#ブランディング
「都市を創り、都市を育む」との理念の下、ナンバービルやアークヒルズ、六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズなど、70 年近くにわたって時代を代表する都市を創り続けている森ビル株式会社。2018年よりオープンイノベーション/スタートアップ/VC・CVCの取り組みを施設起点で強力に支援しており、昨年11月に麻布台ヒルズ内に開設した大規模VC拠点「Tokyo Venture Capital Hub」にはDIMENSIONも参画している。同社営業本部 オフィス事業部営業推進部 部長 竹田 真二氏に、都市開発への想いやスタートアップ業界に対する取り組みなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全3話)
「麻布台ヒルズ」の開発思想と展望
ーー2023年11月に開業した「麻布台ヒルズ」は、35年の歳月をかけて実現されたヒルズの集大成だとお聞きしました。麻布台ヒルズには、ビルだけでなく、道路や広場、緑地も配置され、これまでにない都市の様相を呈しています。このような壮大なコンセプトを指向された開発思想について、教えていただけないでしょうか。
30年以上前から、地元の方々と一緒に街づくりについて議論してきました。その結果、“緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街 – Modern Urban Village -”というコンセプトが生まれました。
実際に街ができるまでには長い時間が必要です。しかし、形成される街はそれよりも遥かに長く、100年、200年と続いていきます。
よって、時代の変化を捉えつつ、時の流れとともに変わるものと変わらないものを見極め、人間の本質に向き合うことが重要です。これが我々の都市づくりの根底にある考え方です。
今回の麻布台ヒルズでは、人々の生活の本質を考えた際に、人と人が出会う広場のような街が生活の中心にあるべきだと考えました。
その視点が「Modern Urban Village」というコンセプト、そしてそれを支える「Green」、「Wellness」という二つの柱につながっています。
緑に囲まれながら、自然と調和した環境の中で人々が出会い、より人間らしく生きられるようなコミュニティの形成を目指しています。
竹田 真二/森ビル株式会社 営業本部 オフィス事業部営業推進部 部長
ーー弊社(DIMENSION株式会社)が麻布台ヒルズに入居して1カ月ほど経つ現在でも(2024年3月取材当時)、ビルは絶えず人々で賑わっています。非常に盛況と感じますが、人々を惹きつける理由はどこにあるのでしょうか。
長い年月を経て完成したという経緯もありますから、これだけ多くの人々が訪れてくれることに、何とも言えない感動を覚えます。
新しく出来た街には人々が訪れやすいものです。特に今回は、円安とコロナが落ち着いたことで日本が海外から再認識される流れもあり、想定以上に海外からの訪問者が増えています。
しかし、私たちが意識しているのは、この街を開業した年がピークではなく、持続的に発展させ続けること。
「去年来たときよりも、今年の方がずっと良かった」「来年はさらに良くなりそうだ」と思ってもらえるような、人々を惹きつける”磁力”になる仕掛けを意識していくことが重要だと考えています。
ーー緑やテナント、デザインなど、麻布台ヒルズには様々な磁力があると感じます。
森ビルのこだわりは、手すりの形、植栽の種類、什器一つに至るまで全てを考え抜き、それが最善であると自分たちが納得するまで追求することです。
現社長の辻は、先代社長の森から「完璧なものをつくろうと思っても絶対にできない。しかし、妥協したらロクなものにならない。 」とよく説かれたそうです。「完璧だ」と容易に満足せず、社員一人一人が自身の仕事に対してこだわり抜くこと、これが重要だと思っています。
スタートアップ業界に対する取り組みと狙い
ーー御社は’18年に、イノベーション推進プログラム「ベンチャーカフェ」を虎ノ門ヒルズに誘致したことを皮切りに、’20年のARCH、CIC Tokyo(虎ノ門ヒルズ)、そして’23年のTokyo Venture Capital Hub(麻布台ヒルズ)の開設など、オープンイノベーション/スタートアップ/VC・CVCの取り組みを施設起点で強力に支援してきました。こういった取り組みの狙いについてご教示下さい。
どの時代においても、新しい技術やアイデアが経済活性化の牽引役になると考えています。
未来を想像し新しいものを創造する活動が、社会全体で循環することで、良い都市、良い未来が作り出されると信じています。
