「街づくりは人づくり。」都市開発へ向き合い続ける森ビルのDNA 森ビル株式会社 竹田 真二 部長(第2話)

「都市を創り、都市を育む」との理念の下、ナンバービルやアークヒルズ、六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズなど、70 年近くにわたって時代を代表する都市を創り続けている森ビル株式会社。2018年よりオープンイノベーション/スタートアップ/VC・CVCの取り組みを施設起点で強力に支援しており、昨年11月に麻布台ヒルズ内に開設した大規模VC拠点「Tokyo Venture Capital Hub」にはDIMENSIONも参画している。同社営業本部 オフィス事業部営業推進部 部長 竹田 真二氏に、都市開発への想いやスタートアップ業界に対する取り組みなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全3話)

世界基準で高品質なビルへ

ーー1955年に創業者の森泰吉郎様により創設された御社は、半世紀以上にわたり、世界基準の高品質なビルを提供し続けてきました。どのような創業の経緯があったのでしょうか。

創業者の著書(私の履歴書 森泰吉郎, 日本経済新聞社)でも述べられていますが、創業には、1923年に起きた関東大震災が大きな影響を与えています。

当時、一帯が焼け野原と化し、そこで暮らしていた人々がそれまで積み上げてきたものは瞬く間に全て崩れ去り ました。

その光景を目の当たりにした森泰吉郎は、どんな災害が起こっても営みを継続できるような強固な建物が必要であり、 安全な建物の供給を通して社会へ貢献するべきなのだと強く感じるようになりました。

また、震災前に森家が運営していた不動産は全て借地にあったため、震災後の焼け野原の中で、当時の森家は何らの権利も所有していない状態でした。

そのような中、「お世話になった森さんだから、また建物を建てて私たちに貸してね」と、日頃の信頼関係から多くの借家人に応援を頂き、再起することが出来たそうです。

こうした、事業を通じた社会への責任感と、信頼関係に対する強い想いが、 森ビルの全ての事業に通じているのだと思っています。

また、1986年に開発されたアークヒルズが更なる転換点となりました。これは民間初の大規模再開発事業で、約200件の権利者に対して長い年月をかけて話し合いを続け、 出来上がったプロジェクトです。当時は流行語大賞に「アークヒルズ」が入るなど、大変大きなインパクトを持って受け止められました 。

ここでは、都市に居住する人がより豊かに暮らせる街の提案として、都心で働き郊外に住むという非効率的な生活スタイルを見直し、職場と住居をシームレスに繋げ、一体化させることを目指しました。

さらに、単に「働く」「住む」だけの場所ではなく、「文化に触れる」場所であることも重要だと考え、サントリーホールを広場の中心に据えた、当時としては画期的なものとなりました。これらの理想を実現するためには、個別のビルの建て替えでは対応ができません。 そのため、アークヒルズ開発の頃を契機に、ビルづくりから都市づくりへと事業の視点が変化しています。またその視点は、六本木ヒルズプロジェクトを経てさらに発展してきました。

都市を創るということは、一緒に事業を進める権利者の方はもとより、近隣や周辺エリアの方々に対する大きな責任を伴います。困難な道であってもあきらめずに、 終わりのない理想を追求して創られ続けている街だからこそ大きな未来があります。これらの歴史を通じて、現在の森ビルの理念が形成されてきたのだと考えています。

経済を牽引するための“文化”を大切にしていく。

ーー御社の企業カルチャーはどのように形成されたのでしょうか。

創業者の森泰吉郎氏は、森ビル設立前は横浜市立大学の教員でした。

彼が残した言葉として今も引き継がれているのは、「街づくりは人づくり 」というものです。

私もこの言葉に感銘を受け、大切に思っています。美しい建物を作るだけであれば、誰でも可能かもしれません。ですが、街の特色というのは、そこに住む人や働く人によって変わるものだと考えています。

素晴らしいテナントと、未来を創るという想いを抱いた人々が集まっているからこそ、ヒルズは輝いているのだと思います。もし逆に、後ろ向きな人たちが集まっていたとすれば、現在のヒルズは存在しなかったでしょう。

ですから、この街に集まる 人々がどのような人物であるかは非常に重要です。

そして、その人々の在りようを形成するものは「文化」だと考えています。

1986年開業のアークヒルズから六本木ヒルズへと発展する過程で、 バブル経済が終わり、日本は成熟社会へと移行しました。成熟社会においては、文化こそが人々をつくり、街をつくり、時代を牽引する力になると我々は考えています。

