【イベントレポート:CEO Night】競争優位性を生み出す「サービスの世界観」 SHOWROOM 前田裕二社長(第2話)

株式会社ドリームインキュベータ(DI)は、起業家だけのクローズドなイベント「CEO Night」第2回を開催した。当日はSHOWROOMの代表取締役社長 前田裕二 氏に登壇いただき、DIの執行役員 宮宗 孝光 とのパネルディスカッションや公開質疑を行った。本稿では、本イベントの内容を一部レポートする。(全3話)

強力なパートナーを巻き込むために必要な観点とは

――DI宮宗:御社は事業を拡大する上で、強力なパートナーの巻き込みに成功されている印象です。パートナーを巻き込む上で重要なことは何でしょうか?

前田:パートナーに関しては「誰と組むべきか」という観点と、「どうやってその人と組むか」という2つの観点が存在します。

まず「誰と組むべきか」という観点からお話しすると、「裏切らない人を選ぶ」というのを大切にしています。

この「裏切らない」という言葉の中には、「ビジネス的にメリットがある」というハード面もあれば、「人として信頼できる」というソフトで、ウェットな面もあります。例えばAKB48グループとのコラボレーションは、SHOWROOMが成長する大きなきっかけとなりましたが、このパートナーシップもハードとソフトの掛け算によって実現できたことだと思っています。

まずハード面では、我々だけでなくAKB48G側にも1+1以上のメリットが絶対にあるということを、理解していただけるように説明していきました。

次にソフト面では、秋元康さんに何度も何度もプレゼンを繰り返して、果てはロサンゼルスまで追いかけて行ってお話をさせて頂きました。地球のどこでも行くというスタンスで圧倒的な「熱量」を伝えました。これによって、少なくとも熱の大きさについては、信頼を置いて頂けたのかなと思っています。

このように「誰と組むべきか」という観点では、ハード・ソフトの両方で「この人は裏切らない」と信頼できる/されることが重要だと思っています。とてもウェットな話で恐縮ですが。一方で、「どうやって組むか」に関しては、とにかく「熱量」を持って説得し続けることが大切だと考えています。

 

組織崩壊の危機を乗り越えるための、3つのポイント

――DI宮宗:続いて組織作りについてもお聞かせください。過去のインタビューで、「組織崩壊の危機があった」とおっしゃっていました。(過去インタビューリンク

前田:そうですね。今は社員が100名を超えていますが、30名ぐらいだった頃に、一気に10人ほどに辞めると言われたことがありました。そのときは本当に会社が潰れることを覚悟しましたね。

 

――DI宮宗:その局面をどのように乗り越えたのでしょうか?

前田:これも大きく3つあります。

1つ目は、私自身が「余白」をしっかり持ち、隠さなかったことです。

私は原則、完璧主義者で、弱い部分も見せないし、とにかく沢山働く方だと思います。でも、その姿勢が、はっきりとは言葉にはしていないけれど、自然とチーム全体に伝播してプレッシャーを与えてしまっていました。

なのでそこからは、意識的に自分の完璧ではない部分や弱音を恥ずかしがらずオープンにするようにしました。「余白」を見せることによって、メンバー間で「自分がなんとかしなきゃ」と思ってもらえる雰囲気が生まれたのかもしれません。

メンバーが大量退職する危機の時も、「SHOWROOMを守りたい」という感情を素直に伝え続けました。

2つ目は、「結果を出した」ことです。

当時は業績が停滞していて、しかもその停滞している原因をメンバー間で押し付けあうような、犯人探しの悪循環に陥っていました。

そこで立てた仮説は、「結果が全てを癒す」。つまり、ひとたび、ちょっとしたものでも良いので何か成果が出れば、また成長の好循環に入ることができるだろう、と考えました。そこで、抗生物質か漢方薬かでいうと抗生物質的な施策、とにかく即効性のある施策を打ち、とにもかくにも結果を出したことが、空気を大きく変えました。「結果がすべて」とよく言いますが、やはり結果が最良の薬になることは真理だなと。

 

――DI宮宗:「とりあえず結果を出す」と言ってもそこが一番難しいように思います。(笑)

まさに(笑)。ただそこは、持ち前の巻き込み力を全力で解放しつつ、大手パートナーとアライアンスを結んで、売上を作りにいきました。錆びついた車輪のサビを除去して、また車輪をスムーズに回し始めるために、一時的でもいいので「一旦結果を出す」という能力は、経営者にとっては非常に重要な能力だと学びました。

 

――DI宮宗:組織崩壊を乗り越えることができたポイントの3つ目をお聞かせください。

3つ目は「夢を語ること」です。

事業をしていると、メンバーはどうしても目先追いかけているKPIや数値目標など、定量面に意識が向きがちです。そんな中で、最終的に世の中をどうしたいかという「夢」について心から語っていくことが、経営者にとって本当に重要だと考えます。

当時、社員一人一人に対し、週1回の頻度で1on1をして、定量目標以上に、定性的でとにかくエモーショナルな「夢」を語り続けました。今は社員も100名以上に増えてきたので全員には難しいですが、ミドルマネジメント以上のメンバーには1on1を続けるようにしています。

そのような社内向けのコミュニケーションを増やしてから、組織が強くなり業績が伸びた感覚が強くあります。今後もしばらくは、できる限り社内のコミュニケーション量を増やす方針でいます。

 

「共通言語」で価値観を浸透させる

――DI宮宗:組織における価値観の共有は、ベンチャーのみならず、すべての企業が課題を抱えています。御社ではどのような取り組みをされていますか?