例えば、トヨタ自動車株式会社やソニー株式会社も最初は小さな会社から始まりました。創意工夫の中で社会に求められるものを作り出し、経済を牽引し、社会の課題を解決してきたのだと思います。
それと同じように、スタートアップの方々が持つアイデアや技術、そして情熱こそが、次の時代を牽引する重要なファクターになると思います。
ARCHでは大企業の新規事業を支援しておりますが、文脈は同じです。新しい社会を創造する挑戦者たちを支援することが、私たちの目指すところです。
ーー御社がこういった取り組みを始められたきっかけは何だったのでしょうか。
もともと森家が不動産事業を始める前は米屋だったそうです。社会課題を解決したいという情熱と知恵と努力があったからこそ、今の森ビルという会社になっています。実際に西新橋1森ビルから共同建築が始まっており、自社のリソースだけでは実現できないことを他者と協働しながら実現しています。
また、私が森ビルの街づくりに共感を覚えた一つに、「ラフォーレ原宿」での成功があります 。
ラフォーレ原宿は1978年に開業しました。当時の原宿は住宅地でしたので、洋品店があるだけで、現在のようなファッションディストリクトではありませんでした。
そういった中で、 原宿にファッションビルを作ったのですが、テナントはすぐには決まりませんでした。
そこで、スペースを小さく区切り家賃を安価にすることで、通常ではお店を構えることが困難な若手デザイナーたちでも、自分でお店を開くことを可能にしました。
やがて 若いデザイナーたちは次々と成長し、ラフォーレ原宿の周囲に自身のお店を構えるようになりました。つまり、ラフォーレ原宿が若手デザイナーの登竜門となり、原宿の中心的な役割を果たしながらエリア全体をファッションの街へと進化させたのです。 以降は、それまで見向きもしなかったブランドショップまでも、原宿や表参道に拠点を構えるようになりました。
そんな事例から、 既成概念にとらわれず挑戦をすることで、街に新しい価値を 生み出し、都市の磁力を高めていくという気概が、森ビルの文化となって脈々と受け継がれてきたのだと思います。
また、街づくりは複合的なもので、一つのことをやり終えたらそれで終わりではありません。
森ビルはこれまで、イノベーションに関連する施設だけでも大企業の新規事業創出を支援する ARCHや日本最大のイノベーションコミュニティであるCIC Tokyoの誘致、日本はもとより世界でもまれなベンチャーキャピタルの集積であるTokyo Venture Capital Hub、また、海外で挑戦する日本人スタートアップの活動を支援するシリコンバレー拠点 Japan Innovation Campusなどの設立を連続して手掛けてきました。
こういった仕掛けを、森ビルだけでなく多くの事業者が行えば、ムーブメントが起き、大きな波が生まれていきます。
森ビルは、その最初の一手を打つ存在であり続けたいと考えています。
大企業とスタートアップの相乗効果
ーー御社が開設されたARCHのご貢献もあり、大企業とスタートアップの連携や、大企業からのカーブアウトが目立つようになりました。日本のユニコーン企業創出に向け、大企業が果たすべき役割について、御社の見解をお聞かせいただけますか。
大企業の役割は多岐にわたります。
AppleやGoogleのような企業が成長を続けているのは、彼らが大企業だからではなく、常にスタートアップと真剣に向き合い、共に挑戦しているからです。
日本の大企業も、スタートアップとの連携を通して新しい技術を取り込みつつ、大企業とスタートアップ双方が成長する活動に挑戦していただきたいと思います。
特に日本の場合、大企業には優秀な人材や、資金、長年にわたる販路やネットワークなどのアドバンテージが豊富にあります。 これらのアドバンテージを上手く活用して、新しいものを生み出していくべきだと思っています。
日本の大企業のもう一つの特徴は、効率化のスキルと、サービスのクオリティの高さです。これらは、間違いなく日本が世界に誇れる能力だと思います。
大企業が持つ効率化能力(カイゼンする力)とサービスのクオリティ、そしてスタートアップが持つ新しい技術やアイデアを掛け合わせることで、ビジネスをスケールさせ、より高品質なサービスを提供することが可能になると考えています。
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家弓 昌也
名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。
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