#起業家の素養
「金融を“サービス”として再発明する」というミッションを掲げ、金融サービスを展開するための「クラウドインフラ」と「データ解析基盤」を提供している株式会社Finatextホールディングス。同社代表取締役社長CEO 林 良太氏に、経営者の素養や、組織づくりのポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)
スタートアップの失敗は“自爆”以外に無い
ーー御社は創業から10年経った今でも、創業メンバーが一人も辞めていないとお聞きしました。組織づくりについて、林社長のこだわりを教えていただけますか。
組織について、私は2つの観点を持っています。1つ目は『水戸黄門』です。
『水戸黄門』には、水戸黄門本人がいて、助さん格さんがいて、そしてうっかり八兵衛も、お色気担当の人もいますよね。
こういった多様なキャラクターがいて初めて、水戸黄門の物語が成り立つんです。それはつまり、バランスが大事だということ。
私は結構おしゃべりでノリノリなタイプです。でも、そういうタイプが3人もいたら、うるさくなってしまいますよね(笑)。そうすると、仲が悪くなってしまう。
ですから、お互いを「補完し合える」関係かどうかがまず大事です。
例えば弊社の伊藤 祐一郎CFOは、本当に天才なのですが、私とは補完関係にあります。だから対立せず、いつも素直に「すごいな、頭いいな」と思える。
そんなチームであることが重要だと思っています。
2つ目は、「絶対に裏切らない」という信頼関係です。
私は、スタートアップが失敗する原因は基本的に「自爆」以外に無いと考えています。
自爆というのは、トップがやる気を失った、不義理を働いた、仲間割れした、そんな場合です。
案外資金が尽きてもなんとかなるもので、これ以外の失敗理由はほとんどありません。
だからこそ、絶対に裏切らない関係性が必要なんです。
例えば、兄弟や家族のような関係。そういった絶対的な信頼関係を持てる人たちと創業するのが、実は一番良いと私は考えています。
ーー御社の場合、裏切らないと考えた方々を、創業メンバーとして口説いて集めたのでしょうか。
集めたわけではなく、むしろ自然に集まったという感じなんです。私はあまりメリットベースで、何かを得ようと思って人間関係を考えていません。
自分らしく一緒に過ごせる人たちが、運よく周囲にいたのだと思います。「自分らしく一緒に過ごせるか」というのは、例えば「『ロード・オブ・ザ・リング』を全部黙って一緒に見られるか」ということだと思っています。
全く喋らず9時間も一緒にいられるか。『ホビット』も入れたらもっと長くなりますけどね(笑)。
そういう人なら、努力しなくても一緒にいられるじゃないですか。そんな人たちが周りにいることが大事だと思います。
私は機能別でチームを組んでいません。だって、「経験」なんて調べて勉強すればキャッチアップできるでしょう。それよりも、一緒にやっていて楽しい人と働いた方がずっと良いはずです。
仕事が楽しくて、いい奴と働けて、給料がよければ、それ以外はどうでもいい
ーー御社は離職率が低いですよね。直接お会いして感じた印象では、会社がファミリーのような、組織文化が強いイメージがあります。林社長が採用や育成、文化などで意識されたポイントを教えてください。
私は組織を軽視しているわけではないのですが、組織力というのは、すごく流動的だと思っています。
会社として一番大事なのは、まず事業が伸びていること。それ以上に重要なことはありません。だからトップの仕事は、何より業績を上げることです。
その上で私が大事にしているポイントは、「自分がやりたいこと」と「会社がやってほしいこと」がなるべく合っていることです。
そして、もう1つは「悪い奴がいない」ということ。
例えば、仕事ができるし、多額の給料をもらっているかもしれないけど、人として全く尊敬できない、そういう人が会社にいないこと。
そして最後の1つは「給料がいい」こと。この3つ以外は全部おまけですよ。
仕事が楽しくて、いい奴と働けて、給料がよければ、それ以外はどうでもいい。逆に言うと、どれも欠けちゃいけないんですけど。私たちはそれをやっているだけです。
業績が良いからこそ、高い給料を出せて、魅力的な仕事ができて、良い人が集まるのであって、組織論として正しいことをやっている自覚は、実はありません。
あえて言うなら、私は「組織」が好きではないんです。
例えば、上司部下の関係とか、そういうのが私は嫌いなんです。能力ではなく肩書で誰かを飾り立てて、メンバーを管理するような、そんな「組織」では働きたくないなと思う。
弊社には、私より給料の高いメンバーも沢山います。能力のある人が公平に評価され、のびのびと働けるような、ライトな組織づくりを心がけています。
ーーそれは、ヒエラルキーをあまり作らないということでしょうか。
そうですね。
いわゆる「報連相(報告・連絡・相談)」も、なるべく行わないようにしています。
私は社内向けの活動があまり好きではないんです。業績に直結しないものはできるだけ避けたいと考えています。
例えば、「私にそんなに丁寧な報告をして、お客様は喜ぶのか?」と思うのです。そんな時間があるなら、お客様のところへ行って欲しいと思うタイプなんです。
一般的に、報連相を重視する傾向ってありますよね。でも、今の時代はSlackなどのツールがあるので、必要な情報はトップが自ら取りに行けばいい。そうやって、従来の報告・連絡・相談の仕組みも変わっていくべきだと思います。
ただし、これは業態によっても変わるでしょう。
例えば、大人数で動く必要があり、業務のマニュアル化が求められるような業態なら、しっかりとした組織構造が必要です。
一方で、私たちはお客様ごとに最適化したソリューションを提供することが中心で、常に新しいビジネスを創造していく業態です。なので、マニュアル化とは少し違うアプローチが取れるのだと思います。
更に言えば、結局のところ、私はこのやり方が好きなんだと思っています。
自分が好きで得意なことでないと、どこかでほころびが出てしまいますからね。
トップがビジネスを伸ばすために自分の性格を変えるのは、根本的に無理があります。そうではなく、自然体でいながら大きな成果を出せる方法があるはずです。
実際、私は私らしくやっているだけで、「仕事をしている」という感覚もあまりないんです。
ですから、私の性格に合わせた組織作りをしているだけなのかもしれませんね。
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家弓 昌也
名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。
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