
#インタビュー
「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」というミッションを掲げ、リアル店舗「@cosme STORE」やECサイト「@cosme SHOPPING」等、ビューティ領域でネットとリアルを効果的に組み合わせた垂直型の事業を展開する株式会社アイスタイル。同社代表取締役会長 CEO 吉松 徹郎氏に、起業家の素養や、大手企業との提携時の心構えなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの巻口 賢司が聞いた。(全4話)
ーー御社は創業初期から、サイバーエージェントとの合弁会社設立、AmazonやYahoo!との資本・業務提携など、大手企業との連携を先駆的に進められてきました。こうした連携を実現するにあたって意識された点や、大手企業との関係構築におけるポイントをお聞かせください。
私が大手企業と組む理由は、単なる事業提携による自社の成長のためというより、「競合を作らないため」というのが大きいんですよね。
例えばYahoo!さんも、当時はまだビューティー関連のサービスがなく、検索エンジンに記事が少し付いている程度でしたが、いずれ必ずビューティービジネスに参入するだろうと考えていました。
そうした時に、最大の潜在的競合になり得る相手と、こちらから手を組むという選択をしました。
実際にYahoo!さんとの商談で「今最も力を入れていることは何ですか?」と伺うと、「1位は検索、2位はコマース」とのことでした。
トップ5に化粧品やビューティーが入っていないことがわかり、「だったら私たちと組みましょう」という提案ができました。
「Yahoo! BEAUTY」は「@cosme」の競合ではありますが、立ち上げ時のクチコミサイトや商品データベースは全て私たちが提供していました。営業の現場からすると、「Yahoo! BEAUTY」と「@cosme」は広告で競合するものの、実はどちらもアイスタイルという同じ会社が作っている、という状況を作り出せたのです。
サイバーエージェントさんや講談社さんとの提携の場合も、同様の考え方です。
つまり、勝つためではなく、敵を作らないために様々な企業と手を組んでいく。これが私の資本提携における基本的な考え方です。
ーー競合を味方につけるという意図を持ちつつ、実際の対外的なコミュニケーションや交渉はどのように進められたのでしょうか。
かなりストレートに進めていましたね。
当時の私は提携候補相手の事業計画書を作ることに多くの時間を費やしていました。つまりYahoo!さんや講談社さんの事業計画書をこちらで勝手に作るのです。
もちろん彼らの戦略の全てを把握しているわけではありませんが、他社の事業計画書を作ることで非常に勉強になりますし、彼らの戦略も見えてきます。
例えば、「次は何をするのか」「何を考えているのか」といった分析をしていくと、「ビューティーマーケットに興味がある会社はどこか」が浮かび上がってきます。
そこから、「可能性がある」と思った会社の代表と会食の機会を設け、仮説を持って話を進めます。
すると、「実はその分野に興味があって」という反応があり、「では、協業の絵を描かせていただけますか?」と提案し、両社にとってのメリットを示していきます。
相手の立場からすると、新規領域に参入する際に自社の主力メンバーを配置することは難しい。しかし、その業界のトップ企業と組めば他社に対して優位に立てる可能性がある。そういった判断材料を提供することで、提携への機運が高まっていきます。
このように事業計画書を作成しながら、資本提携の話を進めていきました。
重要なのは、自社の事業のために相手とどう組むかではなく、相手の事業に自社がどれだけ貢献できるかという視点です。
それにより、競合を増やすのではなく、仲間を増やすような提案ができます。また、この過程で自社の強みも明確になっていきます。ですから、そういった事業計画書は沢山書いていましたね。
ーー大変興味深いですね。私たちベンチャーキャピタル業界では「事業シナジー」という言葉をよく使いますが、改めて考え直す必要がありそうです。
実際のところ、事業シナジーを生み出すことは難易度が高いのが現実です。
だからこそ、事業シナジーよりも相手の事業にどう貢献できるかという具体的な提案が重要ですし、相手にとっても理解しやすいのだと思っています。
ーー日本企業として初めてAmazonと提携を実現されましたが、実際にどのように実現されたのか、お話を伺いたいと思います。
上場している会社と非上場の会社の一番大きな違いは、「企業価値が日々変わる」というところだと思うんですよね。
未上場の時に資金調達する際は、「今、バリュエーションはいくらなのか」と聞かれます。「今は10億円です」とか「20億円です」と、自分で一定コントロールできますよね。「20億円で10%だから2億円調達しようとしています」といった具合です。
ところが上場企業では企業価値が自分の意図と反して日々変わってしまいます。
アイスタイルがAmazonさんと交渉し始めた時は、企業価値は400億円ほどでした。ところが、交渉中に日本のマーケットが悪化し、企業価値が急に100億円程度まで下がってしまったんです。事業内容は全く変わっていないにも関わらずです。
例えば、500億円の価値がある会社が100億円を調達する場合、20%の株式で済むところが、企業価値が200億円まで下がると50%も渡さなければならなくなります。
