連続的“ビジネスメディア起業家”『PIVOT』佐々木紀彦CEOが考える「新規事業の成功法則」とは(第2話)

新規事業成功の法則は「死角を狙うこと」

ーー「東洋経済オンライン」「NewsPicks」「PIVOT」と様々なメディアを作られてきましたが、新しい事業を成功させるために大事なポイントなどはございますか。

死角を狙うことだと思います。

特に社内起業の場合は、既存事業と競合すると喧嘩になってしまう。

これからすごく伸びそうだけれどまだ社内では手をつけられていないとか、人気が無い領域。そういった死角が、特に若い人は挑戦しやすいんじゃないかと思います。

 

ーー「伸びるけれど誰もやっていない領域」とは具体的にどういったことを指すのでしょうか。

得意な人があまりいないということですね。

東洋経済オンラインの時でいうと、まさしくメディアのオンライン化が当時伸びることは分かっていたんですが、皆んな紙媒体が好きなのでそっちを手を挙げてやりたいっていう人はほとんどいないような時代だったんです。

人気がない領域であれば手を挙げても嫉妬されないですよね。すると、若くても編集長になれるチャンスを貰えたりもする。

自分自身、興味があって好きだったのもあるんですが、ある意味意図的にポジションを取りやすいところを狙っていったところもありました。

多くの人が既存事業の成功ばかり見ているので、日本企業の場合はそういう死角が多くあるのではないかなと思います。

また、当時オンラインがすごく得意というわけではなかったのですが、まだ若かったので「若ければ必死に頑張って2〜3年経てば専門知識も身につくだろう」と思い挑戦しやすかった、というのも大きいですね。

何十年選手の先輩と同じ軸で戦うのでなくて、何に重点を置くかを見極めるのも重要なことだと思います。

 

ーー社内起業ではなく外に出られての起業というところでも同じく「伸びていて勝てそう」という点が判断軸になられたのですか。

そうですね。

NewsPicksの場合は、スマホで経済メディアという分野が空いていたので、梅田さん(ユーザベース創業者)がそこを切り開き私も一緒に参画させてもらいました。

今回も経済で動画が伸びることは皆分かっているのに、得意な人があまりいないか、もしくはテレビ局で得意な人も地上波での活動に興味がある人が多いためデジタルの領域ではなかなか出て行かない死角なんですよね。

伸びる可能性はあるけれど、プレーヤーは少ない。だから、急いで攻めればトップになれると思いました。社内であっても社外であっても法則性は全部似ています。

 

ーー死角はどのように見つければいいのでしょうか。

私のやり方は「タイムマシン経営」です。

アメリカに限らず、中国でも欧州でもそうですし、「これは全世界的に来ることは間違いない、日本も例外なく来るだろう」というトレンドは世界を見ていれば明らかなので、そういうところで日本が遅れてるところを狙う。それだけで法則化できると思います。

具体的に見るべき場所でいうと超大国もそうですし、欧州もそう。

特に欧州は歴史がある国で日本に似ていたりするのでちょうどいいですし、逆にアメリカは早い国で日本に来るまでに時間のタイムラグがあるので、アメリカに過度に注目するのは良くありません。

実は、タイムマシン経営をする時に大事なのは時間の軸で、急ぎすぎてもダメなんですよね。

私の例でいうと、東洋経済オンライン時代から動画をやりたいと言っていました。当時は通信的にも動画はまだ見やすくなかったのに、アメリカに影響されて「動画だ!」という感じで前に進もうとしましたが、あまりうまくいきませんでした。

最初に動画に注目したのが2013年なので、やっと10年遅れてこうしてPIVOTで動画メディアを運営することができたことを考えると、明らかに波を読み間違えたなと感じています。

 

波は「3点観測」で見極める

ーー波を読むコツみたいなものはあるのでしょうか。

イノベーター層がそこに取り組んでいるだけだと早すぎるし、アーリーアダプター層でもまだ波としては小さい。アーリーマジョリティぐらいまで行けば、乗るべき大きな波としてなんとかなります。

私の中で、大きな流れになると確信するポイントの一つとして「両親がそれをやっているか」どうかというのがあります。

1年前に北九州在住の両親に会いに行ったら、地上波を見ずにYouTubeの番組やAmazon Prime、Netflixを見るようになっていました。70代の両親ですらこれをやっていたら、もっと若い世代やビジネスの領域でも全てこうなると確信が持てたので、それがPIVOT創業への一つの契機になりました。

