#人事・組織
GA technologiesは、不動産業界をテクノロジーの力で改革する『Real Estate Tech』、通称ReTechの分野で、創業わずか4年半で売上100億円規模まで急成長中のベンチャー。中古不動産流通プラットフォーム「Renosy」などを提供している。そんなGA technologies代表取締役社長 樋口 龍氏に、起業家に必要な素養、組織作りなどについて聞いた。(全6話)
Fintechの次に来る、ReTechという大きな波
——まずReTechサービスに参入したきっかけをお聞かせください。
間違いなくトレンドが来る、と思ったからです。
インターネットが勃興した1990年頃から20年間は、基本的にネット内だけで完結するサービスが主流だったのに対して、2013年に日本にFintechブームが巻き起こってからは、「ネット×リアル」のX-Techビジネスが盛り上がり始めています。
とはいえ市場を俯瞰すると、Fintech領域では既に400~500社ぐらいの企業がしのぎを削っており、競合がすごく多い。また、一流金融会社出身のイノベイティブなマインドを持つ方々が多く起業しているということも見えてきました。またリアルな場や商品を持たなくていいのでIT系の企業も参入しやすいですよね。伸びているけどコンペティターが多いので、最初の事業では大変だなと思いましたね。
そんな市場環境を見た時に、市場が伸び、かつ勝てるのはReTechだろうと考えました。
私は、孫正義さんのおっしゃる「シェアNo.1獲得戦略」が好きなんです。勝たないといけない時は、きれいごと抜きで勝たなければいけない。
アメリカ、中国、日本のIT系企業のガリバーは、Google、アリババ、楽天ですよね。これらの企業は、1995年から2000年前後にインターネットのトレンドに乗り、急成長してきたと思います。そうした結果からも、時流を読み、No.1を獲るということはとても重要なことだと思っています。
——ReTechならNo.1になれると考えられたということでしょうか?
ReTechにおいては宅建業法という免許の問題や、超高額商品ということもあり、リアルビジネスが必要不可欠です。ゆえに、IT畑の人が参入しようとしても、専門性が異なり、リアルも持たなければならないので、かなり手間がかかってしまいます。そんな面倒なところには参入したがらないですよね。
また、不動産業界の方々の特徴として、テクノロジーを活用してイノベイティブなことをしたいと考えている人は金融業界ほどは多くないんです。多くの不動産マンは「お金を稼ぎたい」「マンションを作ってみたい」「都市開発してみたい」といった考えを持っています。だから、ReTechに関心を持ちにくいのです。
そうなると、私たちにとってはブルーオーシャンになります。さらに、マーケットも大きく、「ネット×リアル」の時流にもマッチしている。このような理由から、不動産×テクノロジーで勝負することを決意しました。実際に、現在でもReTech事業を営む会社は40〜50社ほどしかありません。
GA technologies代表取締役社長 樋口龍。1982年東京生まれ。幼い頃より世界的なサッカー選手を目指し、ジェフユナイテッド市原に育成選手として所属。23歳の時にサッカー選手としての夢を諦め、ビジネスマンへ転身し、不動産会社へ勤務。”巨大なマーケットを形成しながらも極めてアナログな不動産業界にテクノロジーで革命を起こす”と志し、2013年に株式会社GA technologiesを設立し、代表取締役に就任。
ReTech領域NO.1に向けた飽くなき野心
——中古不動産、リノベーション市場にテクノロジーを入れていくというのはかなり独自性が高いと思いますが、参入時にどのように検討がなされたのでしょうか?
我々は、ReTech、中古不動産領域でNo.1を目指していますが、その背景には、日本における不動産業界のいびつな実態があります。
日本は人口減少の局面に入っているにも関わらず、毎年新築物件が100万戸も建っています。本来、OECD加盟国のような先進国であれば人口減少に対して新築物件の抑制がかかってもおかしくない。日本も40万戸ぐらい建てれば充分なはずなのです。
加えて、アメリカやヨーロッパは、中古物件が8割で新築はたったの2割。対して日本は、中古が2割で新築が8割です。これは、市場構図として絶対におかしい。
そこで、我々は中古不動産のカテゴリーを狙っていこうと決めたんです。
——確かにいびつですね……。なぜ“新築志向”の価値観が日本人に根付いたんでしょうね。
そもそも日本人は、古いものを大切にする文化を持っているじゃないですか。でも、不動産だけは新築が好き。なぜかというと、第二次世界大戦以降、政府の方針で「新築マンションを建てましょう」という価値観が植え付けられたからです。建てることで経済が発展するというロジックですね。
例えば、3,000万円の物件を建てると、6,000万円の経済効果があるといわれています。その根拠は、1つの物件を買ったら、自動車を買おう、家電を買おう、家具を買おうと消費が促されるからです。
だから、日本人はずっと「新築がいい」という刷り込みのまま進んできた。我々としては、そこを変えていかなければいけないだろうと考えています。
——いびつな市場構造をテクノロジーで是正しようと考えていらっしゃるわけですね。
はい。日本で中古不動産が広がりにくい要因は3つあります。
1つ目が、テクノロジー化の遅れ。2つ目が、情報の非対称性。3つ目が、人材(エージェント)レベルの質。この3要素がベストプラクティスではないので、顧客が中古不動産を買いづらいイメージを抱くのです。
不動産業界のアマゾンを目指しています。アマゾンは流通を変えました。我々は不動産流通を変えようと思っています。
その為に中古不動産のプラットフォームである「Renosy(リノシー)」を立ち上げました。
不動産を購入するプロセスには、学習、検索、購入、アフターフォローという4段階があります。HOME’SさんやSUUMOさんといった大手情報サイトは、学習と検索の部分を請け負い、その後の購入とアフターフォローは不動産会社にバトンタッチする分業制のビジネスモデルが従来の形でした。
——そこから御社はどのように変えたのでしょうか?
