創業経営者に必要な“子離れ” 、会社との適切な距離感とは。さくらインターネット 田中邦裕 社長(第2話)

​​「やりたいこと」を「できる」に変える、というビジョンの実現に向けて「社員の成功とお客様の成功の実現」、「クラウドビジネスへの集中」をテーマに注力し、さまざまな取り組みを行っているさくらインターネット株式会社。同社代表取締役社長 田中邦裕氏に起業家の素養、ガバメントクラウド採択までの道のりなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの巻口賢司が聞いた。(全4話)

成功と失敗は同じ軸上に無い

ーー田中社長は、ご自身の趣味の延長線上で事業を始められましたが、創業当時、市場規模や事業拡大性などについての解像度などはどの程度あったのでしょうか。

当時はWebがまだ広がっておらず、Googleも存在しないような時期でしたので、検索自体が一苦労でした。

市場が存在するかどうかさえ分からない状況でしたが、「これほど楽しく便利なものだから、必ず使ってくれる人がいるはずだ」と信じていました。

起業には、「失敗しないこと」と「成功すること」の2つが重要だと考えています。

例えば、会社でミスをせずに過ごしていても出世できるかどうかは分からないように、失敗を避けたからといって成功するわけではないですが、大きなミスを繰り返せば出世は認められないですよね。

ですから、失敗を避けることは大切ですが、それと同時に成功に向けて努力することも必要だと思います。

市場調査は失敗を避けるという点で重要だと考えており、当時、市場調査を行なわなかったことで、失敗の可能性を高めてしまっていたと思います。

今となっては事業の壁打ちから資金提供、採用、経営面などと、失敗を避けるための手段が多く存在ありますが、Googleも存在しておらず情報を探し出すこと自体が大変だった当時、私は市場調査もほとんど行わずに起業してしまいました。

 

私自身、特に株を売ったわけではないのに持ち株比率は15%しかないので、資本戦略には失敗しています。元々は70%近く持っていましたから、最初から適切な対策を講じていれば、失敗は避けられたでしょう。

しかし、その15%の株でも現在の価値は300億円になっています。(2024年2月取材当時)したがって、自分の株の比率を必死に守るよりも、規模を大きくしてうまく運営する方が良いと考えています。

成功と失敗が同じ軸上に無いという価値観を私は大切にしています。

経営は「任せること」と「自分にしかできないこと」の見極め

ーー田中社長は、学生技術者でありながら、創業社長としてさくらインターネットを立ち上げました。経営能力は、事業を運営しながら鍛えあげられたのでしょうか。

起業初期には、特に経営能力はありませんでした。

一時MBAの取得を考えましたが、先輩経営者から「自分でやる必要はない」とのアドバイスを受け、MBAを持つ人材を雇うという方針に切り替えました。

経営者としては、全てを自分でやるよりも、必要なリソースを確保し、「任せる」ことが重要です。

大部分の業務は創業経営者でなくても出来るようになります。しかし、強い動機を持って起業した創業経営者だけができることもありますので、自分にしかできないことを見極めながら、どの程度を周りに任せられるかが、会社を成長させる過程で大切だと思います。

余談になりますが、約5年前に1ヶ月間会社を休んだ経験があります。

その時、私には「自分が不在の間、会社が機能しなくなること」と、「自分が不在の間、会社が滞りなく機能すること」の二つの心配事がありました。

結果、私のいない間も会社はしっかりと機能していました。

社長がいなくても会社が通常通り動くことを目の当たりにし、「自分はいなくてもいいのではないか」と思い始めるようになりました。

一定の利益が出始め、創業者がいなくても会社が回るようになると、事業意欲を失ってしまったり、モチベーションが下がってしまう起業家も多いと思います。

しかし、私は「自分がやるべきこと、やりたいこと、そして自分だけにしかできないことを見つけること」を起業の中で大切にしてきました。

今から十数年前、周囲の人間を説得させるためにも、自分で「さくらのクラウド」をプログラミングしなければなりませんでした。当時、社内外でも「そんなことを出来るはずがない」という雰囲気だったため、自分でやって見せるしかなかったのです。

しかし、現在はその必要がありません。その仕事を私よりも早く、的確にできる人がいるからです。

一方で、創業社長にしかできないことがあるのも事実ですので、「自分がやるべきこと、やりたいこと、そして自分だけにしかできないこと」を見極めながら、適切に行動することが起業家にとっては大切だと考えています。

“依存しすぎない”。創業者が保つべき会社との適切な距離感

ーー創業者として、子供のように大切にしてきた会社を、自分以外の人に譲渡することについて難しく考える人も多いかと思います。その点について、田中社長はいかがお考えでしょうか。

自ら立ち上げた会社を手放すことに抵抗感を持つのは理解できますが、その強い思い入れが逆に会社の成長を阻んでしまう場合もあります。

親がいつまでも子供に干渉すれば、子供は自立しないでしょう。自立できない原因は子供ではなく、親の問題です。この観点で、今の私は「さくらインターネット」に精神的にも金銭的にも依存していません。

自己紹介する際も、「さくらインターネットの田中」というよりは、単に「田中」と名乗るようにしています。

創業者であろうと、従業員であろうと、会社へのロイヤリティの重要性は変わりありません。距離を取りすぎることで会社の方向性を見失ってしまう恐れがあるため適度な距離感を保つことは大切ですが、会社に依存している状態になってしまっては望ましくないと思います。

会社の構造としては、業務、事業、経営があり、その上に起業家自身の人生が存在します。しかし、一部の人々は業務や事業に過度に依存してしまうことがあります。

業務に依存すると、その運営方法について過度にこだわるようになります。また、事業に依存する人は、事業に関する詳細を知りたがる傾向があります。

私自身も事業は好きですが、他の方へ任せるようにしています。

例えば、「ガバメントクラウドの事業領域を拡大」するというように、方向性を決める際には、経営の問題ですので、私が深く関与します。私自身も事業が好きでやっているわけですが、その事業自体が始動した後の詳細な運営・進行は、推進してくれる担当者になるべく任せることを心掛けています。

繰り返しになりますが、創業者は会社と適度な距離感を保つことが重要です。

 

 

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巻口賢司

巻口賢司

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本マイクロソフトに法人営業として入社。国内の大手企業におけるデジタル化の促進に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・カンパニーにて、スタジオ部門での映画の配給・マーケティングからコーポレート戦略部での新規事業開発など、幅広い業務に従事。2023年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。日台ハーフ・日英バイリンガルというバックグラウンドを活かし、グローバルな目線でのスタートアップ支援を志す。

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