数多の名経営者に共通する「起業家の素養」とは ロッテベンチャーズ・ジャパン 澤田貴司代表(第1話)

2022年4月から新たにWell-being 分野などを対象に国内外のシードからミドルステージのベンチャー企業へ投資活動・事業支援を行うロッテベンチャーズ・ジャパン(株式会社ロッテホールディングスの100%出資CVC)が業務開始。ファーストリテイリング副社長、リヴァンプ創業、ファミリーマート社長など華々しい起業・事業経営実績を持つ澤田貴司氏が同社代表に就任し、話題を集めている。今回は澤田氏が考える起業家の素養、事業経営のポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全3話)

机上の空論ではなく「現実・現場」を直視せよ

ーーこれまで様々な会社を起業、経営されてこられた澤田さんが考える、起業家にとって重要な素養を挙げるとするとなんでしょうか?

1つめは「強烈な情熱」。その事業を始めたい・やりたいという想いです。

2つめは「顧客視点」。様々なステークホルダーの中でも最も重要なのは、対価の支払い元である顧客です。この顧客の立場に立って商品・事業を捉えることが大切です。

3つめ、4つめは「仲間の共感」「取引先からの共感」。1人、1社単体では、大きなことは決してなし得ません。情熱を持っていることに対して、ステークホルダーの共感を得ていくことが不可欠です。

最後、5つめとして挙げるなら「費用対効果」。投資に対してリターンが合っているのかという厳しい視点。時には冷徹な判断も求められます。

私はこれまでに、とにかくたくさんの失敗をしてきました。そして失敗したときに都度反省するわけですが、その過程で出てきたものをまとめるとこの5つに集約されるのかなと思います。

 

澤田貴司/1957年生まれ
上智大学卒業後、伊藤忠商事入社。同社にて米国セブン-イレブンの買収等を手がけた後、株式会社ファーストリテイリング入社。同社副社長も務める。株式会社リヴァンプ創業者、株式会社ファミリーマート社長(現顧問)などを経て、2022年4月より業務開始した株式会社ロッテホールディングス100%出資子会社であるロッテベンチャーズ・ジャパンの代表に就任。

 

 

ーー澤田さんはこれまでいわゆる「レジェンド経営者・起業家」と呼ばれる方とたくさんお会いされ、仕事をしてこられたと思います。

伊藤忠商事在籍時にセブン-イレブンの買収案件で初めてお目にかかったのがイトーヨーカ堂の創業者、伊藤雅俊さん。

日米の様々な店舗回りをご一緒する機会があったのですが、伊藤さんはどんな売り場でも常に細部までメモをとられていました。現場のリアルからファクトを掴んで改善しようとする情熱はすさまじいものでしたね。

商社マン時代、トレーダーとして電話1本だけで何億もの案件を売り買いしていた「現場が見えていない」私にとってはトップである伊藤さんのその姿勢を見たことが衝撃で、経営者として本当にかっこいいなと思いました。私もそんな人間、経営者になりたいと強く思った経営者の1人が伊藤さんです。

 

次にみなさんご存知の柳井正さん。

いまでこそ名経営者として誰もが知る存在ですが、私が柳井さんと初めてお会いした1997年頃は経営者としてはほぼ無名の方でした。

柳井さんはあまり多くの方に知られていない時代ではありましたが、仕事に取り組む姿勢はとにかく「現場第一」。

目標に向かって現場で起きている課題を整理し、潰して突き進んで行く。この愚直な繰り返し。柳井さんからはこの貪欲な姿勢を強烈にご指導いただきました。

このような偉人達からの学びの実践として、ファミリーマート社長時代には現場を知るためにお店を1,000店舗以上訪問させていただき、いろんな方たちにお会いし、現場で起こっている様々なことを教えていただきました。

同じファミリーマートのお店でも、オーナーや店長によって売上が全然異なる場合があったり、極端な話、店長の機嫌ひとつでそのお店の雰囲気はガラッと変わるし、売上、退職率なども全然変わってくることを目の当たりにしました。

そういった経験も経て、あらためて現場の加盟店の方々がいかにモチベーション高く、幸せで、元気で商売できるようサポートをすることこそがファミリーマートの社長として最も大事な仕事だと強く思うようになりました。

共通するのは机上の空論・能書きではなく「現実・現場」を直視し、進むべき未来の道筋を示しつつ、目の前で起きている課題や近未来に起こるであろう課題を整理し、解決し続けることで、関係するステークホルダーの一人でも多くの方に共感をいただき、一緒になって前進してゆくことが本当に大事だということです。

名経営者と呼ばれる人たちはこの姿勢が一貫して凄まじく、私が強く憧れる部分でもあります。

 

自分にとっての「一流」を定める

ーーそういった一流の経営者とお会いする時に意識されていたことなどがあればお聞かせください。

「一流」の定義は人によって全く違うと思います。まず何を自分が「一流」と思うのか、どういう人になりたいかを自分の中で整理し、理解することが重要ではないでしょうか。

自分がなりたい「一流」の定義が決まり、それを目指したいという情熱があれば、実際にその一流の世界を体現している人と会う機会を模索したり、実際お会いさせていただいたり、あるいは本を読んだり、手紙を書いてお会いしに行くことも出来るかも知れません。

私の場合は「小売業の業界でとにかく経営者になりたい」と伊藤忠時代に決意をしました。

なので、伊藤雅俊さん(イトーヨーカ堂)や鈴木敏文さん(セブン&アイ・ホールディングス)、藤田田さん(マクドナルド)、櫻田慧さん(モスバーガー)、荒井伸也さん(サミット)など、とにかく学びたい思った経営者にバンバン手紙を書いてお会いしたいと嘆願書を出しました。そして幸運にも当時35歳だった伊藤忠の一サラリーマンの私に全員お会いしてくださいました。

「一流」と呼ばれる人達は「一流」になることを目的にしているとは思いません。それぞれ自分が成したい、達成したいことを明確に持ち、そのゴールに向かってひたすら愚直に努力した結果、色々な事業を成功させたのだと思います。

まずは自分が成したいことを明確化し、そのために学ぶべきことを整理し、それを体現している方たちからあらゆる手段を使って色々なことを必死で吸収することが重要だと思います。

ーー柳井さんのように飽くなき探究心で上を目指し続ける方もいる一方で、小規模の成功で満足してしまう起業家も多くいます。その違いはどこから来るのでしょうか?

起業家、経営者、あるいは社員の方であっても、とにかく自分がやりたいと思っていることを、やればいいんじゃないでしょうか。一定規模で満足してもいいし、飽くなき探究心で上を目指し続けてもいい。それは個人個人の自由であり、その方たちの人生観が違うのは当たり前なので批判されるべきことではないと思います。

つまるところ、素養の1つめに挙げた「何を成したいかという強烈な情熱」。経営者、個人を突き動かすのはこれなのだと思います。

柳井さんとは今も定期的にミーティングの機会をいただいていますが、彼の貪欲さは今も昔も本当に変わらないように感じます。誰よりもユニクロにコミットし、成長させたいと心から思い続けているように思います。

繰り返しになりますが、やりたいこと、人生観、ライフスタイルは人それぞれです。自分の情熱や思いに素直に向き合い続けることこそが、結果的に将来、名経営者と呼ばれるかもしれないゴールにたどり着く唯一の道なのではないかと思います。

 

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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