#インタビュー
「やりたいこと」を「できる」に変える、というビジョンの実現に向けて「社員の成功とお客様の成功の実現」、「クラウドビジネスへの集中」をテーマに注力し、さまざまな取り組みを行っているさくらインターネット株式会社。同社代表取締役社長 田中邦裕氏に起業家の素養、ガバメントクラウド採択までの道のりなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの巻口賢司が聞いた。(全4話)
「自分の会社」ではなく、「この国」をどうするかという視点
ーー御社は昨年、日本企業としては初めて、ガバメントクラウドサービスの提供社として条件付きで採択されました。日本のデジタルインフラを支える企業として、今後の取り組みが期待される貴社ですが、ガバメントクラウドに入り込むことは容易なことではなかったと想像します。政府との対話の中で特に意識されたことや、国の支持を得るにあたって施した工夫などはありますか。
当社がコンピューティングリソースを提供させていただいた将棋AIの「Ponanza」が初めて人間に勝利したことは非常にエポックメインキングな出来事で、これが一つのきっかけとなり、政府との関わりを深めることができました。さらに、業界団体への参加だけでなく要職に就けたことで、政府関係者との対話の機会も自然と増えていきました。
政府とのやりとりの中で、私は「成長セクターに国が関与しなければならない」そして「クラウドを使うだけでなく、作れる国にしないといけない」と述べてきました。「デジタル貿易赤字」が膨らむ一方では、国は豊かになりませんので。
このように大切なのは、自分の会社への恩恵ではなく、この国をどうするかという視点です。さくらインターネットだけが成長しても、社会全体が成長しなければ意味はありません。
政府と対話する際には、個社の視点ではなく、「業界としてどう高めていくのか、それがいかに国富の拡大につながるのか」といったマクロな視点で話すことが重要です。
「会社」とは、業務、事業、経営、そして起業家の人生を含むものですが、その外側には社会が存在します。しかし、起業家が社会全体を意識することは少ないです。
私たちが個社として利益を得ることができても、それがゼロサムゲームになると、他社の利益を奪い合うことになります。その結果、社会全体の利益は増えません。
私たちは、会社以上に大きな視点で物事を考える必要があると思います。その考え方に至ったきっかけは、原丈人さんの「『公益』資本主義」でした。
「新しい資本主義」として岸田内閣でも位置づけられていますが、その根本的な問いは「株主だけが利益を享受してよいのか」についてです。
会社には社員、お客様、取引先など、さまざまな関係者がいます。
以前は価格交渉をして商品をできるだけ安く提供するなど、事業上の利益を追求していましたが、次第に社会全体にとっての意義について、考えるようになりました。
例えば、私たちが北海道にデータセンターを設置したことで、100人以上の雇用が北海道で生まれ、その地域に税金を払うことになりました。
北海道在住の従業員は出生率が高い傾向にあり、これも社会にとっては少子高齢化対策への貢献とも言えます。
また、我々の取り組みが呼水となって自治体の方がデータセンターの誘致を推し進めた結果、大手企業が巨大なデータセンターを北海道に建設することを発表しました。そこからさらに大きな雇用が生まれることでしょう。
そのような経験を経て、国力を上げる、地域に貢献する、働く人々に仕事を提供するという視点が生まれました。
起業初期では、そういった視点を持つことは難しいかもしれませんが、その存在については認識しておくべきだと考えます。
私は、株主のためだけの資本主義は適切ではないと思います。
付加価値の中には利益、給与、家賃、税金などが含まれます。付加価値の総量が国富(GDP)になりますが、利益のためだけに給与などを削りすぎると、付加価値は減ってしまうかもしれません。これが現在の日本の状況です。
多くのスタートアップは上場後、上場市場から投資をしてもらえるはずなのに、配当や自己株買いを行い、市場に資金を返しております。
本来より多くの資金を調達するための上場のはずなのですが、上場後に増資をしていません。
目先の数値を改善することに焦点を当てしまうのは、非常にもったいないことだと思います。
我々は事業への投資をすることで、国内発のAIなどの知的財産だけでなく、高い給与の雇用も生まれ、結果国富が高まり、GDPが上がると信じています。
上場した後こそ、大きなチャレンジを
ーー上場がゴールになってしまう創業社長も多いのではないかと思います。上場後も会社の事業を継続的に成長されている御社から見て、上場を目指す後輩の起業家へのアドバイスはありますか。
