「個のためのインフラを目指す、“森の管理人”に」株式会社クラウドワークス 吉田 浩一郎社長が「今後の展望」を語る(第4話)

上場した途端、突然オーケストラになることを求められる

ーー御社の中期経営目標「YOSHIDA300」には吉田社長のお名前もあり、事業成長への強いコミットメントを示されていると思います。上場をゴールではなく、通過点として捉え、会社を成長させ続けてこられた吉田社長の原動力はなんでしょうか。

上場というのは、一つの楽器を極めて達成するようなものです。ところが上場した途端、突然オーケストラを指揮することを求められる。

つまり、バイオリン一つで上場を果たしても、その後は突然PLだけでなく、BSやCFも当たり前のように見ることを求められ、株主効率も問われ、経験のないIRまで求められるということです。

いきなりプロフェッショナル経営者として扱われ、そこに必死に適応していかなければならない。この負荷に耐えられる人は多くありません。

ですから、個人として何がしたいのか、なぜ起業したのかという原点に立ち返ると、社会を変えるために一点突破で新しいことをやりたいという思いがあれば、上場後に経営者を退くというのは必ずしも悪いことだとは思っていません。

一方、この立場の良い点は、まさにプロフェッショナルリーグにいることです。自分が成長して結果を出せば、株価という形で評価され、世界中の投資家と対話できます。

例えば、2019年にソルトレイクシティへ行った際に、「私は2014年からずっとあなたを見てきて、ぜひ話がしたかった」と声をかけてくださった投資家の方がいらっしゃいました。

これこそが上場企業の醍醐味で、世界中のプロフェッショナルが同じ土俵で見てくれる素晴らしさだと思っています。

 

 

ーー突然プロフェッショナル経営者として扱われるとお話がありましたが、IRや投資家対応などで困ったときに、経営者としてアドバイスを求められる相手はおられましたか。

私の場合、上場前に3億円を調達して事業は成長していたのですが、「この先どうしていこう」という相談ができる相手がいなかったんです。

そこで思い切って青山ブックセンターに行き、経営の本を片っ端から買おうと決めました。その中で見つけたのが『132億集めたビジネスプラン』という岩瀬大輔さんの本でした。

その本に登場する谷家衛さんという方が132億円調達のキーパーソンだったため、「谷家さんに会えば132億円集められるかもしれない」と考え、マネーフォワードの辻社長を通じて紹介していただきました。

初対面の谷家さんに「私も132億円集めたいのですが、どうしたらいいでしょうか」と相談したところ、「まず業界が全然違いますし、社長のプロフィールも全く異なります。目指すものが根本的に違うので、132億円は目指さない方がいいでしょう」と言われました(笑)。

「では私は何を目指すべきでしょうか」と、失礼を承知で尋ねたところ、「サイバーエージェントの藤田さんの方向性が合うかもしれません。人を束ねる力で成長する経営スタイルの方があなたに向いているでしょう」とアドバイスをくださいました。

結果として、藤田さんとの30分の面談で10億円の投資を決めていただくことができました。

結局、私がしたことは本屋に行っただけなんです。アドバイスをくれる人が見つからない時は、本屋へ行くことも良い選択肢になるかもしれませんね。

 

インフラでつながる場を整備する「森の管理人」に

ーー最後に、御社の今後の展望についてお聞かせください。

当初クラウドワークスは、優秀なエンジニアやデザイナーをインターネットでマッチングするビジネスモデルとして始めました。ところが実際には、ライター、カメラマン、写真加工、Illustrator、Photoshopなど、様々な職種に広がっていきました。

200種類ほどの仕事がマッチングされるようになり、多様な働き手の現場を目にするようになりました。

当初はビジネスモデルとして始めたものでしたが、やればやるほど、これは社会における働き方の潮流の変化の一部を担っているに過ぎないと気づきました。

最初は「起業家として世界を変える」「ビジネスモデルを作る」という意識でしたが、実際には社会が先にあり、その複雑な構造の中に自分たちの役割があるのだと実感するようになりました。

2021年に掲げた新しいミッション「個のためのインフラになる」は、個人がインターネットを通じて人と繋がり、働くことが当たり前になってきている世の中を見据えたものです。

例えば、メンタリストDaiGoさんや西野亮廣さんが年収10億円規模の月額制サロンを運営していますが、これは資本主義の新しい形だと考えています。

従来は株式を発行して資金を集める方法しかありませんでしたが、月額制サロンは株式を発行せずに、インターネットを通じて個人から直接お金を集めることができます。

YouTuberも同様で、原理的には株式発行の必要がありません。

今は資本主義が新しい形に変容している時期だと考えています。1600年の東インド会社による自然財を対象とした資本主義、1810年からの工業財を対象とした資本主義を経て、210年後の2020年に来ています。

つまり、資本主義の転換点にあり、個人とインターネットによって新しいインフラを作る時代なのです。

私が考えるインフラは、仕事、教育、社会保障、コミュニティの4つです。現在は日本の法制度の制約から、社会保障以外の仕事を軸とした教育とコミュニティの展開に注力しています。

電力、水道、鉄道などのインフラ事業の社長の顔を思い浮かべることは少ないと思いますが、それがインフラという存在なのです。

私たちが作りたい世界観は、クラウドワークスに参加すれば仕事が見つかり、人と出会え、繋がることができ、自分のスキルを登録すれば誰かが必要としてくれる、そんなインフラです。

私自身の役割は、ミッションとインフラでつながる場を整備する人間です。

社内では「森の管理人」と呼んでいますが、森を眺めて整備するような感覚で、このインフラというミッションを実現するために、理想を実現していきたいと考えています。

 

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巻口 賢司

巻口 賢司

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本マイクロソフトに法人営業として入社。国内の大手企業におけるデジタル化の促進に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・カンパニーにて、スタジオ部門での映画の配給・マーケティングからコーポレート戦略部での新規事業開発など、幅広い業務に従事。2023年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。日台ハーフ・日英バイリンガルというバックグラウンドを活かし、グローバルな目線でのスタートアップ支援を志す。

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