逆に言うと、東京だけを見ないことは大事かもしれません。

例えば東京港区だけを見ているととても狭い視野になってしまうので、福岡など全国の平均値に近い場所も両方見る。その違いを見て感覚を調整しなければいけません。

「世界と東京と地方都市」この3点を見ることを意識していて、世界もアメリカだけでなく、欧州や中国なども見ています。この3点の観測を常にしておくと、大きく波を読み間違えることはないと思います。

 

ーー貴社は最初に活字メディアもやられていた中で、動画に特化することを判断されました。そういったタイミングでの「判断軸」などはありますか。

見るべき情報は、先ほどの両親の話もそうですし、友人や起業家や普通のサラリーマンの方といった、周りにいる人の行動という定性情報と定量情報ですね。

我々が動画に完全にピボットしたのは、毎日の数字が明らかに動画の方が強く、かつ市場トレンドも動画が上り調子で活字が下り調子だったからです。活字に力を入れても落ち込んでいくだけなので、これは勝てない戦場だと思いました。

ここで言う数字というのは、インプレッションのような数字と、家族や定性的に自分が定点観測している人、そして何より自分自身の感覚です。

活字が大好きな自分でも動画を見る時間が明らかに増えて、そういう体感値が最後は決定打になりました。

 

ーーご自身、周りの方、お客様の体感値をそれぞれどういったバランスで見られているのですか。

それはフェーズによって変わります。

30代の頃は世の中の中心と自分の体感値が近かった気がしていたので、自分の体感値が5割以上で突き進んで、データを見るとしても3〜4割でした。日本の平均年齢が40代後半ですから現在も平均値に近いのかなと思います。

ただ、私たちの事業の場合ターゲットは45歳以下なので、ターゲットの人たちからすると私は結構上の方にいる。そのため、自分の体感値で判断する割合を昔より減らしています。データや他の人から聞く情報が増え、自分の体感値で判断する割合は3割程度に減りました。

自分はどれぐらいユーザーであるかの度合いに合わせて、判断軸をバランスさせる。自分の割合が減るのであれば、その分は周りの方の声などで補っていかなければなりません。

 

コミュニティ作りは“都会的な人間の距離感”で

ーー1年間という時間軸の中でチャンネル登録100万人というコミュニティ形成を達成されましたが、コミュニティ作りにおいて大切なことはあるでしょうか。

PIVOTの場合は「ユーザーが前を向ける学びコンテンツを創ろう」というのを、我々の行動規範でもあるPIVOT LAWSに含めています。

現在のメディアは、批判的な内容の方がページビューや再生数が増える傾向があるため、批判やネガティブな要素に偏りがちです。

私たちももちろんそういったコンテンツを提供することもありますが、原則としては視聴後により前向きな気持ちになれるようなコンテンツを増やすよう努めています。明るい話題や良い話題がある方が良いコミュニティになりやすいですしね。

悪口は調味料程度にして、基本的には「どう変えていくか」「どう行動するか」そういう前向きな話を聞いているとみんなポジティブになって、ポジティブなコミュニティになりやすいんです。

そういったものが少ない日本のメディアの中で、前向きなコンテンツを増やしていくというのは一つ挑戦だなと思いますね。

私はよく「コンテンツの力で経済や人を動かす」と言うのですが、そうした目標に少しでも繋がればと思っています。 

 

ーー「PIVOT」だけではなく「東洋経済オンライン」「NewsPicks」などのご経験の中から、ファンコミュニティ作りにおいて大切に感じることはありましたか。

コミュニティというのは濃すぎると飽きやすくなったり、一部の人だけが盛り上がっている間に他の人たちが冷めてしまったりすることがあります。

東洋経済オンラインは一方向、NewsPicksは濃密なコミュニティでした。PIVOTはその中間にある“都会的な付き合い”のような適度な距離感を目指したいと考えています。

都会的な付き合いだと、同じマンションに住んでいる人と濃密に関わることはありませんよね。それが心地よく感じられる距離感だと思いますし、そのようなバランスをうまく作りたいと思っています。

そのために、最初は自分たちだけでコンテンツを作り込み、徐々に開放していくのが良いと考えています。あまりにも早く開放しすぎるとメッセージが曖昧になったり、一部の人だけが盛り上がって「意識高い」と思われたりしてしまいます。

コミュニティ作りで大切なのは、適度な距離感だなと思います。

 

 

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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