だからこそ、サントリーホールの成功を背景に六本木ヒルズではそれをより発展させ、森美術館や六本木ヒルズクラブ、アカデミーヒルズなど、文化的な施設をヒルズの中心部へ据えてきました。

「経済」を優先するのであれば、六本木ヒルズの最頂部に美術館のような文化施設を置くような選択はなかったと思います 。しかし、経済を牽引するために 「文化」を大切にするという考えの結果が、現在のヒルズに反映されているのです。

また、グローバル社会の進展により、Googleマップで世界中の都市を視覚的に探索したり、飛行機で簡単に移動できるようになっています。 だからこそ、都市の魅力はかつてより重要な要素になっていますし、それを左右する都市の個性が「文化」によって形成されるという点は、今後も変わらないと考えます。

このグローバル社会の中においては、文化を大切にすればするほど、その都市の個性は磨かれていくのだと思います。

 

世界中から選ばれる都市を作らなければ日本に未来は無い

ーー世界的に有名なビルを幾つも建設され、東京の中心地を形作られてきた御社の取り組みにより、日本は世界的に見ても、人と経済の集積が洗練された形で進んでいると感じます。この取り組みは、日本や世界にどのようなインパクトを与えているのでしょうか。

森ビルは創業以来、社会にどんな貢献ができるかを常に考え、真剣に都市開発に取り組んできました。

現在、都市化は世界中で急速に進行しています。都市部が占める陸地面積の割合は地球全体の5%に満たないのに対し、先進国では 75%以上の人が都市で生活して います。

また世界銀行の調査によると、 ユニコーン企業の8割以上が都市部で生まれています。

新しいアイデアやビジネスが、郊外や山奥で生まれる可能性もあります。しかし、 技術やアイデア、ビジネスが生まれる土壌として、人々が集まり、アイデアや知識、技術を交換し、共に成長する都市は不可欠です。

都市の持つ重要な機能とは、そんな、人々の集積と交流の場を提供することです。

森ビルは30年以上前から「都市間競争」が続いていくと語り続けてきました。

今後人口減少が進む日本では、世界中の人々に選ばれる都市を創らなければならないと考えています。そのためには、都市が持つべき要素とは何かを追求し続ける必要があります。

それが我々がヒルズに託す想いであり、その根底に流れる考え方です。

世界から選ばれる都市を作り、優秀な人々を引き寄せることで、経済の発展を促し、社会に豊かさをもたらすこと。それが、我々の目指すものです。そこでは、人を惹きつける磁力がとても重要だと思っています。

磁力になるものには、美しい建築、素晴らしい音楽、景色なども含まれますが、最も強く人を惹きつけるのは「魅力的な人々」そのものです。

人々が引き寄せられ、新たな可能性を追求し、互いに刺激し合う。そして、また新たな人々を惹きつけていく。それが都市の力だと思います。

我々は、そのような魅力を持った人々が集まる都市を作ることを目指しています。

安全・安心/緑・環境/文化・芸術 街を育む 三つの大きな柱

ーー人が磁力になるというお話が出ましたが、その他に、人々を集めるにあたって御社が重視されている点はございますでしょうか。

安全・ 安心、 環境・緑、文化・芸術の育成、これら三つが大きな柱となっています。

最も重要なのは、安全・ 安心です。

先ほど例に挙げた関東大震災のように、生命が脅かされるような都市では人々は安心して生活できません。

我々は逃げ出す街ではなく、逃げ込める街を作ろうと努力してきました。実際に、東日本大震災の際は多くの人々がヒルズへ避難しています。

また、都市でありながら、自然と共生することも重要です。

例えば、アークヒルズのサントリーホールは屋上が緑に覆われ、通りは桜の木で飾られています。開業から年々育つ木々と共に緑が豊かになり、憩いの場の魅力が増加しています。また、六本木ヒルズの映画館のある建物の屋上には田んぼや畑を作り、都心の人々が自然と触れ合う貴重な機会を提供しながら、地域コミュニティの活性化にも役立っています。このような場所は、都市に必要不可欠だと考え、意識的に作るようにしています。

持続可能な社会を作るためには、そういった環境づくりがとても大切だと思います。

 

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家弓 昌也

家弓 昌也

名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。

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