#ビジョン
新たなスタイルのチョコレート「Bean to Bar」専門ブランドの先駆けとして脚光を浴びている「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」。全くの門外漢だった株式会社βace 代表取締役・山下貴嗣氏が2014年に立ち上げたブランドながら、世界的なチョコレート品評会で日本初の金賞を受賞している。短期間で商品のクオリティだけでなく、一流ブランドを作り上げた山下氏にブランド作りの秘訣や組織づくりについて伺った。(全6話)
一つひとつの小さな失敗で足を止めず、前を向く
──起業家にとって大切な素養を3つ挙げるとしたら、なんだとお考えですか?
「スピード」「決断」「自己認知」だと思います。
一つ目の「スピード」とは、ビジョンと戦略と実行の間を行き来する速度のことです。これは言い換えると「短期と長期の行き来」「抽象と具体の行き来」とも言えます。
PDCAにも近いと思うのですが、ビジョンと戦略を描き、実行の結果をフィードバックして戦略を修正する、といったサイクルを猛スピードで回せるのが起業家にとって大事なことじゃないかと思います。
山下貴嗣。株式会社βace 代表取締役CEO、Minimal -Bean to Bar Chocolate- 代表
大学卒業後(株)リンクアンドモチベーションに新卒入社。在職中に東証一部上場を経験。また新規事業立ち上げにも参画し、売上無しの状態から3年間で売上15億円程のビジネス立ち上げも経験。チョコレートを豆から製造するBean to Barという文化に出会ったことを機に、世の中に新しい価値を提供するチョコレートの製造販売ビジネスで起業。
──IT系企業だとPDCAが速いのは納得なのですが、チョコレートの製造・販売を行っている御社の場合、スピードを上げる苦労も人一倍なのではないでしょうか?
事業の部分によってスピード感は違いますが、例えば店舗のVMD(Visual Marchandising:売場演出の最適化)はスピードが重要なわかりやすい例です。
東武百貨店池袋店内に4店舗目を出店して約1ヶ月なのですが、毎朝7時半くらいに私、店長、リーダー、現場担当者が集まってミーティングを行い、毎日VMDを変えています。
具体的には、前日どういうお客様がいらっしゃったかを分類して、昼と夜に分けて大枠ペルソナを決めます。そして、そういう方々にどんな価値を提供すれば最大公約数をとれるか検討するんです。
なぜこういうことをやるのかというと、店舗ごとに客層も、求められているものも違うからなんです。
これまでは渋谷の中でも富ヶ谷のような、我々が「一等地の三等地」と呼んでいるような場所に店舗を展開していました。
一等地の中でも奥まったエリアであれば、商品やコンセプト力に惹かれたお客様が時間をかけてわざわざやってきてくださいます。その分、店での滞留時間が長くなるため、しっかりMinimalの持つ価値を説明をできる。
これがお客様にとって「丁寧で深い体験になった」という価値になり、我々の成功体験でもあったんですが、池袋駅徒歩1分以内の東武百貨店のような「一等地の一等地」に出店すると、お客様の動きが全く変わってくる訳です。
お客様は多いものの、「Minimal目当て」とは限らないので、人は滞留せずに、どんどん流れて行ってしまいます。
でも、現場のスタッフは意外と今までの成功体験に引きずられがちになってしまうので、店舗が変わっても今まで通りの行動を続けてしまうケースが多々あります。
そういった状況を防ぐために、どんどん仮説検証を繰り返し、データを集めて1週間から2週間のスパンでアクションの効果検証を繰り返すことを癖づけています。
ただ、立ち上げ時からいきなり現場だけで自走させるのは難しいので、経営者である私自身が自ら介入して細かくやっています。そういった際に、経営者がスピードを示す模範にならなければなりませんよね。そのプロセスを通して現場のマネジャーやリーダーにそのスピード感を経験してもらい、育てていきます。
あと組織のスピードを高めるために大事なのは「褒めること」です。
失敗にめげていると、足が止まるじゃないですか。それがスピードを遅くしてしまうので、メンバーには「失敗はウェルカム」だと話しています。「失敗は成功への前向きな一歩だから、失敗を褒めなさい」と。
誰でも失敗すると負の感情に囚われる。大事なことは負の感情に引きずられ過ぎず、前向きな思考にいかに早く切り替えるかということです。だからこそ、普段から組織の風土として、極端に言うと、失敗は良い事であるという文化を創っています。
これは自分自身にも当てはまるのですが、人ひとりが考案したことなんて失敗する可能性が高い、と考えています。だからこそ、一つひとつの失敗にくよくよするのではなく、早く方針を修正することに意識を注ぐ。
そういった「スピード」を高めるマインドセットを持つように常に心がけています。
51%のメリットと49%のデメリットを見極める
──2つ目の素養である「決断」についてはいかがでしょうか?
「決断」と言うと、よく「やることを決めること」と捉えられがちですよね。
でも、私は「何をやめるかを決めること」だと捉えています。
意味合いとしては「選択と集中」に似ているかもしれないんですが、私は「やらないことを決める」というのを決断において重視しているんです。
世の中にはメリットとデメリットがトレードオフのことって、結構たくさんありますよね。
決断をするために、「51%のメリットと49%のデメリット」をちゃんと見極めるようにしています。
物事には必ず裏表があるので、何かをやろうとしたら必ずデメリットが生じます。その中で、メリットを1%でもデメリットが上回ると思ったらやめますし、デメリットが49%あったとしても、メリットの方が上回るようならデメリットを捨てます。
この「捨てることができる」というのが、0から1を作っていく起業家にとっては特に大事だと思います。あれもこれもやろうと欲張った瞬間、全部に手が回らなくなってしまいますから。
>第2話「『チョコレートで世界を新しくする』なんて、3年前の自分は夢にも思っていなかった」に続く
>Minimal公式HPはこちら
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
Others 関連記事
Ranking よく読まれている記事
#インタビュー
株式会社GENDA 申 真衣社長「“緩く”働くのではなく頑張ることを楽しめる会社へ」(第3話)
#インタビュー
女性向けSNSメディア『Sucle』運営の株式会社FinT。大槻 祐依社長が語る「起業家に必要な3素養」とは(第1話)
#志
M&A業界の変革児「M&A総合研究所」佐上峻作CEOが語る起業家にとって重要な素養とは?(第1話)
#インタビュー
「経営者の仕事は総合格闘技のようなもの」株式会社GENDA 申 真衣社長が起業への想いを語る(第1話)
#インタビュー
「日本企業をASEANで勝たせ、日本を前向きにするグローバル企業を目指す」株式会社FinT 大槻 祐依社長が語る今後の展望(第4話)
#インタビュー
「史上最年少で東証一部直接上場」株式会社ダイレクトマーケティングミックス 小林祐樹 社長が語る「起業家の素養」(第1話)
Sns DIMENSIONのSNS
E-MAIL MAGAZINE 起業家の皆様のお役に立つ情報を定期配信中、ぜひご登録ください!*は必須項目です。
This site is protected by reCAPTCHA
and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.