このように時間をかけた交渉条件が、両者の意思とは関係ない社会環境によって大きく変わってしまう。せっかく積み上げてきた話が白紙に戻ってしまいかねない状況でした。
デューデリジェンスでは他にも課題が出てきて、「IPOよりもずっと大変だな」と感じる場面が数多くありましたね。
この困難な交渉をなんとか成立させられた鍵は、まずは海外企業相手のコミュニケーション面で当社のCFO菅原が語学力を含めて対応できる人材だったことです。
他にも様々な要素が幸運にも噛み合ってゴールにたどり着けましたが、運だけではなく、先方もこのディールを実現したいという強い意志を持って尽力してくれたことが最大のポイントでした。
お互いに針の糸を通すように、実現可能な方法を模索しながら、両社で努力を重ねた結果、成功に至ったという実感があります。
未上場時代の「企業価値はこれくらいです。どうですか?」「ダメです」「では、こうします」という一方的な資本政策とは異なり、両社で社会環境の変化を見合いながら到達点を見出していったという点が特徴的でしたね。
ーーAmazonのような世界的企業との提携では、戦略の変更を余儀なくされたり、本来の希望とは異なる判断をせざるを得なかったケースもあったのではないでしょうか。その中で、ブレずに貫かれたポイントをお教えいただけますか。
実は、先ほどの話とポイントは変わりません。
Amazonさんは今や非常に強い企業ですが、ビューティー、ファッション、食品など、まだ成長余地のある領域もいくつかあり、それがチャンスになるかもしれないと考えました。
実際のところは分かりませんが、日本のファッション市場を獲得するならZOZOさんを押さえておく必要があり、化粧品分野であればアイスタイルは押さえる価値がある。
つまり私たちを本当に必要としている相手、提携が相手にとっても重要でないと上手くいかないわけです。
これは本当に恋愛と同じで、自分が相手のことを好きすぎてもダメだし、相手からも好きになってもらわなければいけない。この両方のバランスを考えることが、資本提携において非常に重要だと今でも思います。
相手からも好きになってもらう必要がある。「私は好きです」と一方的に言っても、絶対に上手くいかないということですね(笑)。
ーー組織構築に関して、必ず押さえておくべきポイントをお聞かせください。
会社の規模に関わらず、一緒に働こうとする人にとって最も重要なのは、「その会社が自分のキャリアにとって価値があるか」という点だと考えています。
アイスタイルを立ち上げた当初、従業員が10人、20人程度の頃は、規模が小さい会社には人が集まりにくいため、面談では必ず「この会社を辞めた後、何をしたいですか?」と質問していました。
そして「では、3年間ほど当社で経験を積んでから、その夢に向かいましょう。3年間一緒に頑張りましょう」という形で採用を進めていました。この基本的な考え方は今でも変わっていません。
志望者には何か実現したいことがあり、自己成長への意欲があって弊社へ来てくれるので、それを共に実現していけばよいのです。
新しいスキルを身につけて他社へ移っても構わないですし、また戻ってきてくれても歓迎です。
働いてくれる仲間たちにとって「ここでしか出来ないことがある場所」でありたいし、「成長できる場所」であってほしい。この想いを大切にし続けていきたいと考えています。
ーーそれは創業時から現在に至るまで一貫した方針なのですね。ただ、現在は吉松さんご自身が全ての採用に関わることは難しい規模になってきているかと思います。そんな中で、日頃から意識されていること、あるいは苦労されてきたことがありましたら教えてください。
私たちは、創業時から「逆三角形」という考え方を持っています。
野球で例えると、入社してくる社員の方々は「プレーヤー」として最も重要な存在です。
この人たちが主役であり、マネージャーや部長は「コーチ」という関係性を彼らと築いていく。そしてヘッドコーチ、監督へと成長していく。
つまり現場が最も働きやすい環境をつくることがマネジメントの役割なのです。
また、「優秀なプレーヤーだった人」がマネジメント職になるのではありません。むしろ、コーチにはコーチとしての独自の能力が必要で、そこからヘッドコーチへと成長していきます。
この逆三角形の考え方は社内でも共有され、現在もこの方針で運営していますし、会社もそういう形に発展してきました。
会社を立ち上げた当初は、私も「仲間と一緒に」という考えでプレーヤーとして動いていましたが、徐々にその立場から離れ、会社が大きくなっていきました。
サッカーを例にすると、フォワードやバックスは、システムや役割が違えば全く異なる動きをします。また、誰と組むかによっても役割は変化しますよね。
「固定的な役割があり、そこに人をはめ込む」のではなく、「チームの状況に応じて自分の役割が変わる」。常に周りを見て、隣の人が何をしているかを確認する。こういった考え方を私はよく伝えています。
「私の領域はここだから、この目標だけ達成すればいい」という考え方ではないのです。
サッカーでは、隣でプレーしていたバックスが突然前線に上がれば自分の守備範囲が広がりますし、相手が攻めてきたら全員で戻らなければなりません。
このような臨機応変さを持ったチーム作りを常に心がけてきましたし、今後も大切にしていきたいと考えています。
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