「経営者にとって難しいのは“困難”を乗り越えることではなく、“平凡な日々”を乗り越えること。」さくらインターネット 田中邦裕 社長(第3話)

​​「やりたいこと」を「できる」に変える、というビジョンの実現に向けて「社員の成功とお客様の成功の実現」、「クラウドビジネスへの集中」をテーマに注力し、さまざまな取り組みを行っているさくらインターネット株式会社。同社代表取締役社長 田中邦裕氏に起業家の素養、ガバメントクラウド採択までの道のりなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの巻口賢司が聞いた。(全4話)

経営者にとって難しいのは“平凡な日々”をどのように乗り越えるか

ーー2005年のマザーズ上場後まもなく債務超過やデータセンターでのトラブルなど、大変な局面を迎えることになり、相当な苦しみがあったのではないでしょうか。そういった厳しい時期を乗り越えられた要因は何だったのでしょうか。

大変な時期の方が経営者は一層頑張り、社員も一致団結しますから、乗り越えることはそこまで難しくありません。

データセンターのトラブルや地震など、これまで様々な問題が発生しましたが、大変な状況が1年以上続くことは稀で、ほとんどの問題は1~2ヶ月で解決します。

また、債務超過に陥った際も確かに大変でしたが、個々の問題を分解してみると、それほど難しいことはしていないはずです。

大変な時期や状況のせいで辞める起業家は少なく、それよりも、退屈さを感じやすい平凡な日々をどのように乗り越えるかが経営者にとってより難しい課題のはずです。

そこで重要になるのは、常に刺激を求め続けることだと思います。

私自身、1カ月間の休暇をきっかけに退任を考えた時期もありましたが、外部の活動に参加することでリフレッシュでき、更に「さくらインターネット」で頑張らなければいけないと感じるようになりました。

新しい環境や活動に挑戦することで、退屈さを感じずに頑張り続けることができると思います。

プライベートを充実させたところで「充電」はされない

ーー楽しみがないと感じたときに一息つくことで、新たな視点から物事を見ることができ、それが田中社長に良い結果をもたらしてきたのですね。

重要なのは「充電をすること」だと思います。

充電がなくなると、起業家のモチベーションややる気も消えてしまいます。

会社が上場すると、創業者には1~2億円程度が入ることが多いです。一見多そうに見える金額ですが、税金の支払いや、新しい家の購入などに充てるとなると、意外とすぐに消費されてしまうものです。

もしその会社に将来性がないと思っているなら、上場時に全ての株式を売却しているはずです。逆に売却しないのは、会社の企業価値が今後さらに上昇すると信じているからです。それなのに、何かがつまらなくなり、結果として事業が停滞してしまうのはもったいないことだと思います。

つまらなさを感じずに続けるためにも、充電が必要なのです。しかし、プライベートがいくら充実されても、私が言う充電はされません。

刺激が必要なのです。

私にとっては、様々な団体への加入がこの刺激となりました。アントレプレナー団体にて最前線で活動している起業家たちと一緒にいることで喜びや悔しさを共感できました。

また、会長を務めている業界団体では、業界全体を考えるマクロな視点を持つことで、大いにエネルギーを得ることができました。

こういった経験を通して充電することが困難を乗り越えるためのエネルギーをくれたり、退屈な時に自分に気づきを与えてくれたりするのだと思います。

事業と経営は異なるレイヤーにある

ーー企業が成長する過程で押さえておくべき組織構築のポイントをお教えください。

私は、会社を創る際には早期に「どのような会社を作りたいか」を決めることが重要だと考えています。

起業とは、単に事業を始めるだけでなく、会社を始めることを意味します。私は「事業」と「経営」は異なるレイヤーにあると常に考えていますが、この二つを混同して考える人も多いです。

起業して約2年後、一緒に仕事をしようと提案してきた方と会社を合併した際の話ですが、彼は初日にTシャツで出社してきた新入社員に対して怒って指導をしました。

私自身、服装は個人次第だと考えていますが、服装の例を取っても、会社をどのように運営するかは人によって考え方が全く異なりますよね。

会社に着てくる服装はスーツでもTシャツでも、勤務方式についてもリモートでも出社でも、どれでも良いと思いますが、社風は一つに統一すべきです。

ホワイト企業にするのか、軍隊のような組織にするのか、社員を極力雇わず全てを外注にするのか。様々な組織形態がありますが、「製品やサービス」と「どのような組織を作るのか」は別の話です。

通常、事業に必要な人員を集めてきて、前の組織文化を引き継ぐ形で組織が形成されることが多いですが、そうした中でも最初からどのような組織を作りたいかを明確にしておくことが重要です。

先ほどの方とは、事業の方向性は合っていましたが、会社の運営方針に関する考えは異なっていました。その結果、中途半端な組織文化が形成されてしまいましたが、

ここ10年間で組織文化を徹底的に見直し、20周年の時には「『やりたいこと』を『できる』に変える」を企業理念にすることで、方向性を統一させました。これにより経営陣の意識も変わり、社風が確立されました。

これから会社を創る方々には、どのような会社を作りたいのかを最初から明確にイメージしておくことを強くお勧めします。

 

 

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巻口 賢司

巻口 賢司

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本マイクロソフトに法人営業として入社。国内の大手企業におけるデジタル化の促進に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・カンパニーにて、スタジオ部門での映画の配給・マーケティングからコーポレート戦略部での新規事業開発など、幅広い業務に従事。2023年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。日台ハーフ・日英バイリンガルというバックグラウンドを活かし、グローバルな目線でのスタートアップ支援を志す。

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