上場した後は、どうしても皆、株価を気にしてしまいます。
多くの場合、上場した時が株価のピークで、その後は下降していく。頑張っていても株価が下がっていく中で、上場して1年も経たないうちに事業への熱量も下がってしまう起業家をよく見ます。我々も上場直後の株価を取り戻すのに10年間を要しました。
本来スタートアップは赤字を掘って、大きなチャレンジをしますが、上場に向けてはバリュエーションをつけなければならず、黒字化が目標になります。その結果として人件費や開発費等の経費を削減するようになるのですが、この過程で成長の余地を減らしてしまっているケースが多いです。
実際、上場した時点で成長余地が無くなってしまっているケースも見てきました。
利益を出すことも大事ですが、積極的な事業投資や人材採用も同じぐらい重要です。
たとえば、私のよく知る上場企業の社長の方は上場直後に、調達した資金を元にベンチャーキャピタルを作り、投資事業を始めました。株主からの批判もありましたが、リスクを取った結果として、この会社は投資を通じて事業を拡大させることに成功させました。
我々も今(2024年2月取材当時)は株価が急上昇していますが、それはリスクをとってクラウドへ継続投資してきた成果の表れだと思います。
ですから、上場した後もチャレンジを続け、リスクを取ることが大切なのです。短期的な株価の変動に左右されず、企業価値の向上に伴い株価も上昇する将来を自信と確信を持って作り出せるかどうかが問われるのだと思います。
クラウドへ巨額の投資、悩み抜いた末の覚悟。
ーー最後に、貴社の今後のチャレンジとその想いに至ったプロセスを教えてください。
私たちはここ数年間、日本発のクラウドベンダーが必要だと主張してきました。
昨年、さくらインターネットを含む複数の企業が自民党本部に呼ばれ、「日本がクラウドをどう利用すべきか」について意見を求めらました。
その際に私は、「リスクはあるがクラウドへ投資を継続して、3年後、5年後に大きく成長するし、結果として国全体に利益をもたらす」という姿勢や、安全保障の観点から、クラウドを構築できる人材を日本に保持する必要性を強調しました。
その時は、自分で行う責任感というよりも、こうすべきだという考えから話していました。
そんな中、突如として、米中間の関係性悪化を背景に日本政府が国産のGPUクラウドの整備を求めるようになり、8年前からGPUクラウドを提供していた当社に声がかかりました。
しかし、130億円という巨額の投資を求められる中、例え政府の支援があったとしても、困難だと感じていました。なぜなら、当時の売上は200億円程度しかなかったためです。
その頃、ガバメントクラウドの入札の話も同時に出てきました。
もし実現できなかったらどうなるのかといった心配や、数百人規模のエンジニアを採用するのには困難な時期でしたので不安は大きかったのですが、それでも「リスクを取らなければならない」と思い、かなり悩みましたが、入札を決意しました。
もしガバメントクラウドが認定され、公表されたら、応募も増えるはず。また、GPUクラウドが成功すれば、ガバメントクラウドが売り上げを生まない2〜3年間でも、利益バランスを保つことができ、赤字にならずに今の配当水準を続けられると判断したのです。
ガバメントクラウドに認定された今では、サービスの売り先もあり、データセンターの土地もあり、人材応募も部門によっては3倍に増え、全社で毎月1500人〜2000人の応募があるような状況です。おかげさまで「さくらのクラウド」も売上が増え、成長傾向にあります。
我々がリスクをとった先には、自社だけでなく日本の大きな可能性があると信じています。
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巻口 賢司
早稲田大学政治経済学部卒業後、日本マイクロソフトに法人営業として入社。国内の大手企業におけるデジタル化の促進に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・カンパニーにて、スタジオ部門での映画の配給・マーケティングからコーポレート戦略部での新規事業開発など、幅広い業務に従事。2023年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。日台ハーフ・日英バイリンガルというバックグラウンドを活かし、グローバルな目線でのスタートアップ支援を志す。
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