲しいんです。
なので経営者・ブランド運営者がやるべきことは、スタッフ全員が熱を持ってブランドについて語れる状態を愚直に作り続けるということだと思います。
──人の育成や組織作りにも力を入れておられるということですね。一番重要と考えていることはなんですか?
まずは採用ですね。
ジム・コリンズ著『ビジョナリーカンパニー』にも書いてある「誰をバスに乗せるか」といったことを非常に意識しています。
とはいえ、今まで前職を含めて数百人規模で面接や面談をしてきましたが、その人の能力を1時間で見極めることなんて、いまだに全くできません。(笑)
では何を見ているかというと、「この事業に共感しているか」「応募者のやりたいことがMinimalのビジョンとどうマッチしているのか」というのを必ずチェックするようにしています。
MinimalのHPをご覧いただくとわかるんですが、他のブランドのHPに比べて、長い文章のブランドストーリーが掲載されています。
最初他のメンバーから「長すぎる! こんなの誰が読むんだ!」と反対されたんですけれど、「それでいい」と私が押し切ったんですよ。
世の中のブランドストーリーやビジョンは、10人いて9人が軽い気持ちで「いいね」と思うものが実はけっこう多いと考えています。しかし、私は10人いて9人に見向きもされなくても、1人が熱狂的に共感するものを作りたいと考えていて、極端に言うとそんな世界観を作ろうとしている。
なので、その熱に共感してくれる人を採らないと意味がないんです。面接の際にブランドストーリーを読んでいるか、それに対してどう思ったのかを聞くだけでかなり精度の高いスクリーニングになります。
あらゆるところで、私たちの想いをありのままに語り続けているので、そのビジョンに共感してくれているという応募者の方の割合が多いですし、そういう方を採用できれば、ずれるということがないです。逆に、表面的なスキルだけ見て採ろうとすると失敗すると思います。
おかげさまで、弊社ではまだ創業以来、退職者がまだ1人も出ていません。
思想の「伝達率」を上げる組織の作り方
──組織作りに関してはいかがでしょう?
組織でいえば、ミドルマネジメントの育成に最も力を入れています。
現在スタッフは30人ほどですが、1人1人を私だけで見るのは限界なんですよね。でも、自分の分身が5人いれば理論的には150人面倒を見ることができる。
あと、前職のリンクアンドモチベーションで組織コンサルティングを通して強く思ったのは、トップが10伝えたことがマネージャーに5しか伝わらなければ、全体には1も伝わりません。それだと、戦略もへったくれもないですよね。
なので、いかに経営者からミドルマネジメント、ミドルマネジメントから現場へのメッセージの伝達率を向上をさせるかが重要で、コミュニケーションや仕組みで担保するよう注力しています。
──具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?
マネージャーや幹部候補に対しては、週1回必ずミーティングを持っています。
そこでは、ルーティーンのチェックに加え、そのマネージャーがどういう風にメンバーを見ているか、この事業をどういう順位で進めたいのかを把握するようにしています。
必ずメモをこまめに取るようにしていて、一人ひとりの思考の癖を踏まえた上で、こういうところが弱点の可能性があるといったデータを常に更新しています。
そのうえで、先々の組織の成長を考えた時に、その人のいるべきポジションを想像して、一緒に3か月後の目標設定の修正や、意図的に他のマネジメントを経験させたり、参考になりそうな図書を推薦したり、といったことを適宜やるようにしています。
私がスタッフに常日頃言っているのは、「事業のスピードより組織の育つスピードが10分の1、さらに組織のスピードより人の育つスピードは10分の1、事業が一気に育った時に100倍くらい自分の成長の先を行く」ということ。だからこそ、なんとしても自分の成長速度を早めようと。
それは私自身にも言えることです。
5人の社長から30人の社長になりましたが、今のままでは100人規模のスタッフを抱える社長にはなれないと思うんです。だから誰よりも真っ先に成長しないといけないと感じています。
──それはやはり、前職での組織コンサルティング経験がものを言っているということでしょうか?
おっしゃる通りです。
唯一、私が他の起業家にアドバンテージがあるとすれば、前職で組織作りを学ばせていただいたということです。起業家は、0から1を作るのは上手くても、やっぱり組織作りで経験が少なく苦労される方が多いですから。
とはいえ、わかることと、出来る事はまったく違います。まだまだ出来ていないことばかりですね。
>>第6話「考えながら走り、走りながら考える」に続く
>第4話「Bean to Barの先駆者が語る、愛されるブランドつくりの要諦」に戻る
>Minimal公式HPはこちら
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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