我々は、学習、検索、購入、アフターフォローまでを、テクノロジーを軸として一気通貫で行い、カバレッジが広いビジネスモデルとしました。
テクノロジーの活用により一気通貫したサービスにすることで、物件検索のしづらさや「周辺の情報が少ない」といったことから、購入後の満足度にいたるまで、顧客から即時にフィードバックが届くようになります。それにより、改善すべき購入プロセスの特定と、打ち手が正確に見極められるわけです。
従来型のサービスではシステムだけを改善していました。不動産業界3つめの課題である「人材(エージェント)レベルの質」が改善しないとユーザー体験はベストプラクティスになりません。アマゾンのサイトがすごく使いやすくても、荷物が届くのが遅ければユーザー体験としてダメですよね。
不動産購入もサイトが使いやすくても、購入時のエージェントの対応が悪ければ不動産購入のユーザー体験はベストにならないのです。
我々はサイトの使いやすさだけではく、一気通貫でプラットフォームを運営しているためリアルのエージェントの質も拘ることができるのです。不動産購入プロセスをベストプラクティスにするにはテクノロジーとリアルの融合が絶対条件なのです。
このようにして、①テクノロジー化(活用)の遅れ、②情報の非対称性、③人材レベルの低さの3つすべてを変えていくことを目指しているのです。
世界レベルのビジネスマンを目指す
——そもそも不動産業界に飛び込まれたきっかけをお教えください。
私は、高校卒業後も大学に行かずJ2のジェフユナイテッド市原でセミプロとしてプレーしていました。「世界的なプロサッカー選手」という夢を目指して邁進していました。が、23歳の時に、20年間続けたサッカーの道を挫折して、方向転換することになりました。その際、何をしようかと立ち止まって考えたんです。
まず、プロサッカー選手になれなかった理由を50項目書き出しました。するとシンプルに実力がなかったということが見えてきたんです。
だから、次はビジネスマンとして世界レベルになりたい、絶対的な実力をつけようという気持ちを持つようになりました。そこで考えたのは、実力をつけるために1番大変な仕事をすること。それで、「セールス」という職を選びました。
セールスの中でも1番大変なセールスといったら不動産。高額な商品を販売することが1番大変だろうという単純な発想で思い至ったんですよね。
——ハードな中から選ぶとは面白いですね。他の選択肢もお考えになられたのでしょうか?
厳しさでいえば、コンサルタントや投資銀行などがあるかなと思いました。しかし、調べてみると、そうした仕事に就くのは東大卒の人たちばかり。「なんだこの業界。人を学歴で判断して!」と思いましたね(笑)。不動産業界はほとんど学歴不問だったので、「とてもいい業界だ、これぞ自分が勝負できるフィールドだ」と思ったわけです。
ただ、入社して気づいたのは、「学歴不問にしないと人材が採れない」という自信がない会社が多かっただけということ。想像していたような業界では全然なかったです。でも、力をつけたいという一心で不動産業界で頑張って結果を出し、起業するまでに至りました。
そして、想像していたような業界じゃないことが凄いチャンスに思えましたね。
——起業する際にどのような準備をされましたか?
私は人生においてほとんど勉強をしてこなかったですね。でも、本だけは昔から大量に読んでいました。親に「勉強はしなくていいから、本だけは読んでくれ」と言われて育ったんです。勉強は諦められていたのかもしれませんね(笑)サッカーで夢破れ、自分の中で何かきっかけを探そうと思った時も本屋に向かいました。ソフトバンク孫正義さんの『志高く』(実業之日本社)という本に出会いました。
そうしたら、「テクノロジーだ」「今はITの時代だ」「情報革命だ」と書かれていました。今、農業革命、産業革命以来の革命が起きていて、それはまだ始まったばかりだと書いてあったのです。これには衝撃を受けました。
だから、サッカーを辞めたときから絶対にITをやろうと決めていたわけです。ただ、起業するときには30歳手前だったこともあり、全く新たな業界ではなく不動産を扱おうと考えました。FinTechが既に盛り上がりだしていたので、不動産×テクノロジーのReTechもくるだろうなという感覚で道を選んだんです。
>第2話「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を。」に続く
>GA technologies公式HPはこちら
DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
Others 関連記事
Ranking よく読まれている記事
#インタビュー
『成果報酬型マーケティング』提供する株式会社Macbee Planet 千葉知裕社長が語る「経営者に必要な3素養」とは(第1話)
先達に学ぶ
経営者は全てがぶっつけ本番 起業ノウハウ特別編 DIMENSION 社外取締役 和田洋一編(後編)
先達に学ぶ
経営は「人に始まり人に終わる」 成長するスタートアップに共通するポイントとは 起業ノウハウ特別編 DIMENSION 社外取締役 和田洋一(前編)
#インタビュー
「業界特化型アプローチとM&A」株式会社Macbee Planetが“後発企業”であっても成功したワケ / 千葉 知裕社長(第2話)
#志
M&A業界の変革児「M&A総合研究所」佐上峻作CEOが語る起業家にとって重要な素養とは?(第1話)
#インタビュー
株式会社GENDA 申 真衣社長「“緩く”働くのではなく頑張ることを楽しめる会社へ」(第3話)
Sns DIMENSIONのSNS
E-MAIL MAGAZINE 起業家の皆様のお役に立つ情報を定期配信中、ぜひご登録ください!*は必須項目です。
This site is protected by reCAPTCHA
and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.