前田:一例ですが、よく深夜にオフィスに残っているメンバーを根こそぎ中華料理店に連れて行くということをやっています。(笑)

弊社の社員は物事を「抽象化」して考えるのが好きで、その中華料理店ではよく「抽象化」の会話をして遊んでいます。これはSHOWROOMならではのコミュニケーションの仕方だと思います。

 

――DI宮宗:独特の文化ですね。(笑)

前田:一見、変な会社ですよね。(笑)

例えば、この前も「小籠包を抽象化して、『人生は小籠包である』という話をしてみて」という会話をしたんです。

みんなにやってもらうのですが、私は抽象化がとにかく得意なので、その場で「圧倒的抽象化力」を見せつける。(笑)のちに、「前田さんと『小籠包を抽象化』したことが、仕事のモチベーションに繋がった。」とアンケートに書いてくれた人もいました。面白いなと(笑)。

私はこれを「共通言語」とよく言っていますが、SHOWROOMでは「抽象化」とか「イシュー」という言葉が頻繁に使われていて、価値観・行動指針を社員皆に浸透させる機能を果たしています。

 

――DI宮宗:御社の行動指針はどのようなものですか?

SHOWROOMの行動指針は、1つ目が「Imagination(他者への想像力)」、2つ目が「Beyond(期待値を2度超える)」、3つ目が「Issue(解くべき問いと仮説の設計)」です。

例えば、乾杯の挨拶でとあるエンジニアが、「右手にグラスを。左手にイシューとエフォートを。そして心にイマジネーションを!」といったことを自分で考えて言ったりしていて(
笑)。それくらい、「共通言語」として社員全員に浸透しています。

私は会社の外でも中でも、ひたすらこの「共通言語」を、壊れたラジオみたいに毎日毎日言い続けています。

 

SHOWROOMがNo.1になれた3つの理由

――DI宮宗:SHOWROOMが動画アプリの収益で国内No.1となった要因をご自身はどう分析されていますか?

前田:これもポイントは3つあるかなと。1つ目は「仮説通り」だったということ。

売上のグラフでいうと、かなり初期の頃に、「マネタイズのドライバーになるのは有名人ではなく、アマチュアに近い演者さん達である」という仮説を立てました。この仮説を信じて疑わず、ずっと徹底して施策をやりきりました。

また、「実行力を高めるために、組織を機能ごとに分けたほうが良い」という仮説を立て、組織改革を実行したのもこの時期です。ビジネス戦略面と組織面、両方が「仮説通り」にいったことが、結果として今の収益に繋がっています。

2つ目は「AKBグループの参画」。これがなぜ実現できたかは、先ほど(第1話リンク)お話したとおりで、「ビジョンの言語化」と「熱量」が大きな要因です。

3つ目は「サービスの世界観」です。いつも「SHOWROOMの競争優位性は?」という問いに対しても、「世界観」と答えるようにしています。

SHOWROOMは「努力が報われる場所」という世界観を持っています。SHOWROOMの世界観が好きだから、私のビジョンに共感しているから、といった理由で「SHOWROOMで配信したい」と思っていただけるユーザーが多いことが、競争力の源泉になっているんです。

ウェブサービスの「世界観」をつくる上では、「人の顔が見えているサービスの方が強い」という仮説を持っています。

レベニューシェア料率や機能といったことは、よほどでない限り模倣可能で、コモディティ化していきます。そうやってプロダクトは同一化するなかで、最後に差別性につながるのはプロダクトを作っている「人」です。

SHOWROOMは、私が具体的にもがいている姿がイメージつきますよね(笑)。例えばキングコングの西野さんは、「SHOWROOM以外ではライブ配信しない」と先日言ってくださっていて、それがなぜかと言うと「前田さんが一番になった方が楽しいから」と。でもこの気持ち、すごく分かるんです。

同様にCAMPFIRE(クラウドファンディングサイト)も、代表の家入一真さんが「手数料を下げたらめちゃくちゃ赤字で辛いです」と言ってもがいているような姿に、人間的な部分を感じるからこそ、共感されていますよね。

一方で、機能面を押し出しているサービスはどうでしょうか?その機能が便利なうちは感謝して使う人がたくさんいれど、「そのサービスが好きで好きでしょうがない」という人は少ないと思うんです。それは、「人の顔が見えない」「世界観がわからない」ことも大きいと思います。

サービスのコアファンの熱量を高めるために、「世界観」を打ち出す。そのために、「人の顔を見えるようにする」。これが、プラットフォームビジネスで成功するために、重要なポイントだと思っています。

 

 

>第3話「「イシュードリブン」を浸透させる組織作り」に続く

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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